第503話 ジョブアリ・オブリージュ
「ふぅん、なるほどねぇ……つまり、『勇星十字団』はまだハピナには早かったってことか。残念だけど、しょうがないね。じゃ、僕はもう行くから」
「待って待って、待つのですコタローッ! 行かないでぇええええええええええ!」
大勢の冒険者で賑わう管理局ロビーの隅っこで、ハピナから事情を聞いた僕は、助ける義理はないねとサヨナラすれば、ギャン泣きしながらしがみ付いて来やがる。
おいおい、おチビ同士で痴話喧嘩か別れ話か? と言わんばかりに好奇の視線が集まり始め、あまり目立ちたくないこっちの僕からすると、非常によろしくない流れ。
はぁ、女の人っていつもそうですね。都合悪くなると泣き出して、泣くだけで周囲の人から無条件で可哀想バフを受けつつ、泣かせた野郎が悪いデバフを同時にかけてきやがる。
こちとら小鳥遊呪い殺してきてんだ、女の涙に完全耐性持ってんだよ。
「分かった分かった、ホントにしょうがないヤツだ。で、ハピナはどうしたいワケ?」
「ううぅ……ど、どうしたらいいかも、分かんないのですぅ……」
なるほど、分からないところが分からないという、勉強できない馬鹿が陥る最初の障害だな。どうするべきか、その最初の一歩から躓くから、どうにもならずにどん底のままという。馬鹿みたいだけど、馬鹿には出来ない、なかなか根深い問題である。
「いや適当にパーティ組んで『母なる祈り』ゴリ押しで、第三階層のボスくらいは倒せるでしょ」
階層主こそ強いが、第三階層の広大な各エリアには色んな種類のボスモンスターがいる。それは単純に古代遺跡の機能によって常時供給されるのもいれば、ダンジョンの自然環境が育んだ歴戦のボス個体だったりと、タイプは様々。
ちなみに僕らが倒してきたスケイルレスは、遺跡機能でリポップするタイプ。なので、中級冒険者の力試しとしてよく利用されているようだ。
「でもっ、それじゃあ『大地賛歌』と同じことになっちゃうのです」
「いいじゃん、結果だけ出せれば」
ハピナの最初のパーティである『大地賛歌』の練度不足の問題は、メンバーが家族同然の大切な者達で構成されていたからこそ深刻だったのだ。
臨時で組むだけなら、ハピナはあくまで超強力なバッファーに過ぎない。
あの全能強化たる『母なる祈り』を受けて、メンバーがそれに頼りきりになったり、自分の実力を勘違いしたりしても、それはハピナの責任ではない。ハピナはあくまで『祈祷師』としての役割を果たしたに過ぎず、臨時パーティを組んだなら、パーティ内の役目をこなせば、そこに文句は無いだろう。
折角チート祈祷持ってるんだから、その性能を存分に活かし、適当な奴らを強化させて成果を上げるまで利用する、くらい割り切ってやればいいのだ。
上手くいけばハピナは晴れて、天下の『勇星十字団』様だ。ほんの一時組んだだけの連中に、情けをかける必要などない。
「そんなのダメですよ! ハピナは……ハピナはちゃんと、仲間としてパーティを組んで、役に立ちたいのです!」
「それ自分が凄い贅沢言ってる自覚ある?」
背中を預けられる信頼できる仲間、肩を並べて戦える頼れる仲間。冒険者は、そんな素晴らしい仲間と常に組めるとは限らない。
僕もこのサウスバロン支部では新参もいいとこだけど、一週間も通えば、色んな人達が色んな思惑で組んでダンジョンに潜り、上手くいったり、大失敗したり、という冒険模様を伺い知ることが出来る。
ハピナのように地方から一人でやって来る若者なんか、この支部には特に多いし。
そうした者はひとまず同ランク帯や同年代で組むものだが、基本的に彼らには仲間を選ぶような権利はない。似たような連中は掃いて捨てるほどいるのだ。組む仲間を選り好みしているような奴は、あっという間にハブられる。
だから大抵の奴らは、すぐに自分を押し殺して、周囲と合わせることを覚えるものだ。多少の理不尽は耐え、パーティの和を維持する。崩壊すれば自分は厳しいソロに逆戻りと思えば、少しは我慢強くなる。
叩き上げの冒険者というのは、往々にしてそういった経験も積んでいる。反りの合わない奴、信用できない野郎、生理的に無理なニンゲンでも仲間として、共に戦わなければならない状況に陥ったりもする。
僕も最悪のハーレムパーティとかで、メンタル鍛えてきたしね?
