第四話 仮契約
「……金、貸してくれないか?」
俺は意を決してそう言った。
正直、出会って半日も経っていない相手に頼むことじゃない。
断られても文句は言えない。
カイは少し呆れたように頭をかいた。
「しょうがねぇな。」
「今回だけだぞ。」
「……ほんとか!」
思わず声が大きくなる。
「ただし、条件がある。」
「条件?」
「ああ。」
カイは俺を指差しながら言った。
「セプト、お前。俺とパーティーを組め。」
思わぬ提案だった。
パーティー。
ギルドへ入ったら、いずれ組むことになるとは思っていた。
でも、こんなに早く誘われるとは思わなかった。
俺は少し考えてから口を開く。
「いいのか? 俺で。」
「カイくらい話しやすい奴なら、ほかにも誘える相手なんていくらでもいるだろ。」
カイは苦笑した。
「俺、人の下につくの苦手なんだよ。」
そう言いながら、街を歩く二人の少女へちらりと視線を向ける。
「……。」
「お前、何見てるんだ?」
「い、いや! ななな、何も見てねぇよ!」
慌てて俺の方へ向き直る。
(絶対見てたよな。)
そう思ったが、あえて突っ込まないでおく。
「それにもう一つ理由がある。」
「なんだ?」
「お前、一人じゃ何にもできなさそうだから。」
「だから俺が面倒見てやる。」
「なんだよそれ!」
思わず声を荒げる。
「俺だって今日からちゃんと冒険者になるんだぞ!」
「ガキ扱いすんな!」
「一応十五歳だ!」
「この世界じゃ立派な成人なんだからな!」
カイは肩を震わせながら笑った。
「はいはい。」
「分かった、分かった。」
「それで?」
「返事はどうなんだ?」
俺は少しだけ考えた。
王都へ来てまだ数時間。
知り合いなんて、目の前にいるこの男しかいない。
それに――。
金もない。
「……分かった。」
「よろしく、カイ。」
俺は右手を差し出す。
カイは一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに笑ってその手を握り返した。
「こちらこそ、よろしくな。」
力強い握手だった。
その手は、不思議と安心できる温かさがあった。
「よし。」
「今日は馬車で疲れただろ。」
「宿を取って、明日ギルドへ行くぞ。」
「ああ。」
俺たちは宿街へ向かって歩き出す。
王都の通りは、夜になっても人通りが絶えない。
酒場からは陽気な笑い声が聞こえ、露店では香ばしい匂いが漂ってくる。
地方の村では見たこともない景色ばかりだった。
「王都って、夜でもこんなに賑やかなんだな。」
「これでも今日は静かな方だぞ。」
カイは笑いながら答える。
「祭りの日なんか、朝まで騒いでる。」
「へぇ……。」
少し歩いたところで、二人は手頃な宿を見つけた。
「一泊、銀貨五枚になります。」
受付の女性がそう告げる。
カイは迷わず銀貨を十枚取り出した。
「二人分で頼む。」
「かしこまりました。」
宿の鍵を受け取り、部屋へ入る。
思っていたよりも広く、二人で泊まるには十分な部屋だった。
「今日はゆっくり休め。」
カイはベッドへ飛び込むように寝転がる。
「明日から俺たちも冒険者だ。」
その言葉を聞いて、自然と笑みがこぼれた。
「ああ。」
「明日が楽しみだ。」
その夜。
期待と少しの不安を胸に抱えながら、俺は静かに目を閉じた。
まだ、この出会いが俺の人生を大きく変えることになるとは、思いもしなかった。
カイとパーティーになってしまいましたね。個人的には、カイは嫌なキャラで出す予定だったんですけど。話を進めていく過程で、頼りがいのある仲間にしていこうかなと考えが変わって、パーティーを組ませました。




