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呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第4章:奪還作戦
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第493話 ダンジョンマスターの帰還(2)

「アルビオンよっ、私は帰って来た!」


 杏子との涙の再会と、地母神並みの慈悲を経てとりあえずのお許しをいただいた僕は、あらためて久しぶりとなるアルビオン大迷宮の管理を再開することにした。


 とは言え、杏子がしっかり留守を預かってくれていたので、特にこれといって問題が起こっているワケではない。僕らの本拠となる中枢部の最下層は、野良のモンスターが蔓延ることなく、きっちり領域は維持されている。

 僕が色々とやっていた工房での作業やら、新設備や実験の予定地などは、出て行った時のまま放置状態。それでも荒れることなく、どこもすぐに使えるような状態となっていた。


 見事なハウスキーピングというか、ダンジョンキーピングだが、どうやら杏子はただ維持管理だけをして過ごしていたワケではないようだった。


「なんかちょっと見ない間に、随分と様変わりしてない?」

「しょーがないじゃん、コタロー帰って来れるか分かんなかったんだから。ウチも色々、準備してたの」


 最も驚くべき変化は、恐竜軍団が結成されていたこと。

 存在は知っていた。最低限の定期連絡で、元々は杏子が僕を取り戻す時の戦力として養成していたものだ。


 ラプター系の二足歩行肉食地竜を主力として、製造された魔導人形オートボットを乗せて騎兵にもできるようにしてある。

 中型の四足歩行草食地竜は、装甲車としてもトラックとしても使える。アストリアでは大型貨物を竜車が担っているけど、温厚で家畜に適した種とは異なり、こっちは単独でも戦闘できる気性と装甲を誇る、トリケラトプスみたいな奴らだ。

 さらには貴重な空中戦力として翼竜もいるし、海上戦力の海竜なんかも、少数ながら揃えている。

 そしてゴアレックスとサンダーティラノを悪魔合体させた大型地竜の秘密兵器も。ロマンの塊だね。


 定期連絡が通じるようになって以降も、恐竜軍団養成はコツコツ続けてくれていたことは分かっていたけど、まさかこれほどの規模になっているとは驚きだ。


 広間を埋めつくすように、灰色の石像と化したラプターが並ぶ。杏子は卓越した『土魔術師』であるが、幾ら何でも千にも届かんばかりの数を一人で同時に使役するのは無理がある。最弱スケルトンだって、そんな数になると操るのはキツい。


 そのためラプターの大群を動かす方法として、土精霊による自立行動と、コアによる魔力供給の二つが採用される。

 このラプター含めて恐竜軍団の地竜は、『屍人形』みたいに単なるアンデッドではなく、土魔法で操作するのに適した器である。直接、使役しているのはあくまで杏子が召喚した『土精霊テラ・エレメンタル』であり、その土精霊が宿ることで、地竜の器が動くのだ。

 並んで石像化しているのは、待機状態、スリープモードといったところ。すでに土精霊が宿り、コアも組み込んでいるので、いつでも稼働状態に出来る。けど動かせば魔力消費していくだけなので、こういう準備段階の時は石像にして眠らせているわけだ。


 結果的には死体を動かしているように見えるが、これはれっきとした精霊術であって、屍霊術ではない。

 より厳密に言えば、ゴーレムの製造、使役にあたる。

 アストリアにおいて、ゴーレムクリエイターは立派な専門技術職だ。ただでさえ少数派の魔術師が、さらにゴーレム工学と呼ばれる、自律稼動術式やら魔法のパーツやらの専門知識を修めた者だけが名乗ることができる。

 かつては一部の物好きな土属性魔術師がやってたような仕事だが、近年の魔法技術の進展と工業化によって、工業用ゴーレムの需要は高まっている。

 完全自立の人型ロボットにはならずとも、正確な作業を繰り返す機械の存在がどれほど有用か、というのは地球に住む僕らにとっては既知の事実である。将来的には魔導機械やゴーレムによって、高度に自動化された工場が主流になってゆくのだろうが……それは今ではない。


