鼎と逃げた!
「おはようございます朝日さん」
「ーーすいません、中身に関してどなたかお聞きしても?」
「嫌ですよお、昨日の今日でお忘れですか? ナーシャですよ」
……気持ち悪い!
誰だよ、本当お前ーー誰だよっ!!
「俺の知っているナーシャはそんな子じゃない!」
「これがナーシャの本当の姿です。眼鏡を掛けているのが、不自然ですか?」
そう言う問題じゃない。
眼鏡を掛けていようが、いよまいが、見た目はナーシャのまま変わりないのに中身が突然変異を起こしているんだよ。
俺と鼎がナーシャの家に泊まった日からだいぶと経ち、何も変わらないいつも通りの日々を過ごしながら夏に突入した七月一日の今日。
俺とナーシャの関係は良く、互いに意識していないせいか近い距離感で高校生活を共にしていられていた。
そこに鼎と桐華ちゃんが、嬉しくない俺の奪い合いを初めだしたのが六月頃ーー今では、命の危険を感じていたりするほどだ。
鼎は変わらず、ナーシャと貴之が居ても関係なくしつこくストーカー行為を続けている。
そしてエスカレートしたのは一日一回もしくはしてこない日があったが、今では一日最低十回の告白をされている。
桐華ちゃんに至っては、ちょっとずつ接触が増えてきてこの間なんて昼飯時に頬についた米粒を取られたくらいに成長(最悪だけど)している。
そんな中ーー更に追い打ちを掛けるように、ナーシャが突然変異した。
T-ウイルスがG-ウイルスに何故変化するのか理解できないのと同じように。
「ーー先輩! おはようございます! 付き合ってください!!」
「今それどころじゃねーんだよ!! 何とかしろおおおお鼎!? ナーシャが突然変異したぞ!」
「嫌ですよ朝日さん。突然変異だなんて、私は化学物質か何かですか?」
「……ナーシャ先輩? あのう……賢いキャラはモテないですよ?」
ーーお前が言うかああああ!
盛大に心の中で突っ込みを入れてしまった。
賢いキャラより断然、ストーカーキャラのほうがモテるはずがないーーむしろ嫌われる一方だ。
自覚のない天然キャラでありながらストーカーキャラの二足のわらじを履く鼎に、上から目線でものを言われながらもいつもなら突っ掛かっていくナーシャは首を傾げるだけで終わる。
「鼎さん、私は朝日さんとお友達なだけですよ?」
「知ってます。だけど……賢いキャラは古いんです!」
「ストーカーキャラはそもそも流行ってねーよ! お前自覚しろ、お前は過去を振り返れ!?」
「大丈夫ですよー先輩! 愛はきっと勝つって言うじゃないですか〜!」
「勝てねーよ! 歪んだ愛は日に日に再生不能になって気づいたらダークサイド落ちてんだよ! だから突然彼女がヤンデレかしたと思えば自傷行為に走るんだよ!」
「それは偏見ですよ、朝日さん。愛故にです」
「……」
「先輩……ナーシャさんじゃ、ないですね。誰ですか、この委員長系。とりあえず、うざいです」
またまたお前が言えたことではない。
しかし、いつものナーシャでないと、調子が狂って接し方を改めなくてはいけない。
突然変異なのか、それともふざけているのか、分からない微妙な天秤の揺れを見て判断しないといけない。
「ナーシャ、起きてるか?」
「はい、しっかりと起きていますよ」
「鼎、生きてるか?」
「やめてくださいよー、生きてます!」
「……よし、俺は死ぬ。現実が受け入れられない!」
現実がだんだん酷くなり、耐えていることができない。
死ぬつもりはさらさらないが、俺は今の状態から逃げたくなり窓へ向かって走りーー外へ羽ばたく。
「ーー先輩私もおお!」
「お前は来んなああああ!」
鼎も着いてきて、二人で羽ばたく形になった。
俺は逆に、鼎に抱きしめられて下へ降りた。
着地したのは鼎だけで、俺はただ抱きしめられているだけの無様な男である。
「何してんだ……お前……」
「あそこに一人は無理ですよ。あのナーシャさんとは会話もできそうになくて……私も逃げたくなって」
「逃げたくなってといっえてもなーー」
「ーー鼎! 朝日ーー」
「「うわああああ!! 来たああああ!!」」
俺と鼎は、後を追って飛び降りてくるナーシャから全速力で逃げるためその場を離れ、たまたま乗って登校したママチャリに乗り合わせて逃げる。
気づいたら俺達はーー学校を出ていた。
★
「すいません、はいはい。はい、鼎は大丈夫ですので、はい」
