∥008-C 閑話休題・三度の飯より味噌カツサンド!?
#前回のあらすじ:くっころ!
[マル視点]
引き続き、喫茶店にて。
ぼくは怪しいジジイの対面でちびちびとソーダを舐めながら、チンパンジーめいたその顔を睨みつけていた。
一見、知性も品性もなさそうな外見であるが、これで中々、油断のならない奴なのだ。
つい先程も、こいつの誘導尋問に引っかかりあれこれと余計な情報まで吐かされてしまった。
これ以上、翻弄されてなるものか―――と警戒をあらわにしていると。
怪しいジジイは困ったように肩をすくめ、こう嘯くのだった。
「―――と、まぁ。念のため、確認はしましたがねぇ・・・。実のところ、『深泥族』のみなさんが健在だろうと何だろうと、ど~でも良かったんですよねぇ。ボクチンとしては」
「えぇ!?・・・いやでも、確か政府のヒトが彼等を抹殺しようとしてる、って―――!」
「危険性があれば、の話ですよ。実際、あなたの目から見て彼らにそんな気があるように見えました?後はどうなろうと、政府とコトを構える気がある・・・と?」
「それは―――」
それは端的に言えば、ノーだ。
記憶にも新しい、北海の大決戦にて。
彼等は政府機関が有する施設への襲撃を繰り返していた。
しかしそれも、故郷の地を汚染され、同胞を囚われたが故の行動であった。
知れば知るほど、そうするのも当然の状況に追い込まれていた彼等だが―――今ならどうだろうか?
【学園】に身を寄せ、仮とはいえ現在、彼らは安住の地を得ている。
更には放射線に蝕まれた身体も快復し、差し迫った問題は既に解決済みだ。
事の発端となった故郷の汚染についても、ヘレンちゃんの協力により解決の目途は立っている。
(【彼方よりのもの】の一件が片付いた後、という条件付きではあるが)
元より、外部に不干渉気味であり、地上への興味も薄い種族である。
敵対の原因も消えた今、政府と事を構える理由はすでに無いというのが、ぼくの見立てだった。
「無いと思い、ます。許す―――と言うより、元々あまり『敵』として見られて無かったんじゃ無いでしょうか?故郷が汚染された事も、自然のふるまいの一環だと捉えてたみたいですし・・・」
「成程。自然のままに生きることを良しとする、彼等らしい判断ですねぇ」
「まあ、地上に出稼ぎに行ったヒト達が、軟禁状態に置かれていた事は許容範囲外だったみたいですけど・・・。それも解決した以上、敵対する理由はもう無いんじゃ無いかな?・・・あ、そっくりさんの話ですからね、一応!」
「その設定、まだ続けますぅ?」
最後に、あくまで無関係アピールを付け足すぼくに、真調は呆れたように呟く。
そんな訳で、久しぶりに顔を合わせたぼくらは目下の懸念事項であった、『深泥族』について認識合せを済ませたのだった。
・・・話が一段落ついた所で、再び先程のウェイトレスがお盆片手に現れる。
「お待たせしましたあー。ごゆっくりどぞー」
「これこれ。この店に来た時は、一度は頼まないとねぇ」
「わ~お・・・」
ことん。
テーブルの上に置かれたバスケットの中には、ボリューミーなサンドイッチがみっちり詰まっていた。
厚切りの食パン2枚で大振りなトンカツを挟むという、何とも贅沢な一品だ。
切り分けられた断面から覗くのは、カラッと小麦色に揚がった衣とジューシーなお肉のコントラスト。
更に外側の層へ目を向ければ、衣とパンの間から顔をのぞかせるのは目にも鮮やかな刻みキャベツの緑色。
ふわり、とここまで漂ってくるのは、甘さと旨味を感じさせる芳醇な香り。
これはあれだ、味噌。
いわゆる一つの味噌カツサンド、名古屋メシの代表格である。
今や全国的にも有名となった郷土料理、そのサンドイッチ版という訳だ。
炊きたてのご飯をサンドイッチにコンバートした代物であるが、たったそれだけとは思えぬポテンシャルを感じる。
そして―――見れば見るほど、凄まじいボリュームであった。
「味噌カツを出す店には何度も行きましたが・・・。結局、ここ以上の物をお出ししてくれる所って、殆どないんですよねぇ~。老舗のトンカツ屋くらいでしょうか?大手チェーンの丼物屋はな~んか、違うんですよねぇ・・・」
「・・・ごくり」
「キヒヒヒヒ!・・・一切れくらい、行っときますぅ?」
「くっ」
声をひそめて囁かれる、悪魔の誘い。
それを前に腹の虫が騒ぐ気配をひしひしと感じながら、ぼくは必死に視線を背けた。
屈するもんか、ぼくはお家に帰ってお父ちゃんとお昼を食べるんだ―――!
なけなしの忍耐力をふり絞り、ぼくは女騎士のように呻く。
ぶんぶんと首を振る様子に「そうですかぁ」と呟くと、真調は大口を開けてサンドイッチにかぶり付くのだった―――
今週はここまで。