 その点で言えば、杏子の作った恐竜軍団はアストリアのゴーレム工学の遥か先を行く完成度である。

 僕もアストリアで活動する中で、一般的な天職『精霊術士』や精霊魔法の使い手なんかを調べてみたけれど、彼らも基本的に呼び出すのは自分の属性に見合った精霊である。

 委員長や桜ちゃんみたいに、召喚した精霊をそのまま行使することもあるし、自ら魔力を込めた光石結晶や、特定の魔物素材なんかをその場で与えて強化する、という使い方もされていた。

 中でも『土魔術師』はゴーレムクリエイターでなくとも、頑強な岩や金属で肉体を形勢しやすい土精霊を、ゴーレムとして使役する者は多かった。


 恐竜軍団はそのアップグレード版と言える。ただの冒険者として精霊魔法を使うなら、精霊強化用のアイテムを持ち歩くのが精々だけど、こっちはダンジョンマスターとして古代の生産設備を扱えるのだ。

 精霊が乗り込むための高度な器を量産することも可能――――だが、恐るべきは杏子が一人でそれを設計し、実際に製造したことだ。

 設計図とか見せてもらったけど、パっと見で僕にはケチつけられるような箇所は見当たらなかった。むしろ自分の土魔法に合わせた設計になっているので、僕も下手に手を加えるような真似はできそうもない。


 なんだろう、このちょっと会社を離れていた間に戻ってきてみれば、エース社員が難関資格を取得して、更なるエースに進化していたのを目の当たりにした社長のような気分は。

 流石は杏子、僕の嫁。姫野はもっとスキルアップ頑張って。


「素晴らしい戦力だ、ありがとう杏子」

「でも小太郎帰って来たから、こんなにいても意味なくない?」

「意味なくないよ。戦力はなんぼあってもいいですからね」


 ニューホープ農園、黒髪教会の二本柱を筆頭に、東南ゴーマにシグルーンでの無名冒険者パーティ……僕も分身の数に任せて、色々と手を広げている。今のところ、どこも順調に育ってはいるけれど、まだまだアストリア軍と正面切っては戦えない。

 杏子の恐竜軍団は誰でも操作できるように改良できれば、どの勢力に送っても戦力の底上げになる。単純にアルビオンに抱える予備戦力としても有用だ。


「そして何よりカッコいい。いいセンスだ!」

「あんまり可愛くないし、ウチは好みじゃないんだけど、一番強くなるようにしたら、こうなったっていうか」


 つまり機能美の追及結果ということか。自分の好みよりも性能を重視するとは、杏子の本気ぶりが見て取れる。

 それに僕は決して、ただのお世辞で言っているワケではない。この恐竜軍団は、ダンジョン攻略時代によく使っていたラプターの屍人形とは決定的に異なる特徴を備えている。


 それはメカだ。

 土精霊で操るだけでなく、更には元のモンスターの特性と、杏子が生成した高純度光石結晶を組み合わせた各属性魔力を活かすパーツを搭載した結果、最も単純構造となっているラプターでさえ、体の半分くらいが金属装甲と光鉄部品が組み込まれたサイボーグと化している。土くれと石で出来たゴーレムとは一線を画す機械的構造だ。


 基本の動力となる土属性魔力でオレンジ色に輝くラインが、黒い装甲に映える。火属性を持てば赤に、氷属性なら青に、と色とりどりのラインで彩られたサイボーグ地竜は、どこかサイバーパンクを彷彿とさせるデザインだった。