「まっ、そういう経験含めてやってきてね、ってコトなんじゃないの」
「あうぅ……ハピナが、まだまだ甘かった、ということなのですね……」
若い頃の苦労は買ってでもしろ、なんて老害みたいなことを言う気はない。
嫌な言葉だ。若い奴らには幾らでも理不尽を押し付けていい、という正当化に使われているのしか見たこと無いよ。
若い頃の苦労とは、自分の成長に寄与する価値ある経験であって、断じて上からの理不尽に耐え忍ぶ奴隷根性を養うことではない。スキルアップさえできるなら、苦労のない楽勝チート育成法みたいなのでもいいわけで。むしろそっちの方が効率的かつ精神的にも良いだろう。
ともかく、ハピナに必要なのは更なる成長をする経験だ。『勇星十字団』の実力主義も伊達ではないね。見込みはあるかもしれないが、悠長に世話を焼いて育てるほど手をかける気はないから、成長して這い上がって来れば入れてあげる、というスタンスは効率的である。
随分とお高くとまった態度ではあるが、『勇星十字団』は最強のブランドがあり、女勇者リリスがいる限りその価値が落ちることも絶対にない。
「甘いと思えたなら、ちょっと一人で頑張ってみればいいよ」
「はい……まず、自分でやってみるのです」
どうやら僕の言い分に納得したらしいハピナは、ちょっと自信なさげになりながらも、今日の探索を終えて賑わっている冒険者の群れへと向かって行った。
「……いいのか」
空気を呼んで離れてくれていたシルヴァが、ハピナが去った後で僕にそう問うてきた。
まぁ、僕に泣いて頼って来た、というのは一目瞭然だからね。本当に大丈夫なのか、と傍から見てれば心配にもなるだろう。
そういえばシルヴァも、最初に組んだのは右も左も分からないくせに、クソ生意気なド新人だったというし。ああいうのを見ると、放っておけなくなるのだろう。
しかしハピナは、聖女になるという大望を抱いている。
共にフルヘルガーと戦った大切な仲間の一人として、僕はその意志を尊重する。だから僕の仲間になれ、と誘うこともしなかった。いずれアストリアの敵となるだろう僕は、パンドラ聖教の聖女とは敵対する可能性が高い。
ハピナが夢を叶えるならば、僕と組むことは後々になって大きな枷となってしまう。
「だから、これでいいんだよ」
「そうか……」
そうして、僕は踵を返して、今度こそ仲間達と共に酒場へ繰り出すぞ、と思った矢先、
「へぇ、ハピナちゃんって言うの? カワイイ名前だね」
「ちょうど貴女みたいな人を探していたところなの!」
「ねぇ、私達と組んでみない?」
「俺達この辺のこと詳しいから、色々教えてあげられるよ」
速攻でハピナが絡まれているところを見た。
一見すると、実に和やかなパーティ勧誘である。相手方は若い男二人、女二人、と男女バランスもとれており、傍から見て下心全開のナンパ目的のようには見えない。
装備も新人を脱した頃合いのグレードで、冒険者にしては割と小奇麗な身なり。粗暴で荒くれのテンプレイメージの冒険者ではなく、彼らはまるで私立大学に通って楽しくサークル活動やってますといったフレッシュ爽やか雰囲気である。
如何にも駆け出しの新人が、最初に憧れる冒険者パーティの空気感が漂っていた。
だが僕は知っている。いや、たとえ知らなかったとしても、僕の目にはハッキリ映ってしまうから、嫌でも気づいてしまう。