俺は担任の舛添に、「登校中に鼎が怪我したから接骨院に来ている」と嘘をつき、学校が終わるまでには行くと連絡した。
それで遅刻が許されるのだから、舛添は楽な担任で評価すべきだ。
それはさておき、気づいたら無我夢中に逃げているうちに電車に乗り、市外まで来てしまっている。
海のある市だ、一つ隣とかではないだろう。
「はあ……もう俺の周りは変わり者ばっかで疲れるわあ」
「先輩も変わり者だからじゃないですか? 先輩も私を好きなのに、私の愛を頑なに受け入れないところとか」
「おい自信家。お前の愛は重くて歪みきってて受け入れたくねーんだよ! 受け入れられるものじゃねーんだよ!」
ラブレターと共にパンツを添えて入れるようなストーカーの愛を受け入れられるのは、それを凌駕した変態のみと俺は思っている。
「それで先輩ーー海なんて、ロマンチックですね。駆け落ちみたいですね!」
「駆け落ちじゃない、ただたんに人生が地から地獄に落ちたんだよ、俺もあいつも」
「ナーシャ先輩、突然変異ですかね。でも良いじゃないですかーーそのおかげで私は先輩と駆け落ち……夫婦になれましたあ!」
「だからーーしてねーしならねーよっ!!」
一人で勝手に話を進め、はしゃぐ鼎に俺は海水をぶっかける。
制服なのを忘れてぶっかけた海水は、カッターシャツをもろに濡らし、そして肌に張り付いてしまった。
下着が透け、大きな胸がより強調される。
見てはいけない物を見てしまった気分になる。
ーーそもそも、何で鼎の下着を見たくらいで俺は意識してんだか……。
「先輩冷たいですよ……それっ!」
「あっ! お前!? ……仕返しだ!」
「きゃっ! やりますねーーえいっ!」
「ーーよっとお! ほらほら、当たってねーぜ? 反撃だあ!」
そして互いに濡れ、制服について諦めがついて昼間から学校をサボって海で遊んでしまった。
そして十四時を過ぎた頃に舛添から電話があり、結局俺達は接骨院からまだ帰れそうにないと嘘をついて夕方に電車で地元へ帰った。
★
鼎から逃げる俺が、一緒に仲良く二人で逃げただなんて、貴之が聞いたら笑う。
そう思っていたが、次の日になり朝からうちに来た桐華ちゃんと鼎と登校してみると、
「朝日おはよう……」
疲れきったナーシャが、自分の席と間違えて俺の席に突っ伏していた。
「お、おはよう……ナーシャ」
「昨日のことは、忘れて……。疲れてて、イメチェンしようと伊達眼鏡掛けたらスイッチ入っちゃって演技モードに……それに、朝日には逃げられるし、鼎ちゃんも追い掛けて逃げていくし……本当、私が悪い」
昨日のは演技モードだったらしい。
それにしても、今日になって反動が来たのか……可哀想に。
「だ、大丈夫。俺は気にしていないから」
「そう……良かった」
「と、言うことで自分の席に戻れ?」
「……え? あ、こっちね……フフッ。ごめん」
謝ることしかできないような子になってるよ、暗すぎて掛ける言葉もないよ。
また逃げ出したくなるような、今度は究極的な暗さのナーシャに気を使ってそっとリンゴジュースを机に置いてあげる。
もし今日も同じように、突然変異したままだった場合を考えて買ってきておいたがーーこれはこれで使えたので無駄にはならずに済んだ。
ナーシャはリンゴジュースを一気に飲み干すと、俺の膝の上に上半を滑り込ませてきてから脱力してしまった。
「……ぐう……ぐう」
「疲れてたって……そっちかよっ!!」
ナーシャの疲れは、単なる寝不足だった。
思わず突っ込んだが、ナーシャは起きそうになく、この状態にクラスメイトの男達は俺を一斉に睨んでくる。
逃げたいーー昨日みたいに逃げたい!
鼎が居ても良いからーーーーせめて逃げさせてくれ!
突然ですが、家庭環境により私は少しの間親元を離れ祖父母の家へ住むことになりました。
それにより、Wi-Fi環境がなく、通信制限や祖父母の家でのことなどで小説を書くことが難しくなりました。
なので、明日あげる二話は、突然のことで申し訳ありませんが最終話の分となります。
突然の完結に、納得されない方も居ると思いますが、ポケットWi-Fiなどが届きしだい、新作の方に移らせていただきますので、そちらをお読みいただけると幸いです。
新作につきましては、明日に上げる最終話にて報告させていただきます。




