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40話 決断

8月26日 1400 大麻山


我々は銃を手に入れ

箱の中には背嚢なども入っていた為

念の為に持っていく事にする。


五色台まで向かう事になった。


距離にして25~30キロくらいだ。


新隊員の頃

善通寺から五色台まで

行軍した事がある


徒歩でいけない距離ではないが

歩道は目立つ上敵が検問を作っている

可能性がある為回避しながら

移動しなければならない。


山を経由しながら移動し

もし、道路を歩かざるを得ない

ときも夜間に行動する事に

なるだろう。


近くに神社があった為

そこで飲み水なども

確保した。


我々はひたすら

山間部を歩いた。


霞2曹はレンジャー課程も出ており

趣味でサバイバルなんかもやっている為か

食用の野草や食用のキノコに詳しく

山菜でも取るかの様に確保して

背嚢に入れていく。


道中で蛇もいた為捕まえて

おいた。


日が落ちてから

我々は火を焚く準備をしていた。


銃剣などで小枝を集め

石を使い簡易な竈を作る。


霞2曹がナイフから缶切り

着火器具までが一つになった

器具を持っておりそれを使い点火する。


日が落ちてから火を焚いたのは

煙を目立たなくする為だ。


背嚢に入っていた飯ごうを

取り出して涌水を入れて

野草とキノコのスープを作り


霞2曹が蛇を捌いて

スモークを作っていた。


手慣れたものだった。


調味料も使っていない料理だ。


どれも野趣に富んだ味だったが

久しぶりに生を実感した。


食事を終えた後

草を刈り取り背嚢を枕にして

寝床を作る。


何か起きた時の為に

一人は起きておいて一時間おきに

交代する事にした。


演習ではよくある事だ。


最初は紀伊3尉が

着く事になった。


とはいえ、

すぐに眠れるものでもなかった。


霞2曹はすぐに寝入ってしまった。

どうにも私は寝つきが悪い。


「ようやく、私も家族に会えますよ

紀伊3尉には感謝しなければ

いけませんね」


「そういえば、紀伊3尉のご家族も

五色台にいるんですか?」


少し気になった。

そういえば紀伊3尉の

家族の事は聞いた事がなかった。


紀伊3尉が困ったように微笑んだ。


「私には……

家族と呼べるものがいないんです」


私は目を見開く。


迂闊だった。


悪い事を聞いてしまっただろうか?


紀伊3尉は観念したかのように

話始めた。


「私の母は私の小さい頃に

家を出ていきました」


「私は父に引き取られましたが

仕事の続かない人でね」


「私は高校に行こうにも金がなくてね

半ば身を売るような形で

自衛隊高等工科学校に入りました」


「父はそのあとすぐに蒸発して

今どこにいるのかもわかりません」


「それは……」


「ああ、いや同情を誘うつもりで

言ったわけではないんです」


紀伊3尉は手をよこに振って誤魔化した。


「何せ工科学校は私にとっては

天国でした。」


「食事も3食出ますし、勉強する

環境も整えられていましたから

なんというか……」


「人生をやり直せる。

そう思えましたから」


紀伊3尉は静かに微笑んだ。


その年で3尉という事は工科学校の後すぐに

防衛大学校にいったはずだ。


学力だけでなく内部推薦なども要る

かなり努力したはずだ。


「意外でした。

私は紀伊3尉はエリートコースを

突き進んできたんだとそう思ってました」


案外泥にまみれて進んできた人らしい。


「そう見せた方が不安がなくていいでしょ?

だから、このことはあんまり言わないんですよ」


二人は笑い合った。


こんな戦争がなければもっと幸せな

人生を送っていたかもしれない事を思うと

少しだけ悲しくなった。


「さて、夜が明ける前には

出発したいのでそろそろ寝てください」


紀伊3尉の一言で私も眠りにつく事にした。

久しぶりの安息のひと時だった。


8月27日 0400 山中


我々は睡眠をとった後

日の出前に出発をした。


敵に見つからないように

というのもあるが

真夏の為日中は体力の

消耗が激しかった。


なるべく涼しい時間帯を

選びたかった。


四国の平野部は少なく

山がちな地形だ。


敵から身を隠すにはいいが

方向を見失えば

自分達がどこにいるのかも

分からなくなる。


紀伊3尉は

地図とコンパスを頼りに

少しずつ前進していった。


途中どうしても道路を

通らなければならない

場合は車両などが通っていない事を

確認しながら速やかに渡った。


だいぶ遠回りをした為

我々は約二日間かけて

五色台にたどり着いていた。


8月29日 1400 五色台 山中


目の前の山は見慣れた

風景であった。


訓練で何度も

訪れた場所である。


自然と懐かしさに

さいなまれる。


我々はひたすら

山中を上に向かい歩いた。


歩いていく中

紀伊3尉が少しだけ

話をした。


「最初に断っておきますが

ご家族に再会できたとしても

連れて行けるのは皆さんの

ご家族だけです」


紀伊3尉は淡々と告げた。


「ちょっと待ってくれ!!

せめて小隊のメンバーの

「家族だけでも!!」


霞2曹の声に紀伊3尉は

振り返らない。


そのまま前進を続ける。


この状況で

待っている隊員の家族全員は

連れて行けない。


冷静に考えればそうだ。


そもそもここに家族の元へ

向かっている時点が

リスキーなのだ。


「もう一度だけ言います。

他の家族は連れていけません。

私の責任として引き受けます」


皆を助けたい。


それは私とて同じことだ。

だが、現実はそれを許さない。


紀伊3尉のその背中は

私達の家族を含め責任を持とうとする

姿そのものだった。


自分の中の黒々とした感情。


誰かのせいにしたいという感情が

ここまで醜いものなのかと

愕然とした。


現実面を考えればどうしても

必要な決断だ。


霞2曹もわかっているのか

黙って口をつぐんで歩いた。


「紀伊3尉いいんですよ

もう、全部背負わなくても

自衛隊はもうないんです」


「私もその責任を負います」


紀伊3尉が少しだけ

足を止める。


だが、こちらを振り向く事はない。


「ありがとうございます。

長門3曹」


「ですが、いいんですよ。」


「この決断は私が皆さんに協力を

持ちかけた時に覚悟を決めて

いた事ですから」


そういってまた前進し始めた。


やがて我々は五色台の

宿舎にたどり着いた。


自衛隊施設だ。


そこを守るようにして

2人の自衛官が歩哨にたっていた。

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