∥008-D 閑話休題・触手+光線銃=異星人?
#前回のあらすじ:エイプリルフールって・・・何?
[マル視点]
「『古のもの』、ですねぇ。恐らくは」
「それが、あの怪物の正体・・・?」
前回に引き続き、某・喫茶軽食チェーン店の内部にて。
最初に注文したメニューもひととおり食べ終わり、テーブルの上はおしぼりとお冷のみ。
すっかり片付いた景色を前に、そろそろこの時間も切り上げようか、と考え始めた頃。
帰るついでとばかりに、口にした疑問の答えが先程のようなものであった。
去る先日、南極大陸における戦いのクライマックスにて。
不定形の怪物『ショゴス』は追い詰められた末に、植物と動物の相の子のようなフォルムへと変化したのだ。
それまでとは全く異なる姿に面食らったぼくらは、そいつが手にしたレーザー銃めいた武器を前に大苦戦を演じるハメになった。
結局、なんやかんやの末に討伐する事自体は出来たのだが、あれが何だったのかずっと気になっていたのだ。
太古の昔に実在した、名も知れぬ怪物の姿か?
はたまた、これまでに捕食した生物をでたらめに組み合わせた、キメラめいた生命体なのか?
ショゴスが擬態したものの『正体』、それは如何なる生命体だったのだろうか?
答えが得られるとは半ば期待せず発した疑問は、意外にもあっさりと氷解する形となった。
オウム返しにその名を呟きながら、ぼくはまじまじと真調のお猿めいた面を見つめ返す。
「五つの頂点を持つ、海星めいた頭部。樽状の胴体、細く枝分かれしたしなやかな触腕・・・。チミの語った特徴は、『死霊秘法』に記されたとある存在と符号します」
「それが―――『古のもの』?」
「ですねぇ。かつて、太古の地球へと飛来した・・・いわゆる地球外生命体、というヤツですよ」
「まさか、実在する生き物―――それもエイリアンの姿だったなんて!」
老人が語るまさかの正体に、ぼくは小さく叫びをあげる。
奇怪な姿だとは思っていたが、それがまさか、異星人だなんて!
事実は小説よりも奇なり、とは正にこの事だろう。
「と、言うか・・・。『狂気山脈』にあるっていう、異星文明の遺跡って・・・まさか?」
「その、まさかですねぇ。かの都市遺構を築いた存在も、チミの見た異星人も、同じ存在だった訳です。尤も―――当の『古のもの』は、とっくの昔に絶滅しているようですがねぇ。それも、他でもないショゴスの反乱がきっかけとなって」
「そうだったんだ・・・」
―――かつて、南極大陸を支配したという、異星文明の主。
それこそが、ショゴスが最後に取った姿の、正体であったのだという。
言われてみれば、触手を備えた奇怪なフォルムや、レトロSFめいた武器などは異星人に事欠かない要素だ。
予想だにしない事実を前に、ぼくは思わず嘆息を漏らすのだった。
「恐らくですが・・・。その個体は遥かな昔、己の主人を喰らったことがあるのでは無いでしょうか?その姿だけではなく、道具まで模したとなれば、直接取り込んだ経験があると考えたほうが妥当ですからねぇ」
「それって・・・どのくらい前の事なの?」
「南極大陸の気候が今のように、寒冷化した後だそうですから・・・。ざっと、今から34000万年前より後の出来事でしょうねぇ」
「さ、34000万年!?あの、でっっかいショゴスが、そんなに長生きだったっててコト・・・!?」
「少なくとも、『狂気山脈』の遺跡が荒廃するよりは前のことでしょうし、相当の昔なのは間違いないでしょう。チミが遭遇した怪物はそれだけの年月、生存競争に勝ち残ってきた訳です。それを相手に、よくもまあ生還できたものですねぇ・・・エライエライ!」
「ま、まあ・・・?主に敵を倒してくれたのは、我猛さん達、基地の皆さんでしたけれどね!」
ジェスチャーを添えて、わざとらしく賞賛を送る怪しいジジイ。
そんなしぐさに辟易しつつ、ぼくは酷寒の地における戦いへと思いを馳せる。
