31話 無情
8月20日0345 東かがわ防衛陣地
我々は撤退を
開始する。
ドローンの攻撃を
弱まっていくのを感じていた。
ドローンには操縦範囲がある為
味方の突撃時には上手く
機能していないらしい。
味方部隊の側面からの攻撃と
迫撃砲の支援によって
敵の追撃の手が緩んだ。
なるほどこれなら
正面から敵の
攻撃を受けきるよりは
敵に損害を与えられる
かもしれない。
私達はどうにか
車両に乗り込む。
追撃から
逃れる事が出来た
車両に乗り込んで
予備陣地へと
移動を始める。
考えれば我々にとって
戦略的撤退を
選んだことは
この戦争が始まって
から初めての事だった。
我々は鶴羽駅周辺まで
撤退した。
霞2曹は落ち込んでいる。
我々は11号線沿いを
西に進んでいた。
左の山からは次々に
味方の迫撃砲が着弾しており
敵の被害は大きいようだった。
「東かがわの第一線の
防衛陣地に関しては
山沿いに部隊を
展開させる為の時間稼ぎ
だったんですよ」
「知っての通り
山に部隊を展開させるのは
時間がかかりますからね」
それであれば
司令部はあらかじめ防御線の第一線は
ある程度捨てる用意があったと
言う事だ。
だから多数の予備陣地を
構築している。
この山側面に対しての防御陣地に
関しては突破される事も想定した
攻撃的な防御陣地だとも言える。
「わからねーなあ、
説明はあったはずなんですけどね、
どうして地図と部隊配置だけで
そこまで司令部の意図を
読み切ってるんだか、紀伊3尉は
マジで凄いです」
霞2曹がため息をついていた。
紀伊3尉がははっと笑った。
「そうでもないですよ。
いきなり小隊長をやって
死人がでてないだけでも
霞2曹はすごいですよ」
そうだった。
考えてみれば紀伊3尉だって
戦争は今回が初で岡山に行った時は
霞2曹とそこまで変わらなかったはずだ。
誰も間違えていないのに
最善を尽くしても死人が出る状況の中で
この2人はよくやっていると言える。
戦っても戦っても
戦況は良くなるどころか
悪くなっていく。
それでも部隊としてまだ
ギリギリの所で保てているのは
この2人が支えてくれているからだろう。
やがて、予備陣地が見えてくる。
両脇が山に囲まれ
中央の道路に防御陣地が
土嚢やバリケードによって
防御陣地が作られていた。
側面に展開されている為、
防御が固い地形である事が
見て取れた。
8月20日0500 東かがわ防衛陣地 第2線
我々は敵の猛攻から
防衛線を下げざるを得なかったものの
前進する敵に対しての側面から
迫撃砲などが撤退支援射撃をした事で
敵の追撃は止まった。
第2防衛線にまで到達している
敵はいない事からどうやら
こちらの方面の敵に関しては
攻勢限界が来たかと思われる。
我々はなんとか
予備陣地にたどり着く事が出来た。
夏の朝で涼しい風が
頬を撫でる。
ヒグラシの鳴き声が
人間の事情など考えないかのように
つんざいた。
辛うじて感じる
日常生活の残り香に
私は生を実感していた。
「どうにか…
生き残ったな…」
車両内で
霞2曹がつぶやいた。
戦っても
戦っても
決め手に欠ける
この状況に
精神を摩耗していくのを
感じていた。
「司令部に行って
状況を確認しなければ
どうしようもないですね」
「今のままでは
先ほどの夜襲が
主攻なのか助攻なのかも
わかりませんからね」
「我々の部隊が
この防衛陣地で
どう展開するかも
踏まえて確認をとらなければ
なりません」
「第2線ではすでに
部隊が展開しているはずなので
警備はそちらに任せて
車両で待機しておいてください」
紀伊3尉と霞2曹は
司令部へと向かった。
周辺の駐車場には
他に撤退したであろう
高機動車が多数あった。
普通科の赴く場所は
常に前線だ。
傷だらけの車体を
名誉に感じる人間も
いるだろう。
同時に必須の犠牲でもある。
後方支援部隊の面々を
目の当たりにすると
まだ日常の残り香の漂う
余裕のある表情を
している。
あまりにもつらい現実から
怒鳴り散らしたい
嫉妬にも似た感情が自分の中に
いるのも確かに感じていた。
この傷だらけの車体を
名誉に感じるか
それともただの理不尽だと
感じるか
私はどちらの人間だろうかと
と考え
私はそっとなにも
見ない様に固く目を閉じ
現実から目を背けた。
8月20日0500 東かがわ防衛陣地 第2線
紀伊3尉達が
司令部から戻ってきた。
表情は芳しくない。
なるべく平静を
装っているようにみえた。
霞2曹も同じだ。
こういう時は大抵良くない
報告だ。
紀伊3尉が重い口を開いた。
「本日未明から北海道に対しての
ロシア側からの攻撃が続いている
そうです」
どうやら我々の防衛陣地だけではなく
かなり広い規模での攻撃らしい。
私は背中に冷たい汗が流れるのを
感じていた。
「また昨日我々への攻撃に関しては
助攻かと思われます」
「本日の夜襲と合わせて
中国軍は大阪湾に向けて
部隊を動かしています」
「恐らくはこちらが本命です。
数はおよそ1万5千」
「それと同時に
大阪に住む一部中国工作員が
武装蜂起し司令部は大混乱
しています」
それは
言葉が出ない程
最悪の事態だった
読んでいただいてありがとうございます!
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