第十四話 狐たちの遊び
パーティー『伸残』が修行期間に入った翌日。
ミルトは一人、王都の大通りを歩いていた。
「昨日はあの後、みんな別々に行動して、私だけ薬草採取をしたけど。魔法の情報は何も得れず...どうしよっかな~......。」
目的はない。
強くなりたい。
ただそれだけだった。
フェンサーとの戦闘。
もしフェンサーがもう少し強ければ。
自分たちは死んでいたかもしれない。
「もっと強くならないと……。」
そう呟きながら歩いていると。
後ろから何かがぶつかった。
「うわっ!」
「っと。」
小さな衝撃。
振り返ると、そこには二人の少女がいた。
年齢は十歳くらいだろうか。
狐耳。
狐尻尾。
獣人だった。
しかもそっくりだ。
双子らしい。
「ごめんなさい!」
「急いどったんよ!」
二人は同時に頭を下げる。
「いや、大丈夫だ。」
ミルトがそう答えると。
二人は顔を見合わせた。
そして。
何か面白いものを見つけたように笑う。
「なあなあ。」
「お姉さん暇?」
「え?」
突然の質問だった。
「暇なら遊ぼうや。」
「遊び?」
ミルトは首を傾げる。
「鬼ごっこや!」
「鬼ごっこ?」
「せや!」
狐耳の少女が満面の笑みで答えた。
ミルトは困惑した。
強くなる方法を探していたはずなのに。
なぜ鬼ごっこなのだろう。
だが。
断る理由もなかった。
「少しだけなら。」
そう答えた瞬間。
二人の顔が輝いた。
「決まりや!」
「ほな行くで!」
次の瞬間だった。
二人が消えた。
「え?」
思わず声が漏れる。
違う。
消えたように見えただけだ。
速い。
異常なほど速い。
建物の屋根。
塀の上。
木の枝。
次々と飛び移っていく。
「待って!鬼私なのか?」
ミルトも慌てて追いかけた。
しかし。
追いつけない。
全く。
二人は笑いながら逃げ続ける。
「お姉さんおそーい!」
「ほんまに冒険者なん?」
挑発までしてくる。
ミルトは歯を食いしばる。
負けず嫌いな性格だった。
だからこそ。
子供相手に逃げられ続けるのが悔しかった。
「くっ……!」
速度を上げる。
屋根を蹴る。
壁を飛び越える。
それでも。
距離は縮まらない。
むしろ広がっていく。
十分後。
二十分後。
三十分後。
「はぁ……。」
「はぁ……。」
ミルトはついに膝へ手をついた。
息が切れる。
汗が止まらない。
それに対して。
双子は涼しい顔だった。
「もう終わり?」
「体力ないんやね。」
ミルトの額に青筋が浮かぶ。
だが。
言い返せない。
事実だからだ。
フェンサー戦でも思った。
自分には足りないものがある。
防御力だけでは限界がある。
もっと速く。
もっと強く。
ならなければいけない。
双子はそんなミルトを見ていた。
そして。
少しだけ表情を変える。
「なあ。」
「なんだ。」
「悔しい?」
ミルトは即答した。
「ああ。」
「悔しい。」
双子は目を丸くした。
そして。
どこか面白そうに笑う。
「普通は言い訳するんやけどな。」
「そうやね。」
「でも負けた。」
ミルトは立ち上がる。
息を整えながら。
真っ直ぐ二人を見る。
「頼む。」
「私を鍛えてくれ。」
沈黙。
双子は顔を見合わせた。
そして。
数秒後。
吹き出した。
「ぷっ。」
「ははは!」
「お姉さんおもろいな!」
「普通もっと意地張るやろ!」
ミルトは恥ずかしかった。
だが。
それ以上に強くなりたかった。
双子は笑い終えると。
ようやく真面目な顔になる。
「なるほどな。」
「そういうことか。」
狐耳が揺れた。
そして。
姉らしき少女が前へ出る。
「うちはコハク。」
続いて。
もう一人が笑う。
「うちはコユキ。」
二人は同時に言った。
「よろしくな。」
ミルトは頭を下げる。
「よろしく頼む。」
その瞬間。
コハクとコユキの顔にいたずらっぽい笑みが浮かんだ。
「ほなまずは。」
「追いついてみ。」
「え?」
「修行や。」
二人は同時に走り出す。
また消えた。
いや。
見えないほど速いだけだ。
「待て!」
ミルトも走り出す。
追いつけない。
だが。
今度は諦めなかった。
こうして。
ミルトの修行が始まる。
このあとがきに書くことがないです。




