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42話 託された希望

8月29日 1900 亀水湾


我々は五色台から下山し

亀水湾へと向かった。


紀伊3尉が懐中電灯を

複数回繰り返して点灯させる。


しばらくすると海の方から

数回の光が帰ってきた。


一隻の漁船がこちらに

向かってくる。


その漁船には

見覚えがあった。


岡山にいた我々を

四国に送ってくれた

漁船だ。


波川船長が船長室から

顔をのぞかせた。


「あんたら無事か!?

良かった!!

急いで乗ってくれ!!」


我々は顔を見合わせる。


「乗りましょう。」


紀伊3尉が進んで乗り込んだ。


いつの間に連絡を取り合って

いたのだろうか?


我々も船に乗り込む事に

なった。


乗り込んですぐに

船は出発した。


8月29日 1910 瀬戸内海


船は岡山方面に進んでいるようだ。


娘の美樹は初めて

船に乗り、喜んでいた。


「いやぁ、紀伊さん

アンタの言った通りに

なったなあ。

気付けて良かった」


波川船長が笑った。


「どういう事ですか?」


私が紀伊3尉に聞いた。


「何かあった時の為に

香川に強襲上陸する前に

連絡先を交換していたんですよ。」


「とても協力的な方だったので

命令が何日か下りてこなかった時に

連絡を取っていました」


「けど、大丈夫なんですか?

我々はいいですが今この状況で

こんな事しても」


「いいんだよ、

俺も何か力に

なりたかったんだから」


波川船長が胸を張って言った。


香川の上陸の時もそうだが

西日本新政府に目の仇されている

自衛隊を助ける行為は波川船長に

とっては危険な行為だ。


「何故、そこまで

してくれるんですか?」


波川船長がハハっと笑った。


「長門さんだっけか?

アンタ無粋だな。

もちろん男気だと

言いたいんだが……」


「俺は神戸出身なんだよ」


「震災があった時、

死んだかかあを見つけてくれたのは

自衛隊の皆さんだった」


「そのまま故郷にいるのが辛くて

岡山に来たんだがな

いつか恩返しがしたいと思っていた」


「だから紀伊さんから

連絡が来た時は嬉しかったよ」


「困った時はお互い様だ。

この状況ならなおさらだ

なぁ?」


紀伊3尉は波川船長に視線を

向けられて軽く会釈をした。


「それより、あんたら注意しなよ

主要道路は各地に検問が設けられ

始めている。」


「国境に沿っては

フェンスが作られ始めているって話だ。

東に移動するんであれば

そこを突破しなきゃいけねぇ」


「ご家族はともかく

あんたらの服は逃げるにしても

目立つだろ?

岡山に着いたら俺の服やるか

家によってくれ」


「色々言われるかもしれないけどよ

俺はアンタらを信じてるからよ」


波川船長はニカっと笑った。


我々は波川船長の厚意に

感謝する。


だが、その厚意は我々だけのものではない

我々の先輩たちが地道につくりあげた

信頼の形だった。


8月29日 2100 岡山


我々は岡山に到着した。


波川船長のワゴンに乗り

我々は波川船長の家に向かった。


食事まで用意してもらって

我々は食事を頂いた。


久々のまともな

食事だった。


バッグや服や着替えまで

頂いた。


早速着替えて

身なりを整える。


泊って行かないかと

言われたが


我々は目立たない

夜間の内に移動したいので

その場を後にする事にした。


波川船長は玄関まで

見送ってくれた。


「あと、これも

ついでにやるよ」と

先程乗ってきた車のカギを

渡してくれた。


「いいんですか?」

と私が聞くと


「いいんだよ

子供を連れてるのに

アンタら足がないだろうからな

使ってくれ」


後ろでは波川船長の奥さんが

「アンタァ」と怒っているが

波川船長は気にしていないようだ。


「車の中に地図が入っている

から使ってくれ。

気をつけろよ

監視カメラがどんどん増えてる

主要道路は避けた方がいい」


「山の中の道路はまだ

奴らも検問していねぇ」


「ありがとうございます!」


我々は数々の厚意に感謝して

深々とお辞儀をして

立ち去ろうとした。


波川船長が声をかけてくる。


「あのよぉ」


我々は少しだけ

足を止める。


「街中には中国の警察や

軍の奴らが我が物顔で歩いている。

デモなんかには中国人の警察が出てきて

撃ち殺してきやがる」


「オレには高校生になる息子がいるんだが

学校でも日本を否定するような

おかしな教育が始まっている」


「日本は狂っちまった」


「でも、俺らは武器の使い方も

わからない、軍隊や武装した警察を

前に何も出来ない」


「もし、何とかできるとしたら

戦う事の知識を持ったアンタら

自衛隊しかいねぇんだ」


波川船長がグッと手を握り込んでいた。


「手前勝手な願いかもしれないけどよぉ、

アンタらに俺は期待してんだよなぁ

日本を取り戻す事を」


紀伊3尉が一歩踏み出して言った。


「ええ、もちろん

我々もそのつもりです」


「我々はまだ、

諦めていませんから」


そうだ。


我々はまだ諦めていない。


この状況だ。


生き延びているだけでも

精一杯かもしれない。


けどそれでも。


その意思を絶やさない事が

抵抗につながる。


波川船長との出会いが

そうであるように


どんなに絶望的な状況でも

光はあるのだ。


我々は決意を新たに

車に乗り込み東に向かい

移動を始めた。


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