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27話 捕虜

8月19日1230 国道32号線沿い


味方後方からの迫撃砲の

展開も完了し

次々と敵車両を撃破

していく。


辛うじて生き残った

敵兵士が下車して

側面展開を試みるが

左右に配置されている

我々普通科がそれを

許さない。


左右の高所から

射撃を加えて敵を

拘束する。


「敵兵がこちらの

山に突撃開始して

います迎え撃ってください」


敵はこちらに突撃を

敢行するが鉄条網に阻まれ、

その隙に小銃やMINIMIなどの

機関銃で掃討されていく。


配置だけで圧倒的な

優位を確立出来ていた。


演習訓練で

戦略的に優れている部隊と

戦うと何もさせてもらえない。


私にも経験がある。


そして我々は今それを

敵に対してやっていた。


タイミングも数も

まちまちな突撃では

この陣地防御を突破するのは

無理だろう。


敵の最大火力であろう

ZTQ-15は封じられ


本来突撃支援射撃で必要な

迫撃砲は展開できない。


逆転の芽などないのだから

たまったものではないだろう。


やがて敵は

白旗を振り始めた。


もはや勝ち目がない事を

悟ったのだろう。


武器を捨て両手を上げて

戦う意思がない事を示していた。


包囲完成


退路なし


補給遮断


援軍なし


この状況下では敵にとって

全滅だと言える。


引き金にかけていた指が、

ゆっくりと力を失った。


「撃ち方止め!!!」


紀伊三尉から

号令がかかる。


「敵の降伏を認め

捕虜として受け入れます」


「いいんですか?」


私は紀伊3尉に問う。

捕虜として受け入れるにしても

まだ結構な数の敵兵がいる。


移送にそれだけ

人出を割かなければいけなかった。


この状況で果たして

それは正しいのだろうか?


甘えたヒューマニズムの結果を

我々は敵施設を制圧した時に

身に沁みて分かっている。


「国際法に準拠します

降伏した相手に危害を加える事は

許されません」


「相手は国際法の事なんて

お構いなしじゃないですか!!!」


敵は我々の家族を人質にとっていた

一般人に対して銃口を向け

あまつさえ無抵抗な自衛官を射殺している。


向こうはやりたい放題なのに

こちらは我慢しなければいけない

道理はない。


「今ここで無抵抗な敵兵を殺せば

日本は国際的な信用を失うでしょう」


「やってもやらなくても

向こうはでっち上げて

言ってきますよ!!」


それが敵国の常套手段だからだ。


「それでも、です。」


「核を持たない日本が

平和主義国家として諸外国に対して

対抗するには世界的な信頼が

生命線なのです」


「それに我々は

冷酷な殺人マシーンでは

ありません」


「相手がどれだけ非道でも

人間として正しくありましょう」


日本が置かれている状況

倫理と現場の判断が交錯し

私はやりきれない思いが胸を支配した。


私は何も言えず、

ただ歯を食いしばった。


8月19日1300 国道32号線沿い


我々は捕虜の

移送作業をしている。


警察も来ており

協同での移送作業と

なっている。


四国の解放も進んでおり

徐々に都市機能を取り戻しつつ

ある証拠だ。


捕虜を後ろにして

ロープで縛る。


降伏したとはいえ当然の話だが

納得している様子はない。


中国の言葉で何かよくわからない

罵倒を繰り返し


血走った敵意のある目で

こちらを見つめてくる。


「ありゃあ、命を助けてくれて

ありがとうって感じじゃねぇよなぁ。

やってらんねぇぜ」


霞2曹が呟いた。


こちらの善意などお構いなしで

悪意をぶつけてくる。


「まあ、いいさ。

どの道、次は鳴門だ。

その部隊を壊滅させりゃ

とりあえずは大丈夫だろう、なあ?」


霞2曹は私に同意を求める。

まるで自分に言い聞かせている

ようにも聞こえた。


「そう簡単にいくかな?

今回はこちらから先に仕掛けた

から上手くいった。」


「鳴門は敵も防御を固めているぞ。

数も多い。

今回みたいに一方的な

展開は望めない」


私の答えに対して

霞2曹がため息をつく。


「長門、お前はいつも深く考えすぎだ。

もっといい方向に考えられないのか」


「陸士もいるんだ。

不安にさせるような事言うな」


「別に、私はただ…」


言いかけて言葉を飲み込む。


ここで言い合っても仕方ないし

霞2曹のいう事の方が正しい。


私は倒れている自衛官の遺体を

目にする。

口にはドッグタグが挟まれている。


一方的な展開だったとはいえ

味方に死人はでていた。


戦闘をするたびに部隊の摩耗は

避けられない。


鳴門に攻勢をかければ

今回の比ではない程

味方に被害が出るだろう。


それを考えれば

楽観的に考える事は

私には出来なかった。


紀伊3尉が司令部から

帰ってくる。


見れば顔が真っ青だった。


悪い予感がした。


「小隊、集まって下さい」


紀伊3尉が小隊を

集める。


「悪い情報です。

心して聞いてください」


我々はゴクリと

生唾を飲んだ。


「徳島方面から敵の追加の

増援部隊を確認しました。

その数、推定3万」


それは脳に直接

冷水を浴びせられた様な

衝撃だった。


背中に、冷たい汗が伝うのを

感じた。


「マジかよ……」


霞2曹の苦心に満ちた一言が

静まりかえる小隊内に

空虚に響いた。



橋頭堡の確保


敵の分断挟撃殲滅。


残るは敵の主力の撃破。


そのはずだった。


今までの優勢が

たった一手で覆される。


分断殲滅によって

やっと互角に持ち込んだ兵数が

また2倍以上に増える。


その事実は戦場全体の

士気を落とすのに

充分な要因となった。

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