かの地においてぼくらは、未知の怪物『ショゴス』、そして宿敵である【彼方よりのもの】と相対した。
生きるだけでも大変な氷点下の環境、雪と氷に閉ざされた荒廃した大地。
こいつに言われるのは少々シャクだが、あの窮地から生きて帰れたのはひとえに、幾つもの幸運に恵まれたお陰だろう。
「ところで、ついでに疑問なんだけれど・・・。さっき言ってた、『死霊秘法』って・・・?」
「おや、気になりますかぁ?」
「えーと・・・まあ、はい」
話題が一段落ついた所で、ついでとばかりに先程耳にした、気になるワードについても聞いてみる。
『死霊秘法』。
何処となく聞き覚えのある、不穏な響きの言葉だ。
それを何処で耳にしたか、或いは目にしたのか。
どうにも思い出せず、ぼくはモヤモヤしたままじっと返答を待つ。
片目を瞑って何事かを考えた後、真調はニタリと笑うと、再び口を開くのだった。
「・・・ま、いいでしょう。―――『死霊秘法』。原題を、キタブ=アル=アジフ。イエメンはサナアの魔術師、アブドゥル=アルハザードによって著され、後世へと伝えられた稀代の魔導書です」
「ま、魔導書・・・?何でそんなものに、ショゴスの名前が?」
「さて・・・?ボクチンも、それは知りませぇん。何しろ、8世紀頃の人物ですからねぇ。それを直接目にしたのか、はたまた、彼の魔術師が知識の源泉とした、『何か』が語ったのか?今となっては知る由も無いでしょうねぇ」
「そんな、昔の本なんだ・・・」
老人はそう言うと、大げさな仕草で肩をすぼめて見せる。
―――魔術師とは、世の理の外、この世ならざる知識を取り扱う専門家だ。
人の世から外れ、世界の奥底に秘された知識を求めた者達。
その中でも、世にあまねく詐欺師紛いの輩ではなく、後世にまでその名を遺した『本物』へと知識を与えた存在。
世界の秘密を知る『もの』―――それは神か魔か、はたまた高次元世界の生命体か。
何れにせよ、彼の魔導書の一節に、ショゴスの名が記されていた真の理由は、今や歴史の闇の彼方だろう。
「に、しても。何がそんなに気になったんだっけ?確か、何処かで聞いたと思うんだけれど・・・」
「それはですねぇ・・・。恐らく、歴史の教科書じゃあ無いですかぁ?1945年、第2次大戦終戦間際の米国にて。17世紀ラテン語版の『死霊秘法』が使用されて以来、北米大陸の東半分は人類の版図じゃあ無くなっちゃいましたからねぇ・・・。今となっては何処の誰でも知っている、歴史の転換点という奴です。お忘れですかぁ?・・・キヒヒヒヒ!」
「・・・あっ!?」
奇怪な笑い声を上げる老人につられ、、ぼくはあっ、と叫びを上げる。
・・・何で忘れていたんだ、こんな大切な事を!
―――『死霊秘法』。
今の人類が、絶滅に向けて突き進む事になった元凶。
そして、全人類に最悪の魔導書として、その名を知られる存在。
現在、【敵性人類】の一つとして『深きもの』が分類されるようになったのも、当時の諸々に端を発している。
それは世紀末の間際の時代を生きるぼくらにとって、一般常識と言っても良い事実であった。
そう、今更言うまでもないが―――世界は人類絶滅戦争の真っ只中にある。
超大国アメリカが崩壊してより、およそ60年。
かつての大統領官邸は万魔ひしめく死霊の館と化し、そこから湧き出る魑魅魍魎の軍勢は北米大陸を席巻しつつある。
西へ西へと進軍する異形の軍勢と対峙するのは、現アメリカ―――『アメリカ合屍国』。
ミシシッピ川流域を境に、北米大陸は左右へと引き裂かれている。
人の世が終わるかどうかの瀬戸際、終末戦争の最前線が其処に在るのだ。
現在、北米中央戦線は世界各国の義勇軍による多国籍軍+在西アメリカ軍 VS 神話生物・・・という、混乱を極めた状況にある。
ここらで一つ、おさらいをしておこう。
第二次世界大戦を皮切りとして、大きく歪んだ歴史を歩むようになったこの世界。
その始まりと、今に至るまでの―――足跡を。
今週はここまで。