「ちゃんと名前はつけたの?」

「恐竜軍団で良くね?」

「『宝玉地竜ジェムザウラー』にしよう」


 使われているのは基本的に土属性と相性の良い地竜種が中心。動力たるコアは杏子が手ずから作った光石結晶であり、どの個体も体内に一つはこの宝玉のような人造コアを持つ。

 そこからさらに、各属性魔力の力を持つタイプは、サブコアとも言うべき宝玉も搭載している。

 杏子が設計した地竜型ゴーレムサイボーグの総称として、『宝玉地竜ジェムザウラー』は相応しい名前だと自負している。


「じゃあソレでいいよ」


 葉山君という最大の対抗馬ライバルもいないので、杏子が頷いてあっけなく命名は完了。


「ねぇ、ちょっと性能試験したいから、適当に何体か貸してもらっていい?」

「好きなの持ってっていいよー。多分、小太郎なら大体言う事聞くはずだから」

「ありがとね! よし、行くぞぉレム!」

「はい、あるじ」

「中々、面白そうじゃ。若様、儂も連れて行け」

「それじゃあ、ジェラ爺はそのラプターに乗って」


 僕ら三人は颯爽と騎兵仕様ラプターに跨り、走りだした。

 やっぱり新兵器を試す時はワクワクしていいね!




 ◇◇◇


「――――三人だけで行かせて、よろしかったのですか」

「小太郎はココのダンジョンマスターだから。庭先で遊ぶくらいなら心配いらないって」


宝玉地竜ジェムザウラー・ラプター』 に乗って飛び出して行った小太郎達を見送った後、その場に残ったのは杏子とリザの二人。


 挨拶と自己紹介はすでに済ませてある。ただそれだけであって、両者ともにその為人を理解し合うには及ばない。

 ともすれば非常に気まずい空気になりそうなタイミングで、杏子は先んじて口を開く。


「リザさんさぁ」

「リザ、とどうぞ呼び捨てで。キョーコ様は坊ちゃまの伴侶であられますので、私などに遠慮は無用でございます」

「いいって、そういう堅苦しいの。ウチはいきなり奥様になるってワケじゃないし」


 恭しく頭を下げるリザに、杏子は溜息交じりにそう言った。

 杏子としては、自分より顔もスタイルも良い褐色外人美女にいきなり傅かれる真似をされても、対応に困る。小太郎からアストリアは奴隷制度が現役だとか、世界史の授業で習う時代の風習が当たり前にある国なのだと情報としては聞いているが……だからと言って、自分が当然のようにお貴族様の如く振る舞うつもりなど無い。

 いつだって杏子は自然体だ。それはダンジョンサバイバルの中にあっても、変わることは無かった彼女の芯でもある。


 故にリザがディアナ人であるとか、奴隷であったとか、そういった背景にさしたる興味も無い。ただ一つ自分が気にするべきことは、彼女が芽衣子に代わって、小太郎が傍仕えに選んだ女性である、ということ。


「過分なご配慮、痛み入ります」

「ねぇ、これウチの言ってることホントに伝わってんの?」


 一方、リザは杏子のことを一目で認めていた。認めざるを得なかった、というべきか。

 芽衣子の時と違って、小太郎と杏子の再会は正しく思い描いた通りの感動的なものであった。

 泣いて抱き合い再会を喜ぶ二人の姿は、なるほど、確かにこれは苦楽を共にした仲間であり、情を交わした男女の反応としては自然であり尊いものである。途中でレムを間に挟んだ三人となったことは割愛。

