2/12
第一章 雨宿り
半年前。
浜崎組の若衆だった俺は、兄貴の使いで商店街を歩いていた。
雨が降り始め、小さな神社の軒先で雨宿りをする。
そこには先客がいた。
十七、八歳くらいの少女。
制服姿だったが、袖口は少し擦り切れ、靴も古い。
「先にいたなら気にしなくていい。」
俺がそう言うと、少女は頭を下げた。
「ありがとうございます。」
礼儀正しい。
だが、その目はどこか怯えていた。
すると神社の外に黒いセダンが止まる。
スーツ姿の男が二人降りてきた。
「サチ子。」
少女は顔色を変えた。
「先生がお待ちだ。」
少女は何も言わず車へ乗る。
俺はその車の家紋を見て眉をひそめた。
黒崎組。
浜崎組と敵対する組だった。
「今の娘を知ってるか?」
組へ戻り兄貴へ聞く。
兄貴は煙草をくわえながら苦い顔をした。
「知っとる。」
「黒崎組長が拾った娘じゃ。」
「拾った?」
「孤児だったらしい。」
「組長が学校へ行かせて、本まで買い与えて育てた。」
俺は耳を疑った。
「あの組長が?」
兄貴は頷く。
「だからあの娘は組長を"先生"と呼ぶ。」
「先生?」
「ああ。」
「読み書きも、生き方も、全部教えたそうじゃ。」
「じゃあ悪い人じゃ……」
兄貴は首を振る。
「違う。」
「あいつは悪人だ。」
「ただ、あの娘だけには人間だった。」




