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26話 完成された機動防御

8月19日1145 国道


我々は32号線を南下していた。


北上してくる敵部隊は

同じく機械化歩兵の為

道路を使い移動してくる

事が予想された。


その為、経路を予想しやすく

待ち伏せをしやすい。


連戦ではあるものの

小隊の士気は高かった。


「予備の弾薬を

弾薬庫から受領しています。

今のうちに弾薬の装填を

しておいてください。

装備の点検もです。」


我々は銃口の手入れを

しておくことにした

肝心な時に詰まったりすると

命取りになる。


目的地にはあと30分ほどで

着く予定だ。


「そういえば紀伊3尉

駐屯地に突入する時

紀伊3尉は特殊作戦群や

空挺が人質を救出する事を

知っていましたよね?」


紀伊3尉は短く「ええ」

とだけ答えた。


「なんでその事を

あの時私達に伝えなかったんですか?」


紀伊3尉は銃口を整備しながら

少し考えて答えた。


「確かに私は司令部にその計画が

ある事は知っていました。

ですが、それは秘密にしておくことが

司令部で定められていました。

他の小隊も同じです」


「なぜです?」


「敵に警戒をさせない為です。

実際、いつ人質救出作戦を行うかまでは

示されていなかったですよ。

無線の返答で予測はつきましたけど」


「あの場、皆さんにいう事も出来なかった。

もしその宗旨の発言を突入前に言えば

その雰囲気から敵が人質に対して何か

アクションを起こす危険性があった。

それを恐れたんです」


「敵が我々に見せつける様に

グラウンドに人質を出したから

あの救出作戦は成功しました」


「例えば敵が警戒して建物内にいられたら

ああも上手くはいかなかったでしょう?」


確かにそうだ。

もし、空挺との共同作戦の事を

知らされていたもう少し緊張感が

欠けた状態になっていたかも

しれない。


戦場の兵士達の直感は

鋭敏だ。


少しでもおかしな雰囲気を

感じたら警戒して何かに

気付くかもしれなかった。


「ある意味私にとっても

賭けの様な所はありました。

特殊作戦群や空挺が本当に動いている

確証はありませんでしたから」


「敵に傍受されている可能性が

あるから無線で確認を取る訳にも

いきませんからね」


「ですが、皆さんが私を信じて従ってくれた様に



私も皆さんが私を信じてくれると

信じていたのですよ」


紀伊3尉はニコリと笑った。


ああ、自分達は紀伊3尉の

思慮深さに支えられているんだなと

改めて感じた。


車体からわずかに振動を感じた。

上にはオレンジ色の火花が散り

制空権の取り合いをしているのが

見えた。


遠くには黒い煙が上がっている。

ここからではどうなっているかは

予想がつかなかった。


「あと少しで着きます!

前哨戦が始まっている様子です

気を引き締めてかかりましょう」


車両は進み、やがて我々は目的地を

確認する。


狭い道路には自衛隊車両と装甲車、

16式機動戦闘車が見え盾になるように

横に止められていた。


そのさらに前方には土嚢などを使った

臨時のバリケードが作られている。


道路の左右は山になっており

天然の防御陣地になっている。


よく見れば山には鉄条網で

防御柵も作ってあった。


ここで食い止めなければ、

家族のいる街が再び危険に晒される。


集結しつつある自衛官達と共に

機動防御からの

包囲殲滅戦が始まろうとしていた。


8月19日1200 国道32号線沿い


我々は目的地に到着し、

道路左の山地にて陣地防御

する事になった。


道路正面の対応に関しては

既に人員が足りており

側面からの攻撃に対して

備える必要があることと


両脇の山を固める事で

道路を中央として突出

してきた敵を3方向から

迎撃できる形になる。


「急いで配置に

着いてください

1キロ圏内まで

敵が迫っているとの事」


「可能であれば

土嚢を作って防御壁に

して下さい!

掩体を掘っている暇は

ありません!」


紀伊三尉が叫んだ。


我々は土嚢袋を

受け取り、示された

左の山に向かう。


急いで土嚢袋に

エンピ(スコップ)で


土を入れて簡易な

防御壁を作り上げる。


袋に土を入れただけの

ものだが防御壁としては

役に立つ。



10分程で敵が姿を現した。

ZTQ-15 11式105mm装輪突撃車を

先頭に無理矢理

道路上の防御陣地を

突破しようとしていた。


装甲が施されており

小銃での対処は困難である。


16式機動戦闘車の主砲が

火を噴き主砲の轟音が山に反響し、空気が震えた。


正面から放たれた

LAMなどの対戦車火器が

命中し防御陣地により

敵部隊の先頭が止まる。



そのすぐ後ろの

ZTQ-15 11式105mm装輪突撃車に対して

道路の左右の山から射線が斜めに

重なるようにして対戦車兵器が

撃ち出された。


戦車、装輪装甲車の類の弱点は

側面である。


本来であれば脅威であるはずの

ZTQ-15は

火力を発揮する間もなく

次々と葬られていく。


遥か敵の後方でも

黒煙が上がっており


西部方面普通科連隊が

敵の後方から攻撃を

行っている事がわかる。


縦に長い道路に対して

敵の頭を押さえ

さらには後方を押さえて

中間の敵を無力化する。


側面も押さえている為

敵に逃げ道はなかった。


車両に乗っての

機動展開の最中なので

敵はまだ歩兵を下車して

戦闘態勢をとる事すら出来ていない。


上空には制空権を制したのか

アパッチが旋回していた。


一方的な展開だった。


引き金を持つ指が

かすかに震えていた。


今まで私たちは敵に主導権を

取られた状況下で戦わず

終えなかった。


しかし、今回は情報を元に

先手を取り戦略的な展開を

する事が出来る。


我々は戦える


絶望的な戦況下で見たのは

訓練で叩き込まれた機動防御の完成形だった。


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