17話 敬意
8月18日 0820 港
斎藤知事の自衛隊反対の
演説に対して
我々は何も出来ずにいた。
「一体どういうつもり
なんだかな」
霞2曹は呆れた様に言った。
我々は別に侵略戦争をしようと
しているのではない
直接侵略を受けてその地域を
奪還しようとしているのだ。
我々は市民に対して
強く出られない以上
こう来られると手の打ちようが
なくなってしまう。
自分達の家族が敵軍に
人質に取られている以上、
今は長い時間をかけて
議論をしている場合じゃないのだ。
ジリジリとした
焦りのようなものを私は
感じていた。
「斎藤県知事、
そいつはぁ、ねぇんじゃないか?
明らかにおかしいだろう?」
出てきたのは漁協の沼田組合長だ。
年配だが威圧感のある人物である。
「政府から非常事態宣言がでて
日本が侵略を受けているんだろう?」
「それなのに
何を他人事みたいなことを
言ってんだ!!!」
「県民の命を預かるってなら
民間だろうが何だろうが
こういう時に力を合わせなく
どうするんだ!!!」
「いい大学出て
それぐらいの事も
わからねぇのか!!!」
顔を真っ赤にして
怒る組合長。
私は胸がスッとした
正に斎藤県知事は
私自身が言いたい事
だったからだ。
斎藤知事は全く
動じなかった。
「田沼組合長
今の発言は
侮辱罪にあたりうる
法的措置を検討します」
「幸い騒動になる事を
考えて県警に要請を
出しておきました。
貴方を刑事告訴いたします」
「やってみろ!!!
まともな事を言う人間が
逮捕される様になったら
この国はいよいよ終わりだぞ!」
斎藤県知事が
後ろに控えていた
警察官の何人かを
ジロリと睨んだ
複数の警官が
動き始める。
「紀伊三尉!!
警察を止めましょう!!
あのままで田沼組合長は
連れていかれてしまう!!」
紀伊3尉は横に首を振った。
「ダメです。権限外です。
マスコミもいます
今出れば映像は切り取られ、
任務も支援も止まる。
格好の餌食ですよ」
「田沼組合長は
我々を助ける為に動いてくれたんだ!
我々の為に言ってくれたんだ!!」
「我々はそんな人間を
見捨てるんですか!!!」
紀伊3尉は無言で
うなずくことしかできなかった。
「長門、やめろ
お前だってわかっているはずだ」
霞2曹が私を止める。
明らかに馬鹿げた事が
起きているのに
自分には何もする事が
できない。
そのことを
ひどくもどかしく感じていた。
8月18日 0830 港
田沼組合長は警察に
連行されようとしたとき
「待て」
1人の男性の声が
轟いた。
その号令で警官たち
が止まった。
「なんですかな?
芹澤警察署長」
芹澤と呼ばれた男は
一歩ずつ斎藤県知事に
近づいていく。
「斎藤県知事
たった今
貴方に逮捕令状が出ました」
斎藤県知事は
思わぬ言葉に身じろぎする。
「令状?なんのです?」
「先日のソーラーパネル設置地区に
あった地下施設。」
「斎藤県知事、貴方は
その施設が軍事利用される事を
知っていましたね?」
「な、何の話だ?
証拠はあるのか?」
斎藤県知事は絞り出すように言った。
「容疑は贈収賄・背任・職権濫用・虚偽公文書作成。」
「地下施設からの押収物や捕虜供述、
資金の流れで裏付けています。
公安も共同で動いています」
「なお、有事法制上の外患援助罪の適用可能性については、
事実関係の精査を継続します」
「ぐぬぅ……」
斎藤知事が悔しそうに
顔を歪めた。
「だから何だというんだ
そもそも県知事の職務に
報告義務はない!
本当に軍事施設として
利用されるとも思わなかった!」
「よって背任にも外患援助罪にも当たらない!」
なり得ない!」
それを聞いた芹澤署長は
僅かに目を細めた。
「職務上の裁量は適法手続と誠実性の枠内です。
資金授受と虚偽記載が立てば、
裁量の逸脱として刑事責任を問われます」
芹澤署長は少し間を置き
しっかりと斎藤県知事を見据え
口を開いた。
「私の次男は
地下施設の制圧戦に
自衛官として
参加していました」
斎藤県知事が目を見開いた。
「まだ、19歳でした。
あんな施設がなければ
死ぬことはなかったかも
しれない……」
「子供が戦争に行く事のない国を作る。
建前でも、その言葉を今の貴方が使うことは許されない。」
「——現場を妨げないでください。あとは法廷で」
斎藤県知事は見苦しく足掻いていたが
警察に連れていかれた。
メディアも目の前で起きた大事件を目にして
そちらへと流れていた。
芹澤署長は自衛隊反対派の集団にも
目を向けた。
「皆さん現在、非常事態宣言が出ております。
速やかに避難所に戻って下さい」
「いくらもらっているかわかりませんが
後ろ盾がなくなった今
あなた方もどうなるかわかりませんよ?」
その一言で集団は解散となった。
芹澤署長は静かに自衛隊の
いる方へと向くと
挙手の敬礼をした。
その姿は敬意に満ちたものだった。
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