29話 変化
8月19日1415 国道
霞2曹が車両にて
司令部から指示を受けてきた
内容を伝え始めていた。
「現在の状況だが
3万の敵が上陸した事により
実質的に鳴門への攻撃は
不可能になった」
「無理な攻撃を仕掛けず
敵を包囲する形で
機動防御の後
陣地防御をする事になった」
霞2曹は地図を広げて
四国の東の部分の鳴門を
中心としてぐるっと半円を
描くように指でなぞった。
「ざっとこんな感じで防衛線を引く。
我々の担当はこの東かがわ市だ」
東かがわ市は防衛線の最北端に
あたる場所になる。
「我々は1430から東かがわ市に
向けて前進する。
その前に食料の受領と弾薬の
受領を終えておくぞ」
「それから紀伊3尉は回復するまで
絶対安静にして下さい!」
紀伊3尉が答えるように
静かに手を挙げた。
少しだけ小隊内で
笑いがこぼれた。
「それからな。
司令部にいって知った事だが
今回の上陸に関しては
実質的には防衛側の勝利らしい」
「敵はオレ達が分断殲滅を
行っている時に
陸自が上陸阻止が出来ない事を
見越した上で、このタイミングで
この上陸を行ってきた」
「だからほぼ海自単独で
上陸阻止をしたそうだ。」
「それでも三分の一の上陸を阻止
出来たんだからそう悲観した
もんでもない」
霞2曹が頭を掻いて笑った。
紀伊3尉からの報告を聞いた時の
自分の反応を恥じているのだろう。
だが、これは敵が明らかに
自衛隊の状況を理解した上
的確に判断を下し
時にはリスクのある作戦も辞さないと
いう事だ。
敵の司令官は
防衛目録にある陸海空の連携を意図的に
破壊してきている。
自衛隊はおそらく運用を誤っていない。
明らかに敵の司令官は相当な手腕だ。
それも陸海空を合わせた広い視点を持ち
現場レベルですら理解できる
すさまじい戦略家。
気付けば、霞2曹がじっと私の目を見ている。
私が何を考えているかをわかっている。
その上で霞2曹が目を見ているということは
士気を下げる事を言うなと事だと察して
私は言葉を飲んだ。
「長門、お前は悪いがオレにサブとして
ついてくれ。」
「これからオレも倒れるかもしれん。
何があるかわからんからな
バックアップは必要だ」
縁起でもない事ではあるが
これは必要な処置だ。
気付けば陸曹は
私と霞2曹の二人だけに
なっていた。
ここ数戦は
小隊から犠牲者は
出ていない。
それでもいつ誰が
死ぬか分からない。
そうなれば次に
小隊の指揮を
とるのは自分の番
という事になる。
8月19日1430
現地へと出発する。
2時間ほどかけて
東かがわ市に到着する。
道路にバリケードを設置して
車両が通行できないようにする。
さらには土のうで防御壁を作り
後方には火力支援として
16式機動戦闘車が配置され
さらに後方には
迫撃砲、重迫撃砲
特科、高射特科が配置された。
戦況はお互いに手を出す
事が出来ず膠着状態になり
我々は自国の領土を占領
されているにも拘わらず
敵に手を出す事が出来なく
なってしまっていた。
8月19日1800 東かがわ防衛陣地
夏の日が落ちて
涼やかな風が吹き
鈴虫と蝉の声が
聞こえていた。
向こうに見える鳴門では
殆ど街に光が見えない。
まるで死んでいるかの様だった。
そんな街を
我々は防衛陣地から
ただ眺めている事しか
できない。
一時間事に歩哨に
交代で立ち皆が
代わる代わる
休んでいく。
24時間体制で
警戒を続ける為だ。
「長門、時間だ。
何か異常はあったか?」
後ろから霞2曹が
現れる。
「ドローンが数機偵察に来た。
こちら陣地には近づこうとしなかった。
目標が小さく撃ち落とすのは無理だな。」
霞2曹が肩をすくめ、そうかとだけ答えた。
「鳴門では大量のドローンが
目撃されているから
戦闘ヘリなんかの投入を躊躇
しているらしいな」
「オレ達が新隊員の時には
考えられないほど戦争は進歩
してしまったんだなぁ」
霞2曹がしみじみと語った。
私もそこについては全くの
同感だった。
「霞、お前は小隊長代理だろ?
なんかあった時の為に
控えてなくていいのか?」
「いいよ、オレが入る分
陸士を休ませられるからな」
「それに本当に何かあれば
オレより紀伊3尉の方が
対応できるだろうしな」
「ややこしい幹部連中の
相手なんてオレはご免だね」
どうやら一度司令部にいった時に
余程面倒だと感じたらしい。
霞2曹は現場向きの人間だ。
意見が合わないのかもしれない。
「紀伊3尉はどうなった?」
「頑なにここから離れようと
しねぇから衛生に見てもらった
過労と軽い栄養失調だとよ」
「飯食う暇もないくらい
動いてたんだと今点滴
うってるよ」
呆れるくらい真面目な人だ。
まさかそんな状況だとは
思わなかった。
ある意味ここでの
陣地防御は私の小隊には
ありがたいのかもしれない。
考えてみれば15日から
この4日間は戦い続けている。
敵が来なければその間に身体を
休めることはできる。
「霞、次に敵はどうくるかな?」
「紀伊3尉の見立てじゃ
大阪に向かうってかもって話だが
正直どうなるかわからない」
「米軍が動いて援軍が来れば
それで戦争は終わりだろうが
そんなの敵もわかっていることだしな」
「幹部の話じゃアメリカの太平洋艦隊が
到着するまで2~3週間はかかるだろうって
話だから敵はその前に何らかのアクションを
起こすだろう」
「この前みたいにバカな政治家に
かき乱されない事を祈るばかりだ
勝てるもんも勝てなくなっちまう」
霞2曹は不安を隠す為なのか
普段より口数が多いようだった。
私はそれを黙って聞いていた。
「おっと、悪いな
拘束しすぎた。
ゆっくり休んでくれ」
霞2曹は笑って
私を送り出した。
防衛陣地のすぐ近くの
公園に天幕が張ってあり
折り畳みのベッドが
用意されていた。
簡易拠点として機能させていた。
周りには蛇腹がしかれ
関係者以外が来ることを
妨げている。
入口には他部隊が歩哨を
つけており、巡回なども
しているようだ。
掲示板に張り出された
指示された天幕に入り
すぐに横になる。
私は深い眠りについた。
眠りに落ちる直前、
鳴門の闇が、こちらを見返している気がした。
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