33話 窮地
8月20日0720 東かがわ市内
煙と火薬の匂い、
そして瓦礫しか残っていない街の中を、
我々は瓦礫で射線を切りながら、少しずつ敵を殺していく。
前進する。
前進する。
前進する。
我々は、前進する。
空になった弾倉を弾納に納め、
新たな弾倉を取り出す。
私は、自分が撃った敵兵の死体を見る。
これで十人目だ。
ろくに反撃がない理由が、ようやく分かった。
さきほど撃った敵兵は、
倒れた味方兵の死体から弾倉を漁っていた。
――つまり、弾がないのだ。
敵は攻勢をかけた直後に、
すぐさま大規模な反撃を受けた。
補給を受ける時間が、なかったのだ。
そして敵は、明らかに疲弊している。
動きが鈍い。
上陸直後の無茶な攻勢のツケが、
今になって現場の兵士たちに降りかかっているのが分かった。
前進を続けると、敵の ZTQ-15G が見えた。
だが、動ける範囲は限られている。
砲撃で道路が破壊され、舗装路が消えていた。
それでも主砲を備えている以上、
我々普通科にとっては致命的な脅威だった。
危険である以上、身を曝すわけにはいかない。
私は紀伊3尉に手信号を送る。
紀伊3尉もそれを受け、LAM手に合図を送った。
陸士である彼は小さくうなずくと、
敵のZTQ-15Gに向けてLAMを発射する。
LAMは個人携行用の対戦車兵器だ。
凄まじい轟音を撒き散らしながら、
弾体はZTQ-15Gの車体に突き刺さる。
直後、爆発。
その瞬間――
小隊のほとんどが「撃破した」と確信した。
「伏せて!」
紀伊3尉の叫び。
次の瞬間、
ZTQ-15Gの主砲がこちらを向き、
瓦礫ごと砲弾を叩き込んできた。
轟音。
瓦礫が弾け飛び、地面が揺れる。
「くそ、爆発反応装甲か!!」
ERA(爆発反応装甲)。
対戦車弾の着弾に反応し、誘爆することで
貫通を防ぐ戦車用装甲だ。
――撃破したように“見えただけ”だった。
「小隊長!!
この場を離れましょう!!
こちらにはもうLAMがありません!!」
小隊に配備されているLAMは、一基だけだ。
他部隊の対戦車兵器による援護を期待し、
周囲を見渡す。
だが、瓦礫と建物の遮蔽物に遮られ、
他の部隊の様子はまったく見えない。
連携を取ることが出来なかった。
前進しすぎたのかもしれない。
いつの間にか、
自分たちが孤立していることに気づいていなかった。
――今さらになって、その事実が突き刺さる。
対戦車兵器のない状態で、
敵の装輪装甲車に立ち向かう。
それは、
あまりにも無謀だった。
8月20日0845 東かがわ市内
瓦礫の山には
ZTQ-15Gのエンジンの
駆動音が聞こえていた。
この状況ではまるで
死神の息吹の様に思えた
目の前の
ZTQ-15Gに対して
我々は対処困難な事態に
晒されていた。
今までの防御的な戦闘では
装輪装甲車や自走砲の類は
充分な対戦車兵器の部隊が展開していた為
対処可能であった。
しかし、今回は散発的に
出会った事しまった。
手段は限られている。
「う、うわぁあああああ!!!」
半狂乱になった陸士が
小銃を乱射するものの
全く効果はない。
ZTQ-15Gの装甲は
本格的な戦車に比べれば
脆弱ではあるものの
5.56mm弾では明らかに
火力が不足している。
むしろその行為は
敵にこちらの場所を
知らせる事に繋がる。
ZTQ-15Gの主砲が
火を噴き周囲に煙が舞い上がった。
「撃ち方止め!!
下がって他の部隊と
連携を取ります!」
紀伊3尉が
懸命に叫ぶ。
建物と瓦礫と煙で
視界が悪く他の部隊と
連携がとりづらかった。
「無理に倒そうとする
必要はありません!!
無線で座標は伝えています!!
他の部隊に対処を願いましょう!」
我々は一旦、撤退を選んだ。
戦車も含め自走砲の類は
走行しながら主砲を撃つ事は
出来ない。
その為どこを狙っているかは
わかりやすく
弾を避けるだけなら
それほど難しくはなかった。
一キロ程後退すると
紀伊3尉は無線で
何やら通話していた。
話によると
他部隊から応援を
向かわせるとの事だ。
みればヘリが
上空を飛び始めていた。
制空権が取れたと
いう意味だ。
後に地面が揺れ
いくつかの迫撃砲が
放たれて先ほど自分達が
いた場所には煙が立っていた。
我々を苦しめたZTQ-15Gが
どうなったのかは視認できないので
わからない。
全ての情報がおりてくる
わけではないので
手元にある情報から
推測していくしかなかった。
「司令部から
座標を貰いました
このまま北東に前進
包囲を縮めていきます」
紀伊3尉がGPSを取り出す
座標を割り出す事が出来る
という事は敵の電子妨害などは
受けていないという事だ。
「包囲が完成し敵を
殲滅すればそこでこの作戦は
おわりです」
「攻撃が終わるまで補給が
できませんから
なるべく弾薬は節約して
ください」
我々はうなずいた。
反撃開始の前進から
約2時間が経ち、弾薬も
半分を消費していた。
現状は優勢には間違いないが
圧倒的な優勢という程でも
ないだろう。
しかし確実にこの殲滅作戦は
終盤に向けて動き始めていた。
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