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39話 宣誓

8月26日 1148 大麻山付近


一時間程、下水道を歩いた後

私達はマンホールの蓋を開け

大麻山付近に出る。


大麻山は武装走の訓練などにも使う

駐屯地の隊員にとっても

馴染みのある場所である。


家屋はまばらであり

人通りがなく

生活音もしない。


住民はまだ戻っていない

ようだ。


周囲には霧がかかり

我々の姿を隠していた。


我々は黙って

山の中に消えていった。


目的地は分からず

ただ黙って紀伊三尉に

ついていった。


山に入って

30分程でようやく

紀伊3尉が口を開いた。


「ここから1時間程

歩いた所で一旦休みます」


考えれば我々は

朝から何も食べていなかった。


食べられる気もしなかったが

それでも休憩は取らなければ

マズい状況だ。


休める時に休まないと次に

いつ休めるかはわからない。


「我々は今どこに向かっているん

ですか?」


「銃と弾薬をとりに行っています」


「えっ?」


霞2曹と私は顔を見合わせた。

銃や弾薬その他武器は

駐屯地に戻った際に全て

中国軍に持っていかれたはずだ。


「……司令部は大阪が落ちた際

国が停戦条約を結ぶ事を察知して

いました」


「西日本に独立国を作る話も

きていました。」


「なにもかも仕組まれていた

ようでした。」


「あまりにも動きが

早すぎましたから」


「中国側の軍事行動は

武力による制圧ではなく

政治的な駆け引きだったようです」


「もしかすると戦争を始めた時点で

戦争に負けていたのかもしれませんね」


我々は歩きながら紀伊3尉の話を聞く。


まるで堤を切ったかのように

紀伊3尉の話はつづいた。


半分愚痴が入っているようにも

聞こえるが何かを喋っていたいのかも

しれない。


「現状を踏まえて駐屯地の

幹部はその場合自衛隊がただでは済むとは

思っていませんでした。」


「俯瞰的に見た時、

敵部隊に最も打撃を与えていたのは

我々の旅団だったからです」


紀伊3尉は無言で歩き続ける。


それなら我々が前線で

張り付いて敵に何の動きもなかった時に

すでに司令部は知っていたという事だ。


知っていてなんでこんな結末になったのか。


止められなかったのだ。

国の決断を。


我々は政治に口出しはできないから。


「幹部の一部は反攻作戦も

視野に入れていました。」


「なので中国軍に渡したのは

武器は一部であり、他は

分けて手分けして隠しました」


「数は多くはありませんが

我々分くらいの銃弾は

充分確保できるはずです」


そうか…

最悪の場合に備えていたか。


逃げるにしても

銃があれば

心強い武器になる。


我々は山道をあがり

続けた。


2時間程歩くと

中腹の少し開けた所に

小さな山小屋があった。


その裏手には

草などで偽装はされているが

埋め立てて間もない

穴があった。


8月26日 1300 大麻山


我々は山小屋から

スコップを取り出し

埋め立てられた穴を

掘り返していく。


雨で重くなった

土が体力を奪っていく。


1メートル程

穴を掘り返した所で

スコップが何かに

あたった。


そこには巨大な

木の箱が埋められていた。


中を開けると

ビニールで丁寧に

防水処理をされた

数十丁の小銃と弾薬

弾納などの装備が



そして一番上には

ラミネートされた

自衛隊の宣誓文が

入れられていた。


「宣誓


私は、我が国の平和と独立を守る

自衛隊の使命を自覚し、

日本国憲法及び法令を遵守し、

一致団結、厳正な規律を保持し、常に徳操を養い、

人格を尊重し、心身を鍛え、技能を磨き、

政治的活動に関与せず、強い

責任感をもつて専心職務の遂行に当たり、

事に臨んでは危険を顧みず、

身をもって責務の完遂に努め、

もって国民の負託にこたえることを誓います。」


その宣誓文を手に取り

その重みをあらためて

実感する。


これを入れた隊員は

どのような気持ちで

これを箱の中に

入れたのだろうか?


この宣誓を受け入れたが

故に負けた無念だろうか?


それともこの箱を開けた時は

本当に危急時の為

この志を忘れるなという

意味合いだろうか?


それは今この場では

確かめようがなく

わからなかった。


だが、少なくとも

私は後者の意味合いで

ある事を願いたかった。



私は胸ポケットの

中に入っているメモ帳を

取り出した。


(日本人が再び手を

取り合える事を願って)


そう書き綴ると

そのメモをそっと

木箱の中に入れた。


霞2曹も紀伊3尉も

その行為になにも言わなかった。


我々は必要分の

装備を取り出し装備する。


弾薬などは

予備を持っていきたいが

個人携行では無理があった。


車両を使えば持っていける

かもしれないが

敵が検問などをやっている事は

容易に想像がついた。


見つかればアウトだ。


その後、穴を埋め戻し

再び元通りに偽装した。


「皆さんのご家族は

五色台にいます。」


紀伊3尉が我々に

向き直りそう伝えた。


五色台。


陸上自衛隊の

訓練施設があるところだ。


なるほど。


あそこなら陸自の管轄だし

宿舎などもある。


山奥の為土地勘の無い

敵の目からは隠しやすい

だろう。


「我々は山を経由しながら

敵に見つからない様に

五色台に向け前進します」


「その後はご家族と

合流し船で四国を

脱出します」


紀伊3尉の言葉に

胸の高鳴りを感じた。


家族に会う事が

できる。


それは私にとって

希望そのものだった。

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