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30話 夜襲

8月20日0300 東かがわ防衛陣地


凄まじい振動と轟音と共に

目が覚めた。


戦闘靴の足音と

銃声が聞こえ私は

飛び起きた。


すぐに手元の

小銃を手に取り

周りを確認する為

天幕の外に出た。


外は火の海だった。


上を見ればドローンが

飛び回っており。


爆弾を落とされている。


後方からは光が敵陣に向けて

放たれている。


恐らくは特科だ。


「夜襲か!!くそったれが!!」


横を向けば倒れ死んでいる

陸自の隊員がいた。


知り合いでない事に

ホッとする。


炎と死にまみれた

最悪の目覚めだった。


急いで小隊と

合流しなければ

ならない。


私は担当する

防御陣地に向かった。


道中でいくつかの

ドローンを撃ち落とす。


周囲にはいくつかの

ドローンの残骸が

あった。


敵の死体はない。


ドローン事態は

制圧力はないので

まだ歩兵自体は侵入

していないということだ。


防御陣地に到着すると

既に応戦が始まっていた。


敵からの射線を切る為

私は匍匐前進をして

どうにか防衛陣地に

辿り着く。


そこには

既に霞2曹と2名の陸士が配置についており

敵と応戦している最中だった。


「霞!現状は!!?」


霞2曹が私に気づく。


「敵の夜襲だ!

敵数不明!!!

主攻撃か側攻かも

わからん!!!!!」


目の前で敵のZTQ-15Gが

側面からの対戦車ミサイルで

火を噴き上げて機能を停止する。


一番前に配置されていた

土嚢は破壊されており

前線を少し下げている事が

わかる。


見ればいくつかの

敵のZTQ-15G、11式105mm装輪突撃車が

破壊されていた。


夜間で視界が限られるこの状況なら、

装輪突撃車を前に出す判断も理解できた


夜陰とドローンの目を信じて、

強引に押してきている。


火力を発揮される前に

止めておきたい

装輪突撃車がここまで

くるということは

かなり押されているということだ。



「とにかく敵に消耗させろ!!」


敵の迫撃砲にさらされ

ドローンの爆撃にも晒され

防御陣地は崩壊していく。


身体の震えが砲撃によるものなのか

自分自身の震えなのかもわからなくなる程

攻撃は激しい。


戦場全体の視点は我々歩兵には

分からない。


少なくとも私の目から見える

現実としては



突破されるのは

時間の問題に

思えた


このまま耐え続ければどうなるのか、

誰にも分からなかった。


8月20日0330 東かがわ防衛陣地


この防衛陣地は

持ちこたえないように思えた。


前方からいくらかの

敵散兵の姿も確認できる。


いよいよ制圧に

乗り出すという事だ。


防衛線全体に

攻撃しているのか

それともこの部分を

集中して攻撃しているのか


あるいは他の目的が

あるのか


この場では全く

判断がつかない。


「霞、司令部からの

判断はまだか!!」


「状況は報告している!!

上からの命令はない!!」



下がる命令がなければ

我々は勝手に下がれない。


現場判断で下がる訳には

いかないのだ。


自衛隊側も徐々に防衛陣地に

集まって応戦しているものの


敵の数が増えていくのが

目に見えて増えている。


「霞!!どうするんだ!!

私たちが包囲される危険も

あるぞ!!!」



「わかってる!!

わかってるよ!!」


霞2曹は自衛官として

個人の能力は極めて高かった。


レンジャーも出ている。

ストレス耐性も高いだろう。


隊員に対して思いやりもあり

信頼もある。


それでもこの状況は

少々荷が重い様に思えた。


求められている能力が

違うのだ。


それはこの極限状態で

すぐに身につくものでもなかった。


私達の思考の視野は限られている。

現場の人間は必要な情報を全部

与えられているわけではない。


だから

私がこの場ですぐに

指揮できるわけでもない。


できる事と言えば

霞2曹の補佐をする事ぐらいだ。


視野の狭さを痛感し

引き金を引く指に力が入る。


自分の命を消費し

ここで耐え続けるしか

出来ないのだ。


「霞2曹……

司令部に連絡を

第一線を放棄し主線を

第二線に移すように

進言します」


我々の後ろには

紀伊3尉がいた。


「大丈夫ですか」という

言葉をかけることさえ

はばかられた。


どう考えても大丈夫な

状況ではなかった。


我々が驚くほど

軽くなったその体で


それでもなお

彼はまた前線に立っている。


我々小隊の指揮を取ろうとしていた。


ボロボロのはずなのに…

その思いに思わず胸を打たれる。


紀伊3尉は霞2曹の

無線を受け取ると

連絡を始める。


司令部に前線を

下げる提案を

し始めた。


ああ、本当に我々は

いつも紀伊3尉に支えられていたのだと

あらためて思い知った。


「司令部は

東かがわの第一線を放棄するそうです。

我々も予備陣地に移動します」


「しかし、我々が押し込まれれば

他の戦線はどうなりますか」


霞2曹が食い下がる。


「心配ありません。

我々が下がればその分敵が

突出する形になります」


「例え敵が攻勢をかけても右の山は

そう簡単には落ちないので

我々が下がれば突出部の

敵の側面を突く形で

有利になるんですよ」


「逆に我々がここに留まって

包囲戦殲滅されれば人員の問題で

防衛線を維持しづらくなります」


霞2曹が釈然としない様子に

聞いていたがやがて受け入れた。


「…紀伊3尉……オレは…」


霞2曹は自分自身が判断を

下せなかったことを悔やんでいる

事が見て取れた。


自分の能力の限界。


現実は、無慈悲な程容赦なく

選択を押し付け個人の成長を

待ってはくれない。


選択を誤れば他人が死ぬか

自分が死ぬかのどちらかである。


軍事に対する基礎知識と

司令部の意図に対する深い認識と理解が

ないと臨機応変な判断を下す事は

不可能なのにもかかわらずだ。



あまりにも救いようのない状況に

置かれているのが我々の

現状だった。


そしてそれは


私も他人ごとではないのだ


次に判断を迫られるのは、私かもしれない。


砲弾と銃撃の雨は未だに

止まらなかった。


読んでいただいてありがとうございます!

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