奴らが明確な悪意を纏った、詐欺師でしかないことを。
「おい、ハピナ、何やってんだ、今夜は飲みに行くんだからさっさと来い」
「えっ、コタロー?」
溜息を吐き出す暇もなく、僕はさっさとハピナに近づき、その手をとって強引に引き寄せる。
「ちょっとちょっと、君ぃー、いきなりソレは無いんじゃない?」
「その子、俺らと話してたことなんだけど」
「もう成人したから、やっとハピナもお酒飲めるね。まずはエールで乾杯だ」
「えっ、ええぇ……」
詐欺師共がなんか言ってるし、ハピナも急激な僕の掌返しに目を白黒させているが、構う必要はない。
そのままハピナを引っ張って行く。
「ちょおっ、待てよぉ!」
シカトを決め込む僕に痺れを切らしたように、一番年長らしき詐欺師野郎が声を荒げて、その手を伸ばすが、
「おい、ウチのボスに何か文句あんのか?」
「コォオオオオ……」
僕の両サイドをガッチリ固めるボディガードのように、ウラガと屍人形ジョンが詐欺師野郎の前に立ち塞がる。
詐欺師野郎は身長はそこそこだけど、この二人は成人男性の平均身長など遥かに上回る巨漢だ。ガタイが強さの全てではない。ないのだが、低ランクで体格を凌駕する実力を持つ者などそうそういない。そんなに強ければさっさとランクアップしてるし。
「あっ、大丈夫っす……」
一目で絡んだらまずいとお察ししてくれて、詐欺師野郎は仲間を連れてさっさと冒険者の群れの中に紛れるよう消えていった。
そうそう、初心者カモるなら、僕の見えないところでやってくれ。
「もう、コタロー、なんなんですかぁ! 折角、ハピナが自分で見つけた組めそうな人達だったのにぃ」
「お前は本当に世話の焼けるヤツだな」
危機感皆無にそう口を尖らせるハピナに、僕は今度こそ深い溜息を吐いた。
やれやれ、折角、無職の意地を謳ったパーティ名にしたのに、ハピナが加わったら『ジョブアリ・オブリージュ』になっちゃうじゃないか。
◇◇◇
翌朝――――と、時間を飛ばして語るのは簡単なことだけれど、ここに至るまでの間にも僕は更なる苦労を重ねることとなった。
まずは仕方なくハピナをパーティに加えることにしたので、その日の飲み会は歓迎会も兼ねることとした。ウチのパーティはウラガ以外全員コミュ障だからいきなり新人連れてきても微妙な空気になりそうだけど、今の内に紹介しないワケにもいかない。
でも、そこまでは良かったんだ。ハピナは天職『祈祷師』で、あの『勇星十字団』に推薦されるほどの実績を持つ、同年代では上澄みも上澄みの位置にいるような奴だ。戦力的には大歓迎、無名のパーティなんぞに在籍するのは場違いもいいところである。
ハピナが酒の勢いもあって、自慢げにフルヘルガー討伐やゴーマ村脱出というガチ武勇伝を語れば、場も盛り上がったものだ。
しかしそこから先がまずかった。
ハピナが吐いた。
このっ、甘くて飲みやすいからってガブガブしやがって。アルコールの酩酊感に自分語りで気持ちよくなって、さらに飲んで食って。初めての飲酒で自分の限度も知らないのに、調子に乗った結果がコレである。
僕が介抱させられた。
部屋に連れて寝かせて、起きたら二日酔いに苦しむので薬をくれてやったし、というか着替えまで僕に手伝わせんな! どこまで甘えりゃ気が済むんだ、お前のママじゃねーんだよ!!
