第九話 伸残
昨日の薬草採取での疲れも消え、俺とカイは王都での二日目の朝を迎えた。
朝起きると、宿の小さな円卓を挟んで向かい合うように座る。
宿のサービスとして用意された朝食を食べながら、今日やることを整理していた。
「カイ、今日は何をするんだ?」
俺がそう尋ねると、カイは呆れたように笑った。
「おいおい、もう忘れたのかよ。」
「今日はギルドに行って、新しいメンバーとの顔合わせだろ。」
「あ。」
言われて思い出した。
昨日、受付嬢に紹介してもらう約束をしていたんだった。
「そうだったな。」
「……あ、そういえば。」
俺は昨日から気になっていたことを思い出す。
「魔法の使い方についても聞いてみようぜ。」
「ヤタの迷い森に向かう途中も話してたけど、結局分からないままだし。」
カイも納得したようにうなずいた。
「そうだな。」
朝食を食べ終えた俺たちは身支度を整え、宿を出た。
王都の石畳を歩きながらギルドへ向かう。
朝の王都は活気に満ちていた。
露店の準備をする商人。
仕事へ向かう職人。
そして冒険者たち。
村とは比べものにならない人の多さだ。
ギルドへ到着すると、俺たちは真っ先に受付へ向かった。
「昨日、パーティー申請をした者なんですけど。」
受付嬢はすぐに俺たちの顔を思い出したらしい。
「あ、カイ様とセプト様ですね。」
「新人冒険者二人組の方々も参加を希望されております。」
「もう少々お待ちいただければ到着されるかと。」
「分かりました。」
俺たちは近くの椅子へ腰掛けた。
するとカイが立ち上がる。
「待ってる間にクエスト見ようぜ。」
「俺、昨日から気になってたんだよ。」
そう言ってクエストボードへ向かう。
俺も後を追った。
掲示板には大量の依頼書が張られていた。
薬草採取。
討伐依頼。
護衛任務。
調査依頼。
その数は想像以上だった。
「おい見ろよセプト。」
「俺たちじゃ受けられないような高難易度クエストがいっぱいあるぞ。」
「ほんとだ……。」
俺は思わず感心する。
昨日ギルドへ入ったばかりで浮かれていたが、こうして見ると自分たちはまだまだ下っ端だ。
すると。
掲示板の上部にある依頼へ目が止まった。
「カイ。」
「見ろよ。」
「推奨冒険者レベル99のクエストが並んでる。」
「レベル99!?」
カイが目を丸くする。
「俺たちなんて昨日の薬草採取で一レベルも上がってねぇのに。」
そんな話をしていると、近くにいた大柄な冒険者のおじさんが笑った。
「ははは。」
「お前ら、あれは常人が受けるクエストじゃねぇよ。」
「俺たちにも、お前たちにも無縁だ。」
カイが首を傾げる。
「どういうことだよ、おっさん。」
「“常人が受けるクエストじゃない”って。」
男は腕を組んだ。
「そのまんまの意味だ。」
「レベル99のクエストなんざ、この本部だけでも山ほどある。」
「ギルドですら全部把握しきれてねぇ。」
「そんなにあるのか?」
「噂じゃ千近い。」
「せ、千!?」
俺とカイは同時に驚いた。
男は苦笑する。
「驚くのはまだ早い。」
「その中で、ギルド創設から二千年間で達成されたのはたった二十五件だ。」
俺は言葉を失った。
「二十五……?」
「そんなに少ないのか。」
「ああ。」
「毎年命知らずが挑む。」
「だが帰ってきた奴を見たことはねぇ。」
カイも青ざめる。
「生存率どれくらいなんだよ……。」
「一パーセントもねぇだろうな。」
「命が惜しいなら近づくな。」
そう言い残し、おじさんは依頼書を持って受付へ向かった。
俺たちはしばらく無言だった。
王都へ来てから驚くことばかりだ。
すると。
受付の方から声が飛んできた。
「カイ様、セプト様。」
「お待たせいたしました。」
どうやら来たらしい。
俺たちは急いで受付へ向かった。
そこには二人の少女が立っていた。
一人は元気そうな小柄の少女。
もう一人は長身で落ち着いた雰囲気の少女だった。
受付嬢が紹介する。
「こちらが昨日お話ししたお二人です。」
カイが一歩前へ出る。
「俺の名前はカイ。」
「総合評価はPだ。」
「よろしくな。」
そして俺の肩を叩く。
「こっちがセプト。」
「総合評価はV。」
「よろしく。」
軽く頭を下げる。
すると小柄な少女が元気よく前へ出た。
「私の名前はルシル!」
「総合評価はN!」
「よろしくね!」
続いて長身の少女。
「私はミルト。」
「総合評価はPだ。」
「よろしく頼む。」
簡単な自己紹介が終わる。
少し雑談が始まりそうになったところで、カイが口を開いた。
「パーティーになるなら話したいことがある。」
「二階の席に行こう。」
全員が同意し、場所を移した。
四人でテーブルを囲む。
そして。
カイは迷いなく言った。
「このパーティーでは俺がリーダーになりたい。」
普通なら反発されてもおかしくない発言だった。
だが。
ルシルとミルトは顔を見合わせただけだった。
「全然いいわよ。」
最初に答えたのはルシルだった。
「え?」
逆に驚いたのはカイだった。
「そんな簡単に決めていいのか?」
「だって私たち別にリーダーやりたいわけじゃないし。」
ルシルはあっけらかんと言う。
「言い出した人がやる方が楽でしょ?」
「それもそうか……。」
カイは拍子抜けしたように頭をかいた。
するとミルトも口を開く。
「私も異論はない。」
「パーティーをまとめる役は必要だからな。」
「ミルトってこういうところ堅いのよね。」
「堅くない。」
「堅いわよ。」
「堅くない。」
早速始まる二人のやり取りを見て、俺は少し安心した。
どうやら変な人たちではなさそうだ。
その時。
受付嬢が書類を持ってやって来た。
「それではパーティー結成の手続きを行います。」
「あ。」
カイが固まる。
「決めてなかった。」
「何をだ?」
俺が聞く。
「パーティー名。」
全員が沈黙した。
そういえば必要だったな。
昨日も言われていた。
「お前、決まったって言ってなかったか?」
「候補まではな。」
カイは少し笑う。
そして俺たち三人を見回した。
「俺たち全員、新人だろ?」
「だから――」
少しだけ照れくさそうに。
だがどこか誇らしげに。
カイは言った。
「パーティー名は『伸残』でどうだ?」
「伸残?」
ルシルが首を傾げる。
「伸びしろが残ってる。」
「まだまだ強くなれるって意味だ。」
一瞬の沈黙。
そして。
「いいじゃない。」
ルシルが笑う。
「悪くないな。」
ミルトもうなずく。
俺も自然と笑っていた。
「俺は好きだぞ。」
満場一致だった。
受付嬢は微笑みながら書類へ記入する。
「承りました。」
「本日より、パーティー『伸残』の結成を正式に受理いたします。」
こうして。
王都へやって来た四人の新人冒険者は、一つのパーティーとなった。
いつも書くときは寝っ転がってやってるんですけど、腰と肩が痛くて困ってます。それと、最近1話作るのに脳の消費が激しすぎて眠すぎます。書き貯めたいのに1話の疲れがすごくて、寝てしまうのが難点です。




