10話 地獄絵図
8月17日0830 施設周辺
現場では緊張感に満ちていた。
紀伊3尉は指示を受けに
本部に行っていた。
霞2曹が双眼鏡を
覗いていた。
「多分、あそこだな」
私は霞2曹から
双眼鏡を手渡される。
覗いてみると
コンクリート製の
コンビニくらいの
大きさの建物が見えた。
「100名を収容するには
面積が足りないんじゃないか?」
私が霞2曹に疑問を聞いた。
「恐らくだが、
地下施設があるんだろうな」
なるほど、納得がいった。
山奥の施設だ、
こういった有事でもない限り
誰も気にも留めないだろう。
日本海の海岸線からも
比較的に近い。
相当周到に用意されていた
と見て間違いないだろう。
同じ小隊の陸士達の
顔を見ると皆不安そうにしていた。
不安な気持ちはよくわかった。
「心配するな、
これだけ味方が
集まっているんだ
必ず上手く行くさ」
陸士達がそれぞれ
反応した。
それは私自身の不安を払拭する
行為でもあった。
8月17日0845 施設周辺
指示受けから紀伊3尉が
戻ってきた。
「集まってくれ
ミーティングを始める」
「今回だが、1200までは
各自待機位置にて警戒。」
「上の指示を待つとの事だ」
「もし、1200までに
向こうが立ち入りを
許可しなかった場合は
数回に分けて強行突入を
実施する」
周囲がざわつく。
今まで後手に回っていた
我々にとってはかなり
強気な作戦だと言えた。
「我々は第一次強硬突入部隊
に組み込まれている。」
「昨日の戦闘で捕虜を取った事が
評価された」
これは喜んでいいのか
わからなかった。
第一陣という事は
かなりの危険が伴うと
いう事だ。
「敵が先手をうって
攻撃してきた場合は?」
霞2曹が問う。
「その場合は現場判断で
応戦許可が出ています。」
「0900からその場に応じて
実弾の使用を許可
それまで6弾倉全弾装填
しておいてください」
私は驚く。
自衛隊にしては随分と
柔軟な対応だからだ。
「最後に旅団長からです」
「今回の作戦はかなり
強硬策の為
何かあった際は全ての
責任を負うとの事です」
「この作戦の後、何を聞かれても
上の命令に従っただけだという事を
徹底して欲しいとの事です」
私は言葉もなかった。
いや、私だけではなく小隊全員だ。
公務員気質のある自衛隊において
これ相当な覚悟がある言葉という事が
わかった。
後ろで霞2曹が「親父…」と
静かに聞こえた。
旅団長の思いに答えようと
胸の奥から灼熱の様に
気持ちが昂るのがわかった。
「それでは、定位置につきます。
目標施設の200メートル圏内です」
我々は定位置に警戒についた。
8月17日1155 施設周辺
1155。
腕時計の秒針が、砂に沈むみたいに遅い。
正時更新は来ない。
風が一度だけ止んだ。
次の瞬間——回転翼の音が
その場を支配した
やばいーーーーーー
私は瞬時に判断する。
「ヘリボーンだぁぁあああああ!!!
伏せろぉおおおおおおおおお!!!」
乾いた連続音が地面を砕き、
土と葉と金属片が同時に跳ねる。
世界が一拍白くなり、耳の奥でピーという線だけが残った。
8月17日1156 施設周辺
土埃が舞い、
金属片が舞い踊った。
濃厚な血の匂いがして
すぐ隣の名も知らない
隊員の顔が吹き飛んだ
紀伊3尉が樹の陰に
隠れ本部に連絡を取っていた。
「CP、CP!!!!!
こちらタイガー1
現在地目標施設200メートル付近!!
上空からヘリボーン攻撃!!
繰り返す!!!
上空からヘリボーン!!!
至急支援求む!!!
送れ!!!!」
機銃の回転は止むことを知らず
瞬く間に部隊を蹂躙していく。
我々、小銃部隊は
上空戦力に対しては無力なのだ。
対空武器を持たない為であった。
隠れてやり過ごすしかない。
突然、我が部隊の方から
砲火が飛んでくる。
迫撃砲か
それとも高射特科かの
判断はつかない。
数機のヘリに命中し
爆炎を起こしながら
墜落する。
凄まじい轟音で
地面が揺れる。
血と熱でその光景は
まるで地獄絵図の
ようであった。
紀伊3尉が叫びを
あげた。
「小隊!!!!!!
1205まで我が方から
突撃支援射撃!!!
1206より施設占拠の為の
突撃を実施する!!!」
「なお、制空権の
一部が突破されている!!!
上空に注意しろ!!!」
味方からの
支援射撃が続く
施設の一部を損壊
していくのが見えた。
私は急いで自分の小隊の
負傷者を確認する。
私の小隊から
陸士が4名
やられていた。
その遺体は機銃により
上半身は崩れていた。
その悲惨さに思わず
目を背ける。
皆、20代である。
今年成人を迎えたものもいる。
私は黒々とした
怒りが込み上げていくのを
感じていた。
厳しい訓練を
乗り越えてきた
者たちだ。
共に同じ釜の飯を
喰ってきた仲間達である。
それがくだらない利権なんかのために
こんな施設を母国に作られ
そのせいで
若い命が散っていく。
これじゃ何の為に
こいつらが死んだのかわからない…
本当ならこんな
馬鹿な話があるはずがない
筈がないのに…
誰も止めないから
それがまかり通って
しまっている。
ちくしょう
ちくしょう!!!
やがて
支援射撃が終わった。
土の匂いが
覚悟の匂いへと変わる。
怒りによって
緊張だとか
そういったものは
吹き飛んでいた。
「小隊!!!
突撃開始!!!」
紀伊3尉の号令のもと
我々は施設への
突撃を開始した。
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