 今や小太郎からその寵愛を受ける身となったリザとしては、素直に妬ましさを感じてしまうほどに、二人の仲を傍から見ているだけで実感できてしまった。


 ささやかな嫉妬心はある。

 自分には分からない苦難を乗り越えた二人の経験にも。煌びやかに着飾りながらも、それを当然のごとく着こなす姫君の如き華麗な姿にも。

 彼女は、こんな元奴隷の戦士風情などでは、到底太刀打ちできないほど女性的な魅力に溢れている。


 だがしかし、芽衣子の時のような怒りは欠片も湧いてこない。

 なぜならリザから見ても、杏子は理想的な小太郎の伴侶である。

 まず強大な天職『土魔術師』であること。ハピナを見た時も、地母神より大いなる加護を授かっているとすぐに察したが、杏子のソレはハピナを遥かに上回る。

 もしもこんな女性がディアナにいれば、地母神の御子として、レイナーレと並び立ち大いに名を馳せたであろう。


 そして御子の男女が結ばれることは、最上の縁であるとされている。

 小太郎はすでに、御子として規格外の力を発揮している。杏子はその小太郎と並んでも、見劣りしない素晴らしい才能の御子だ。

 これほどお似合いの二人はいない。むしろ、この二人が結ばれるのは至極当然、神々が祝福された結果であると納得できる。


 リザは小太郎と一線を越えたが、精霊戦士という立場まで踏み込えてはいない。あくまで自分は、彼に仕える忠実な僕。

 彼の伴侶として相応しいのは、同じほど神に愛された御子の女性であると、リザは心から信じている。

 リザがおかしいのではない。それがディアナ人にとっての常識であるが故に、その関係性に疑いを持つことすら無いのだ。


「まぁ、リザがそっちの方がやりやすいってんなら、別に文句はないけどさ」

「ありがとうございます」


 杏子はひとまず、リザはそういうキャラを通す、ということで納得することとした。


「じゃあ、ちょっと場所変えよっか。ついて来て」

「はい」


 何故だとか、何処にだとか、余計なことは一切問わずに、リザは大人しく杏子の後について行った。

 リザとしては、杏子の嫉妬をかって、小太郎の見ていないところで鞭の一つでも打たれる覚悟であった。彼女にはそうするだけの資格があるし、自分はそれを甘んじて受け入れる立場にあると、納得もしていた。

 理不尽には慣れている。死ななければ、出来れば今後の戦闘に支障が無い範囲の負傷に留まれば、文句など一つも無い。


「ここならいいかな」


 案内されてやって来たのは、清浄殿に潜入した時に出た円形広間のような、広い空間だった。

 まるで戦うためだけに用意されたような、何もないただ広大な場所で、杏子は堂々と言い放つ。


「まずは軽く腕試しでどう?」

「それは、大変ありがたい申し出ですが……」


 本当にいいのか、と言いたげな視線をリザが向ければ、杏子は分かっているとばかりに頷く。


「小太郎についてくなら、ソコが一番大事でしょ」

「キョーコ様は、坊ちゃまのことをよくご理解されているようですね」


 杏子は御子としても女性としても優れているが、戦いに向く気配は感じられなかった。優れた魔法の腕前があっても、必ずしも実戦で強いとは限らない。司祭や魔法具職人など、直接戦闘に関わらなくとも、魔法の実力が求められる役は多い。

 ゴーレム地竜の大群を用意していたのを見て、杏子もそういうタイプなのだとリザは思っていたし、彼女の雰囲気から荒事には無縁のように感じたが……どうやら、ただの杞憂であるようだった。

 伊達に大迷宮を攻略してはいない。彼女もまた、小太郎と共に完全攻略を果たした英雄の一人なのだ。


「でもウチは魔術師って感じだから、殴り合いとかは勘弁ね」

「勿論、怪我一つ無いように致します」

「ありがとね。じゃあ、ちょっとだけ本気見せちゃうから――――『魔人化・土精霊テラ・エレメントマスター』」

「それでは、私の精霊戦士の力もとくとご覧あれ――――『巨人戦装ギガント・マキア』」




 ◇◇◇


 大聖堂での騒動から、翌日。

 俺はアストリアの巨大な首都シグルーンの中でも、スラム街にほど近い特に雑然とした区画に、レイナーレと共に足を運んでいた。表向きは、気まぐれなデートでの散策。

 だが実際には、桃川の呼び出しである。


 指定の場所は寂れた古書店。勿論、ただの待ち合わせ場所ではない。レイナーレと揃って店に入れば、どう見てもボケているとしか思えない老人の店主は、黙って俺達を奥にある地下への階段へと案内した。

