45話 希望に向けて
9月1日 0030 山荘
佐藤は家族を置いていかないという
決断を聞き観念したかの様に
両手を上げるとやがて沈黙した。
そして何かを決意したかのように
席を立つと一台のノートパソコンを
持ってきた。
ノートパソコンを開くと
そこには議員時代の玉金の情報が
映し出されていた。
「……俺の任務は玉金の潜入調査だった。
場合によっては暗殺もな」
「えっ……」
「玉金は前々からマークされていたんだ。
公安では手が出せなかったから
我々が動いていた」
我々は言葉を失う。
「自衛隊の情報や装備、防御想定に
関しての情報は玉金の手によって中国に
売られていた」
「防衛省の高級将校に対しては
ハニートラップが複数確認されている」
「このノートパソコン、USB、携帯
にはそれらの経緯と証拠が
入っている」
「アンタらの持つ映像と証言、
俺の情報を然るべき所に渡せば
玉金とルー・ホーピンを排除できる」
「そうなれば建国間もない
西日本新政府は崩壊するだろう」
「これらの情報は
郵送や通信では渡す事は出来ない。
傍受される可能性もあるしな。
だから俺達は必ず国境を生きて抜け
無ければならない」
今、全てが繋がった。
佐藤がこれほど真剣に我々を
説得しようとする理由。
勝算があり、そしてそれに対して
確信があるのだ。
その為にリスクは最小限に
減らしたいのだ。
「何故、この任務の事を我々に
伝えたんですか?
説得に使うにしても
我々に教える必要はなかったはずだ。」
紀伊3尉が佐藤に問うた。
その問いに佐藤が静かに答えた。
「……理由は二つある」
「一つは香川の前線に立っていたであろう
アンタらに真実を知っておいてもらいたかったこと」
「もう一つはこの国境越えで俺が死んだ場合
俺の任務を引き継いでアンタらにこの情報を
仲間に渡してもらう為だ」
「家族を連れ行くという
アンタらの意思が固い事はわかった。
だが、こちらもリスクを背負う以上
アンタらにも俺の任務を背負ってもらう」
なるほど、どうやらこの情報の開示は
佐藤の覚悟の表れらしい。
「俺はな、世帯をもっちゃいねぇ。
家族や経済状況を人質に取る
奴らのやり口を見てるからだ」
「だから正直、個人の幸せなんて
クソくらえだと今も思っている」
佐藤は紀伊3尉に目を向ける。
「俺の覚悟はアンタの覚悟に
負けちゃいないよ」
佐藤は少し俯いた。
「だがな、公園なんかで
子供と一緒に遊ぶ家族の姿を
見た時なんかにふと思うんだ」
「俺にもあんな幸せがあった
かもしれないんだと」
それは全てを国防に注ぎ込んだ
自己犠牲そのものの生き方だと
言えた。
私にはどこか佐藤が
疲れている様に見えた
それでも佐藤は拳をぎゅっと握り
こちらを見る
「俺にとってはこの仕事が全てだ
それがようやく身を結びつつある」
「必ず、この国境を突破しよう
そして報われる事を信じよう」
佐藤は手を差し出す。
我々はその手を握り返した。
国境越え。
我々の戦いは一つの終結点へと
向かっていた。
9月1日 1000 山荘
翌朝家族に事情を話した。
妻の楓は事情を理解して
こう返した。
「危ないのは承知だけど
このまま西日本新政府にいよう
とは思わないわね」
「道中でここは元の
日本なのかと疑いたく
なったもの」
「こちら側の国で
美樹を育てようとは思わない。
なにをされるか分からないもの」
「大丈夫、足手まといには
ならない様にするわ。
美樹も私が守るわ」
楓は私の目をしっかりと見て
そういった。
その瞳には意思がこもっていた。
それを見て私も安心をする。
娘の美樹が私のズボンの裾を
引っ張っていた。
「またお山に行くの?」
「そうだ、けどこれで最後だ。
まあ、ちょっと長めの
遠足だと思えばいい」
不安にさせない様に
新隊員の時の行軍で
上官に言われた事をそのまま言う。
「だけど、お山に行くのは
これで最後だ」
「山から出たら
その後はお母さんと美樹と
一緒にいるよ」
「本当?」
美樹が笑いかける。
私はコクリと頷いた。
そうだ。
これが終わればまた
元の日々を過ごそう。
安心して家族で食卓を囲んで
娘の成長に一喜一憂しながら
家族で笑い合って食事を食べる。
そんな毎日を取り戻そう。
その為に何としても
この国境を超えるんだ!!
私は固くそう胸に誓った。
9月1日 1800 山荘
我々は身支度を整え
山荘を後にする。
空には雲がかかり
雨が降り始めている。
台風が近づいている為だ。
それはある意味
幸運であると言えた。
雨音で身を隠す事ができ
巡回の士気を下げる。
敵側もこんな日には
人出を割く事は難しいだろう。
もっとも我々にも
別の危険が伴う訳だが。
家族の分も含めて
佐藤はカッパを用意して
くれた。
「いいか、俺達は今から
山を抜けて国境線を突破する
地雷原地帯に関しては
迂回する」
佐藤が全員に語りかけた。
「地雷原を迂回するアテが
あるんですか?」
紀伊3尉が佐藤に
問いかける。
佐藤はコクリと頷いた。
「南に下っていくと
岩盤露出地帯がある。
そこには地雷が設置
出来ない。
ルートは確保してある。」
「敵に見つかっても
出来る限り交戦するな
隠れてやり過ごすんだ。
逃げきれないからな。」
「もちろん、発砲は
可能な限り避けろ」
佐藤が自衛官である
我々3人の方を見て
注意を促す。
「万が一見つかっても
佐藤さん、アンタなら何とか
できるんじゃないのか?」
霞2曹の問いに佐藤は
ガリガリと頭を掻いた。
「バカな事言うな
素人じゃあるまいし。
武装した相手との戦闘は
常にリスクがつきまとう」
「戦闘は極力避ける
するにしても必要がある時だけだ。
俺に期待すんなよ」
佐藤は手の平をヒラヒラ振りながら
ワゴンへと向かった。
我々も車に乗り込み
目的地へ向かう。
目的地付近で車を
乗り捨てて
そこから全員が
山に向けて歩き始める。
自分達の未来を
取り戻す為に
読んでいただいてありがとうございます!
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