18話 出航
8月18日 0900 港
一連の騒動は芹澤所長の
活躍で幕を閉じた。
我々は何もする事が
出来なかった。
私は敬礼をする芹澤署長を
見て呟いた。
「丸く収まってくれて
良かったですね
芹澤署長には感謝しないと」
紀伊3尉がうなずいた。
「そうですね、
実際我々、陸自だけでは
対処困難な事もある」
「敵は民間人を使って
政治的に不利になるような
からめ手も使ってくるようですから
充分に注意しなければ作戦どころ
ではありませんね」
ぼさぼさと頭をかきながら
霞2曹がいった。
「しかし、斎藤県知事は
自国に敵の軍事基地を誘致
していたのになんでしたっけ
外患誘致罪だったかな?
あれには問えないんですかね?」
紀伊3尉が目を細めた。
「外患誘致罪は判決が
でれば死刑ですからハードルが
高いんですよ」
「いまだに判決を下された
ケースはありませんしね」
「芹澤署長の言っていた
外患援助罪に問うのも
難しいかもしれませんね」
「そんな……」
紀伊3尉の返答に私は
言葉が出なかった。
それが事実だとすれば
日本に他国からの秘密の軍事基地を
作られても関係者を裁くのは
難しいという事になってしまう。
実際に犠牲者が出るにも
関わらずだ。
「まあ、いまは問題が
収まった事をよしとしましょう。
私は司令部に行って来ます」
それだけ言うと
紀伊3尉は司令部へと
向かっていった。
8月18日 1200 港
高機動車内で待機
していた我々の元へ
紀伊3尉が帰ってきた。
「随分と長かったですね」
私は紀伊3尉に声をかける。
「ええ、上が四国の奪還作戦を
決めましたからその打ち合わせが
長引きましてね」
「それじゃあ!」
私はゴクリと唾を飲んだ。
紀伊3尉はコクリと
頷いた。
「かなり大規模な作戦に
なります」
「九州地方、中国地方、近畿地方から
部隊を引き抜いての大作戦と
なります」
「作戦総兵力は約1万5千。」
確か、敵の部隊の想定は
3万人だったはずだ。
集めてもこれだけしか
集まらないのか。
「日本海側からの人員は
引き抜けません。
また近くですぐに集まれる部隊と
なるとどうしても限られます」
陸上自衛隊全てが戦闘職種と
いう訳ではない。
それを考えればこの数は
仕方がないのかもしれない
「敵に防御態勢を整える前に
攻撃を行いたいとの事です」
「九州地方、中国地方、近畿地方の
瀬戸内海に面している港から、
海自の一部、海上保安庁、民間の船、
空からは空自の支援を得て一斉に、
四国へ強襲上陸をかけます」
「初動投入は約5千、24時間で倍化、72時間で全体展開」
「各浜で局所優勢3:1を作る。
第一波の任務は橋頭堡確立、第二波で官舎救出と要地奪回」
「我々は第一波として
組み込まれています」
「状況開始は0200です」
とんでもない規模の作戦だが、
四国の奪還は自分達の
悲願である。
胸が熱くなるのと同時に、
家族への思いが募っていくのを
感じていた。
8月19日0130
作戦詳細を聞かされてから
私たちは各々の時間を
過ごした。
休憩をとったり
弾薬の準備をしたりだ。
情報では敵の
四国沿岸部の
対艦兵器の配置は
間に合わないだろうとの
予測だ。
私は黙って海の向こう側の
四国を見つめていた。
明かりは見えず
今どうなっているかすら
わからない。
「よっ」
後ろから突然肩を
叩かれた。
霞2曹だ。
「ったく、無茶言うよな
強襲上陸の訓練なんて
受けてないのに、なぁ?」
「やらなきゃ
仕方ないだろう…
家族がまってるんだ」
「……そういえば
霞は泳げないんだったか」
確か泳げないから陸自に
入ったと新隊員の時に
聞いた事があるような
気がする。
「ガキの頃に親父に
無理やり海に放り投げられてな
それ以来トラウマだ」
なるほど、あの旅団長なら
やりそうなことだ。
「新隊員の時に聞いたよ
その話は」
「霞と出会ってから
もう10年か」
夜風が舞う
新隊員の頃から
同じ小隊に配属され
様々な演習を共に経験してきた。
かけがえのない仲間である。
「生き残るぞ」
霞2曹が静かに
拳を差し出す。
「当たり前だ」
私も静かに拳を
合わせた。
8月19日0200 港
我々の小隊は
民間の船に乗り込む事に
なった。
まずは橋頭保を
確保してから
後からフェリーに載せてある
高機動車に乗り込む算段だ。
「よろしくお願いします!!」
漁船の主である波川船長に
我々は挨拶をする。
「おう!任せてくれ!
必ず送り届けてやるからな!」
日焼けした40代の男性が
元気よく挨拶を返してくれる。
多くの漁船やフェリー、
あるいは海上保安庁の船に
隊員達が乗り込み
出航する。
エンジンの低い唸りが腹の底を震わせる。
黒い海が縁だけ白く砕け、船影が音もなく滑り出す。
灯火は制限された上で
四国に向かわなくては
ならない。
今日は新月であり
天も味方していた。
民間と自衛官の
手を携えた前代未聞の
作戦が始まろうとしていた。
それは前大戦の呪縛から
解き放たれたかのような
瞬間だった。
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