 秘密の地下室か、と思えば、どうやら裏手の建物と繋がっている地下通路らしい。階段を上がった先は廃墟のようで、通路や階段が封鎖され、実質的な一本道と化しており、さらに真っ直ぐ進む。

 明らかに違法建築な増築されている継ぎ接ぎの屋内を進んで、最終的に再び地下へと降りれば、そこで桃川は待っていた。どうせ分身だろう。


「はぁ……蒼真君さぁ、何か思ってたのと違う騒ぎになってんだけど?」

「仕方ないだろ、まさかあんな事になるとは俺だって思っていなかった。あれも作戦の内だって言うのか?」


 桃川にケチの一つでもつけられるのは、予想できていたこと。

 そもそも当初の計画では、俺達はただ群衆を煽るだけのはずだった。特別に何か行動を起こす、まして戦闘するような予定は一切無かった。


 だと言うのに、俺はこれ見よがしに『光の聖剣クロスカリバー』を振るって、狂った司祭と騎士を斬り、怪我人を大聖堂に搬送するよう命令した。

 俺が出しゃばった結果、一躍、今回の騒ぎの中心人物となってしまったのだ。


「いやぁ、僕もアイツがトチ狂ってあんな真似を仕出かすだなんて、予想できないよ」

「やはり、あれはお前が――――」

「僕の『悪霊憑き』のせいだって?」

「狂ったまま野放しにした結果、大勢死んだ」


 あんな事が起こると分かっていれば、俺は奴らが姿を現した瞬間に斬りに行けた。様子がおかしい、と察しながらも、作戦に従って出て行くのを躊躇った。

 そのせいで、ブラスター乱射の凶行を許し、夥しい数の死傷者を出してしまったのだ。


「ユート様、それ以上は口になさらない方がよろしいかと」

「けど、あんな犠牲は出さずに済んだはずだろう!」

「その責をモモカ様に負わせるな、と言わなければ分かりませんか」


 鋭く睨む、いいや、心から軽蔑するような眼差しと共に、レイナーレはそう言って俺を止める。


「あの司祭達は、モモカ様を迎え撃った結果、悪霊に呪われました。待ち伏せされたにも関わらず、速やかに跳ね除けたその手腕を讃えこそすれ、非難する謂れなどありません。そもそも、私にも貴方にも、モモカ様に意見出来る立場になどないのです。もっとご自分の身を弁えることを覚えてはいただけませんか、勇者様?」

「なんかレイナに庇われると物凄い違和感あるんだけど」


 どこまでも自分を下げるような物言いのレイナーレに、平然といつもの軽口を叩く桃川。反射的な苛立ちに心をかき乱されるが……それでも、俺はロクな反論が出来なかった。


「蒼真君の気持ちは分かるよ。そりゃあ、僕がアイツらを清浄殿でぶっ殺しておけば、余計な死人は出さずに済んだ。君の手もまだ綺麗でいられた。全て僕の落ち度だ」

「いいや……レイナの言う通り、お前は最善手をとり、奪還作戦を成功させた」

「その割には、釈然としない顔してるけど」

「当たり前だ。俺はお前ほど犠牲を割り切れない。まして目の前で殺される姿を見せられれば、尚更にな」

「モモカ様、やはり私を伴侶として考えてはいただけませんか。こんな感情的な男では、とてもディアナの未来を託すことはできません」

「そう言わないでよ。これでも随分と物分かりが良くなってくれてるんだから。昔だったら、理解を示すどころか、悪の呪術師め! って叫んで斬りかかってるところだから」


 ああ、そうだよ。分かりやすい悪役がいてくれる方が、ずっと気分は楽だからな。

 今回の件は、犠牲を出したという点で言えば桃川に落ち度はある。だがしかし、そもそも奪還作戦をする側として、俺は立っている。犠牲が出るかもしれない荒事と分かっていながら、俺はそれを良しとしたのだ。