もうハピナの介護役として、妖精神社で働いている姉貴を呼ぼうか、と本気で考えてしまうほどの苦労を重ねて、ようやく僕は本日のダンジョンへとやって来たワケだ。
「えー、というワケで、今日からパーティリーダーを務める『祈祷師』のハピナさんです」
「はっ、ハピナです! よろしくお願いします!!」
「えっ、この子がリーダーになるんすか?」
元底辺チンピラだが、すでにしてパーティ内での常識人枠となりつつあるウラガから、実に常識的な質問が飛んできた。
「心配しなくていい、あくまで表向きの肩書だし、ハピナはこれからパーティリーダーとしての役目を覚えるために、やらせるというだけ。みんなのことは、ちゃんと僕が見てるし、いざって時は僕が指示するから」
「なら安心っすね」
素直なことは美徳だが、君はもっと突っ込んで聞いて疑うことを覚えた方がいい。僕がただのギャング野郎だったなら、君みたいのは都合よく使い捨てるだけ。誰かの出した指示を妄信しているようでは、気づいた時には詰んでいるのだ。
君も折角、力を得たんだ。その辺もこれから学んで行くといいよ。
「僕らはまだまだ、新しいパーティだ。ウラガもトーナもランク1で、駆け出しの素人集団さ」
「……新人パーティが、スケイルレスを倒したりは、しない」
「それも表向きの話。僕だってギルカではランク1って書いてるし」
ちなみにジョン・ドゥもランク1である。
よって、このパーティではシルヴァが唯一のランク2であり、メンバー構成だけ見れば年長者でワンランク高いシルヴァが、新人を面倒見ているような形に思えるだろう。
「ハピナは本物のランク3だから、いきなりリーダーになってもそう違和感はないよ」
「えへへぇー」
「皆さん、よく見ておいてください。これが天職の力だけでランクアップして、ロクに基礎も身についてない冒険者の姿です」
「えっ、ハピナ褒められてないのです!?」
当たり前だ、身の程弁えろ。世の中の普通のランク3ってのはな、黒髪教会のオッサン連中みたいなベテランのことを言うんだよ。天職なんて特別な才能が無くても、努力と経験で実力を磨き上げてきた者達だ。面構えが違う。
ハピナはフルヘルガーなんて大ボスとの戦いを経験しても、まだ穢れを知らない純真無垢みたいな目をしやがってよぉ……お前が聖女になる頃には、歴戦の傭兵みたいな雰囲気にさせてやる。眼帯とかつけてそうなヤツな。
「ハピナもみんなも、これから冒険者としての実力を身に着けていくところだ。シルヴァはとっくに基礎が固まってるけど、第三階層以降の探索は未知の領域でしょ。僕らなら、すぐにその辺まで行けるようになるから、それまでは後輩を育てる気で付き合ってよ」
「ああ、問題ない」
シルヴァはコミュ障だけど、広い視野を持っていて、常にメンバー全員の動きを把握している。僕が何も指示出さなくても、彼がいるだけで中層辺りまでは何の問題もなく探索できるけれど……ハピナがリーダーを務めるならば、シルヴァのそういった目には見えにくい働きにも、気づけるようになってもらわなければいけない。
それが出来ないと、シルヴァの前の相棒のように、戦力不足と決めつけて辞めさせたりする典型的な無能追放ムーブを無自覚でやらかすことになりかねない。
リーダーとは、一人でみんなを助けるヒーローじゃない。全員の力を最大効率の最大限に引き出すための役目を負う者だ。それが出来るなら、一番弱くてもいいのである。
蒼真悠斗はそこを理解せず、ずっと「俺がみんなを守るんだ!」と独りよがりの戦いをしていたせいで、クラスメイトの犠牲を出し続けた。
その点、『祈祷師』のハピナは自分自身の強さに依存するようなことにはならないだろう。
とはいえ、夏川さんにボールで完封されたように、せめて一人でも最低限何とか出来る実力は必要だけど。
