34話 戦闘の果てに
8月20日0930 東かがわ市内
我々は前進を続ける。
我々が前進する度に
敵は後退する。
やがて徐々に包囲は
その輪郭を見せ始める。
敵は海を背にするようにして
後退を続けるしかない。
味方部隊の姿が
徐々に見え始め
敵の正面と側面を
脅かしていく
敵の部隊が肉眼で
はっきりと視認できるのは
珍しかった
一区画にまとめられた
敵は強固に抵抗を続けて
いる。
みれば移動に時間が
かかる敵の迫撃砲や
多重層ロケット弾などは
放棄されている。
周囲は瓦礫の山であり
牽引して動かすにも
分解して動かすにも
困難だと判断したからか
あるいは単純に
もう弾薬がないから
かもしれなかった。
ヘリが飛んでいる事から
制空権はこちら側にある
自分達のはるか後方の
太平洋側から視認できるほどの
爆発が起きていた。
恐らく
敵ミサイルなどを
高射特科が撃ち落としたのだろう
つまりは
敵の大規模な火力支援は
この局地的には少ないと
いうことだ。
近くで指揮を取っていた
他小隊の小隊長が
突然倒れる。
綺麗に頭を
撃ち抜かれて即死していた。
「狙撃手です!!!
頭を出さないで!!!
「瓦礫に隠れて射線を切って!!!」
紀伊3尉が叫び、
不用意に前線のラインを
あげない様にする。
敵が戦う意思がある限りは
決して油断はできなかった。
やがて敵のドローンが
上空を飛び始め
見覚えのある
銀色の犬型のロボットが
戦場に姿を現し始める。
「ロボットウルフ!
この戦線にも投入していたのか!」
元は偵察や強行偵察型のものだ。
こういった瓦礫で視認の難しい
戦場では打ってつけのものだ。
多少、弾が当たっても
問題がないロボットウルフは
瓦礫に隠れている自衛隊を捕捉し
撃ち殺していく。
弾薬を使い尽くせば
隊員を巻き込んで自爆を
していた。
ロボットウルフを
恐れて顔を出せば
狙撃手に撃ち殺された。
ロボットウルフは
まだ配備され間もなく
運用方法も戦況に即したものではなく
あいまいなはずである。
敵はこの局地で
即興ではあるが戦術を完成
させつつあるように思えた。
「落ち着いてください!
ロボットウルフそこまで
数は多くありません!
配線を狙って冷静に対処を!」
「戦況を動かす程のものでは
ありません!」
紀伊3尉が士気が下がらない
よう必死に叫び
小隊をつなぎとめてくれる。
冷静になれば
目の前で対処しなければならない
ロボットウルフは
2~3機ぐらいのものだ。
MINIMIなどの機関銃でも
応戦し脅威は排除されていき
膠着しかけた戦線に
再び味方の迫撃砲が届き
狙撃手もろとも殺していく。
応戦する敵からの銃撃の
音は見る間に減っていく。
敵の増援の気配もなく
火力支援も制空権を
取り返そうともしない。
敵の司令官はこの部隊を
見捨てた事を感じた。
私は無感情に
引き金を引き
前進を続けた。
いくらかの敵兵は
戦う事をやめ、武器を捨てた。
白旗をあげ始めていた。
8月20日1100 東かがわ市内
自衛隊側から
中国軍に対して降伏勧告が
行われ中国軍はそれを受け入れた。
「最後の一兵になるまで
戦うのかと思ったが」
霞2尉が降伏した
中国軍をみて呟いた
「霞、それは無茶だろう
明らかに弾薬の補給が
間に合ってなかった」
「それに我々も
弾切れ寸前だった
最後まで抵抗されても困る」
「敵からしてみれば
これ以上戦う意味を感じない
のかもしれない」
敵であるはずの
自衛隊の我々ですら
今対面している中国軍は
本隊から見捨てられたと
感じているくらいだ。
戦っている
当人達もそれは感じている
筈だった。
そもそも、こちらは防衛戦なので
母国を守る意味合いがあるので
士気は高いものの
向こうは遠征軍で補給に
問題がある上で
無茶な進軍をさせられた。
挙句に救援にも来てくれないので
あれば士気も下がるだろう。
私は移送途中の
捕虜たちに目をやる。
以前の作戦で捕虜にとった
中国軍よりも明らかに覇気を
感じなかった。
疲弊と失望で目のふちが窪み
弱弱しい目の光を放っていた。
指示受けをしていた
紀伊3尉が息切らして
こちらに近づいてくる。
「急いで車両に戻り
弾薬を補給して第一線まで
戻します。」
「なにがあったんですか?」
私が驚いて尋ねる。
「大阪が落ちました。」
衝撃が走る。
重要都市がこうもあっさりと
落ちるとは思わなかった。
私はグッと手を握るしかなかった。
「その上で本作戦の責任者であった
統合幕僚長が解任されました」
理解が追いつかない。
何故?
我々は局地的とはいえ
本作戦で8000人は
敵兵力を消滅させた。
「本作戦をメディアが
映像で流したんです」
「映し出されたのは
自衛隊の砲撃によって
破壊された街でした」
「これによって
国民の反戦感情が
高まってしまったんです」
「政府は先程、
内閣不信任案を提出しました」
私はあまりの事に
言葉が出なかった。
馬鹿な!
馬鹿な!
馬鹿な!
馬鹿な!
反戦感情が高まったら
なんで有効な作戦が取れる
司令官が解任されるんだ!
敵は日本の街を占領しているんだぞ?
我々の数だって少ないから少しでも
有利になるようにこうせざる
おえなかったんだ!!!
火力支援もなしに
戦ったら我々の犠牲者は
もっと増えていた筈だ!
我々は民間人は避難させて
犠牲は出していなかった。
日本は守って欲しい
けど、なるべく街は
壊さないで欲しい。
何でもかんでも不平を言えば
通る訳じゃないんだぞ!!
「ちっ、蚊帳の外で
騒いでないで一回
前に出て戦ってみろってんだ」
霞2曹がうそぶいた。
私は同意した。
一瞬で命を失う
理不尽な戦場を歩いてきた。
我々がいくら日本を守る
覚悟を決めていても
国民は戦争を受け入れる
覚悟はないのかもしれない。
いや、
私はその考えを否定した。
我々に協力してくれた
民間人の方々は確かにいた。
四国に民間の船で強襲上陸を
かけた時に確かに感じていた
希望。
私はそれを信じたかった。
我々は車両に向かう。
サイドミラーに映った自分の顔は
敵の捕虜と同じ疲弊と失望で目のフチが窪み
弱弱しい目の光を放っていた。
読んでいただいてありがとうございます!
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