43話 別班
岡山を出てから
我々は京都の大津市に
向かって前進をしていた。
国境部に位置するのは
大阪、滋賀県の大津市、琵琶湖を挟み
福井の敦賀市だと道中で情報を集めた。
敵の本拠地である
大阪はまず除外して
迂回する。
敦賀は日本海側である為、
海運で兵隊を運んでいる可能性が
ある事
土地勘がない事を理由に、
除外した。
大津には饗庭野演習場が
ある為頻繁に訪れており
他の二つの箇所よりはマシだと
いう事でこの判断になった。
監視カメラが設置されているであろう
街中は避けて検問に注意して
迂回と停止を繰り返しながら
道を進み続ける。
目立たない売店や買い物をしたり
ガソリンスタンドなどで給油したが
物の値段が10倍近く値上がりしており、
崩壊していた。
山の中の道ですら時折
ドローンを見かける事がある。
寺社が取り壊され
いたる所で日本の本がそこら辺の畑で
焼かれているのを何度も目撃した。
その姿はもはや日本とは
呼べないものであった。
想定外の時間が
かかったが我々は
大津市にたどり着いた。
8月31日 1900 大津
国境線の街中には
いくつも検問が敷かれ
人だかりできている。
フェンスの他にも
応急処置なのか
車や看板、土嚢などを使って
足止め用のバリケードが
作られていた。
兵士によって厳重に
管理されており
複数の一般人の
地に伏した遺体が見えた。
張りぼてのバリケードでも
兵士は足止めさえできれば
小銃で撃つ事できる。
それが何重にも亘って
作られている所を見ると
容易に突破する事は
不可能だろう。
我々は山中に潜みながら
双眼鏡でその様子を
偵察していた。
銃を携帯して迷彩装備で
周りを警戒しながらの
偵察だった。
家族に関しては
ワゴンの中で待機
して貰っている。
「どうしますか?
紀伊三尉、我々だけならともかく
家族を連れて国境を超えるのは
難しいでしょう」
「そうですね。
まだ国境を固め切っては
ないようですが
山を抜けるしかないと
思います」
敵もまだそこまで
時間を与えられているわけではない
占領してすぐに
脱走者を完璧に防ぎ切るなんて
芸当は不可能なはずだった。
その時だった。
「停。(止まれ)」
気づけば中国軍が
そこにはいた。
人数は4人程
恐らくは巡回で、
我々に向けて銃を
向けていた。
最悪だ。
小銃を持っている以上
言い逃れはできない。
戦闘になり発砲すれば
仲間が集まってくるだろう。
警戒も強まる。
紀伊3尉と霞2曹は
既に銃を構えた
状態だった。
一触即発。
両者の間で
凄まじい緊張感が生まれた。
その時中国軍の後方から
一人の男が現れた。
この場に似つかわしくない
スーツ姿の男だ。
対峙している中国軍の死角を
突く形で、正体不明の男が持つナイフが
一人の首筋を貫いた。
流れる様に二人目の首を切り裂く。
残された二人はまだ何が起こっているのか
理解できていない。
中国兵は正体不明の男のナイフを
持った右手に注意し防ごうとするが、
体側につける形で隠し持った左手のナイフで
不意を突いて首を裂き
続けて隣にいたもう一人の首を貫いた。
銃を携行した4人を相手に
発砲すら許さない
圧倒的なCQC(近接格闘術)。
素早い最小限の身のこなしで
ナイフを首筋に刺していき、
あっという間に4人を殺して
しまった。
小銃は懐に入りこまれると弱い。
だが、それをわかっていても実行できる
人間は少ない。
明らかに軍隊格闘の動きだった。
只者ではない。
彼は倒れた相手の
頭を踏みつけて
死んだ事を確認した後に
銃をはぎ取っていく。
我々が唖然とする中
男が声をかけてくる。
「アンタら自衛隊だろう?
悪いが手伝ってくれ」
男は表情を変えずに
そう言い放った。
8月31日 1930 大津 山中
正体不明の
男は自分が殺した中国兵を動かし
その場から血の痕跡を消していく。
この現状に対して極めて冷静に
対応している事から
こういった事に慣れている
ようだった。
見た目は30代くらいで
如何にも普通なのにもかかわらず
持ち合わせている技能は
異常としか言いようがない。
「グズグズしてると
次の巡回が来るぞ
手伝ってくれ」
私は紀伊3尉に判断を
仰ぐため目を向けた。
紀伊3尉は何も
言わずコクリと頷いた。
言われるがままに死体を
その場から動かした。
装備されている
携帯エンピツで穴を掘り
その死体を穴に入れて
偽装した。
男の指示のもとで我々も
淡々と作業ができるのは
この状況では死体の処理が
この場に即していると
理解しているからだ。
数々の戦闘行為で
自分の感情が麻痺している事を
私は感じ取っていた。
一通り終えると
我々は男と共に
その場を後にした。
「アンタ何者だ?
なぜ我々を助けたんだ?」
男は少しだけ考えると
簡潔に答えた。
「俺は佐藤。
東日本に亡命しようと
していた。」
「発砲が起きれば
増援が来る可能性がある。」
「それは避けたかったから
アンタらを助けた。
それだけだ」
佐藤、偽名だろうか?
どうにも胡散臭い男だった。
「ここから南に下るのは
やめておいたほうがいい
地雷が敷かれ何人も死んでいる」
地雷原……
なるほど山の中であれば
確かに敷設できるだろう。
どうやら簡単に
国境を通過する事は
困難のようだ。
「アンタらも亡命するつもりで
きたんだろ?」
「大阪はともかくなんで
敦賀の方に行かなかったんだ?」
佐藤の問いに紀伊3尉が答えた。
「敦賀は日本海が近いので
中国側が兵士を増員する可能性がありました。
一番可能性があるのが大津かと思いました」
「なるほど……ね」
佐藤は納得する様にうなずくと
紀伊3尉に向けて話しかける。
「東日本に亡命するつもりなら
俺も一緒に同行できないか?」
「いいですが、こちらには
隊員の家族も連れています
子供もいますそれでもいいですか?」
佐藤は困ったように言った。
「ありゃ、そいつは誤算だ
それならいいや」
佐藤はあっさりと折れて
その場から去ろうとした。
紀伊3尉は佐藤に声をかける。
「佐藤は……恐らくは
偽名ですよね?」
「私は噂ぐらいにしか聞いた事は
ないのですが
貴方は自衛官の身分を返納した
防衛省職員では
ないですか?」
「その組織に明確な名称は
つけられていませんが
便宜上はいわゆる「別班」と呼ばれている」
紀伊3尉の言葉に唖然とする。
ドラマの中だけの存在だと思っていたが
なるほど、それならあの強さも納得できる。
「違いますかね?」
男は黙ったまま答えない。
そのまま立ち去ろうとする。
「西日本新政府に対して
我々は切り札を
持っています」
紀伊3尉のその言葉に
佐藤はぴたりと足を止めた。
私も霞2曹も顔を見合わせる。
そんな話は聞いていなかった。
しかしもしかしたら話していなかった
だけかもしれない。
佐藤はこちらを振り向き
紀伊3尉の方を見て
不敵に笑った。
それが取引だと理解したようだった。
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