「さて、それとは別に、晴れてパーティを結成した今だから、改めて言うけれど――――みんな、僕のために働いてもらう」
シルヴァ、ウラガ、トーナ、僕が直々にスカウトして力を与えた三人には、個別に伝えてはいることだ。
僕には僕の目的があって、仲間を募っていると。
君達に相応しい力は無償で与える。その代わり、僕の目的のために冒険者をやってもらう。
その肝心の目的については教えていない。信用できないと思えば、去ってもらっても構わないが……一度手にした力は、そう簡単に手放すことはできないだろう。
「とは言え、基本的に普通の冒険者活動をするだけだ。誰かを暗殺するだの、破壊工作するだの、そういうことはしないと約束しよう」
「俺は……すでに、お前について行くと決めた」
「へへっ、アンタが俺のボスだぜ。好きに命令してくれよ」
「ふぅ……ぁっす……」
ありがとう。そしてありがとう。いつだって仲間からの信頼は心地よいものだ。
この僕も所詮は分身、偽物の上に隠し事ばかりだけれど、それでも出来得る限り、君たちが冒険者として成功できるよう尽くすよ。
「それじゃあ早速、『ジョブレス・オブリージュ』最初の探索に出発だ。今日は第一階層を隅々まで回るだけだから、気楽に行こう」
◇◇◇
「今こそ我が手に、母なる大地、大いなる地母神のご加護を!」
「むっ、これは……」
「うぉおおおおっ、なんだコレぇ、なんかスゲーぞっ!?」
ハピナの十八番『母なる祈り』が発動した瞬間、元から押していた戦況は完全にこちら側に傾いた。
シルヴァは残像を映す速さで斬りまくり、ウラガはハンマーを振り回す度に爆音と衝撃波が駆け抜ける。改造人間二人だけで前衛戦力としては十分過ぎるのに、ここに全能強化も入ったジョン・ドゥもついでに暴れている。
「パワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーッ!!」
そして後衛たる『祈祷師』ハピナも、『ガイアパワー』を重ね掛けして、ハピマルに乗って突撃。強化をかければハピナは前衛に並べるパワーを発揮する。
昔の桜ちゃんなんて、前衛張れるくせに日和って前に出なかったというのに、こういう場面で躊躇せず突っ込めるのはハピナの良い所だ。
「うーん、やっぱ普通に強いんだよなぁ」
ゴーマの軍団相手に無双状態のメンバーを見て、僕はしみじみ呟く。
ここはシグルーン大迷宮の第一階層。中でもあまり探索しても旨味がないくせに無駄にだだっ広い、森と草原と遺跡が少々の、ダンジョンとして非常にスタンダードな構成のエリアである。
薬草系の基本的な素材採取の収穫こそそれなりに見込めるが、希少素材やら宝箱はまず期待できない、大当たりのない場所だ。新人が訓練がてら回るのにはちょうどいいかもね、という感じなので、当然のように人も少なめ。年中、他所からの新人マシマシのサウスバロン支部から入ってもこの有様なので、僕らの周囲には全く他の人影はない。
ただ豊かな自然と冒険者の少なさが合わさると、すかさず湧いてくるのがゴーマという奴らだ。ここを我らの王国とする! と言わんばかりに、大勢引きつれて大規模な開拓を行う一団を、僕はちょうど発見した。
数だけは多く、ゴーヴ戦士も小隊規模で編成されている。本当にただの新人冒険者では手も足も出ない戦力だが、僕らの肩慣らしにはちょうどいい相手だ。
すでに簡易の木柵や見張り台なんかが建てられている開拓拠点を、僕らは襲った。
その結果はご覧のあり様。
主力たるゴーヴ部隊は早々に壊滅し、あとは数ばかりでギャアギャア騒ぐだけの雑魚ばかり。強化なんかなくても、素のスペックで殺戮できる。
前衛組を正面から突撃させて派手な大立ち回りをしている間に、僕とトーナで他の出入口を錬成で柵と一体化させて塞ぎ、奴らの逃げ場を潰しておいた。これで拠点のゴーマは袋の鼠。外へと通じるのは前衛組が陣取る正面だけ。一匹も逃がさず駆除できる。