「あの司祭達が悪霊に狂わなかったとしても、どっちにしろ犠牲は出たんだろう」

「そりゃそうでしょ、あれだけの大騒ぎだ。遠からず、聖堂騎士の手は出たよ」

「そしたら、ディアナ人達に与えた力で反撃する手筈だった」

「知ってたの?」

「見抜いたのはレイナだ」

「御子として、同胞のことはよく見ていますので。見慣れぬ力の気配を纏った者が、随分と紛れ込んでいたことには、気づいておりました」

「流石だね、眺めただけで分かるなんて。聖堂騎士から一方的に制圧されるより、それなりの力で反撃するくらい危険な方が、陽動になるからね――――とは言え、その仕込みも全部無駄になっちゃったけど」


 それが本来の陽動作戦の全貌だろう、とレイナーレから昨日聞かされた。

 押し寄せる解放派を前に、いずれ手が出る聖堂騎士。一度、被害が出ればそれが戦端を開くキッカケとなり、あらかじめ武装を整えていたディアナ人が即座に反撃。

 それでも戦いが始まらないようなら、俺とレイナーレが登場して解放派を煽って、という流れ。勝手に乱闘が始まれば、俺達の出番も無しで済む。

 そのはずだったが、現実はこの通りというワケだ。


「申し訳ございません、モモカ様には余計なお手間をかけさせてしまい」

「いや、むしろディアナの御子を迎えた勇者の行動としては、こっちの方が良かったかもしれないから」

「どういうことだ。悪目立ちしてしまっただけに思えるが……」

「そうでもないさ。真っ先に狂気の司祭を斬り殺した勇者ソーマは、ディアナ人も救ってくれる、と解放派では大好評だよ」


 俺は別にディアナ人だから救ったワケではない。あそこにはアストリア人も大勢混じっていたし。主義も主張もバラバラの人々が集まった、混沌とした集団だった。

 けれど、その誰もが一人の人間であることに変わりはない。その大勢の人々が危険に晒されて、俺にそれを助けるだけの力があるならば、迷いなんて無いというだけのこと。


「レイナーレをヒロイン役にした以上、ディアナの味方アピールは必要だから。今回の一件を存分に利用して、イメージ戦略の一つも打っていいかも。とりあえず自由解放党に挨拶でもしておく?」

「それはそれで構わないが……しかし、露骨にディアナ人の味方をすれば、流石にサリスも俺を野放しにはしないんじゃないか?」


 なにせ今の俺はサリスの脛を食い千切る勢いで齧るクズ男だ。

『勇者』ではあるものの、現状で俺はただ新人クランメンバーと同じ活動をしているだけで、アストリアが求めるほどの活躍も功績も無い。

 勇者の将来的な期待値よりも、今のデメリットの方が上回ると判断されれば……


「いいトコに気づいたね。だから次は、蒼真君を誰もが認める次世代の勇者様になれるような大活躍をしよう」

「何をすればいい?」

「北の大迷宮、『白銀王城』の第四階層を攻略する」

2026年3月27日


 第4章はこれで完結です。

 次章では、『無限煉獄』に続く大迷宮『白銀王城』の攻略――――が始まらないことは、章タイトルをご覧になるとお察しかと思います。じゃあ一体何と戦うんだよ、というのも、章タイトルで明らかとなるでしょう。


 それでは、次回もお楽しみに!

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― 新着の感想 ―
始まらんのか〜い! いやでもそろそろ天堂くんや桜ちゃんがどうしてるのか気になるところ もちろん姫野もね!
面白い‼︎
レイナーレの場合は小太郎が好きというよりも小太郎の能力の高さが好きという感じだからヤンデレベルが足りませんね。これではヒロインとしての活躍は難しいと言わざるを得ない。
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