「なぁ、これってゴーマの子供、だよな……?」
「ウラガ、子ゴーマもしっかり全部潰さないとダメですよ! 一匹でも残していたら、ゴーマはすぐ増えるですからね!」
えい、えい、と掛け声だけなら可愛らしいが、死んだ母親に縋りつくようにして震えていたゴーマのガキ共を、ハピナは情け容赦の欠片も無く次々と杖で撲殺していく。
いいぞ、ハピナ、僕の教えがしっかり活きているな。
フルヘルガー戦の前に、ハピナと二人でチャバゴーマの本拠地を潰した時は、まだウラガみたいに子供相手に躊躇してたよね。
でもね、それは子供じゃない。ゴーマなんだ。情けなどかけてコイツらを生かしたら、次は人間の子供が食われるかもしれないんだ。ゴーマ死すべき、慈悲はない。
僕は誰よりもゴーマ文化に詳しいので、彼らには親子の愛やら仲間の絆やら主従の忠誠といった、人間らしい感情をゴーマも持っていることを知っているが……それはそれ、これはこれ。
ゴーマは決して人間と相いれない不倶戴天の敵。百害あって一利もない、駆除すべき害悪モンスターである。
ということを滔々と語りながら、泣き叫ぶハピナの手を握って子ゴーマの頭を連続スイカ割りした思い出が蘇る。
今はハピナの方が、温い情けを抱く後輩に、厳しい指導をする立場になるとは。これぞ受け継がれる意志。感動的だね、僕は嬉しいよ。
「完全に虐殺じゃねぇか……」
「虐殺じゃないです。駆除なのです」
覚悟の決まった目で、しっかりウラガにそう言うハピナは、立派な先輩冒険者であった。
「でも、ゴーマなんて何匹殺したところで、大した成果にはならないからなぁ」
こうして少し一緒に探索しただけでも、ハピナの成長は伺い知れる。少なくとも、始めて出会った頃のような甘っちょろさは随分と無くなったように感じる。低階層を回るくらいなら、特に危なげない様子。
僕の子を身籠ったと恥ずかしい勘違いをして、一人出て行った後のソロ活動も、きちんと成長の糧にはなっているようだ。杖を振り回して戦う近接戦闘の立ち回りも、なかなか堂に入っている。特に自分の祈祷で強化しているから、かなり正確に強化後のパワーを理解して戦っているようだ。余計な力みはなく、強化パワーを十全に活かしたスイングである。
「冒険者としてはもう中級者ってとこだけど……その程度じゃ『勇星十字団』はお呼びじゃないってね」
この面子なら第三階層の階層主に挑んでも勝てるだろう。
基本的に下の階層に通じる転移を守る階層主は、その階層で最も強いボスモンスターだ。スケイルレス、みたいなただのボスとは格が違う……とは言え、シグルーン大迷宮の第三階層主は極々平均的な性能。
『無限煉獄』で50年間冒険者を退け続けたフルヘルガーが番犬として強すぎるだけ。
というかあのフルヘルガーは本来の階層主のゴーレムとヘルガーの歴戦個体の融合体という特殊な環境下で生まれたレイドボスみたいなものだし。
なのでシグルーン大迷宮の第三階層主は、普通に上級冒険者への登竜門のような扱いとなっている。
ハピナをリーダーとして、ここの第三階層主を倒せば、恐らく入団条件の成果としては合格点のはず。
でも、それじゃあ後が続かない。
「三ヶ月も期間はあるし、ここは大人しく地道に冒険者の基礎を叩き込むかな」
急がず焦らず。ちょうどこっちの別動隊の主な役目は、ひとまず僕のレムと呪物が封印されている清浄殿への侵入ルートの調査だ。そのために浅い階層を隅々まで回ることとなるので、低ランク冒険者の活動範囲としてはちょうどいいところ。
シルヴァとウラガの改造だって、これで完成というワケじゃないし。どんどんアップグレードしていくし、魔法学生のトーナも覚えることは沢山ある。
みんなで一緒にレベルアップしていこう。
「とりあえず、まずハピナには並み程度のヒーラーをこなせるようにしよう」




