転入生と現実から逃げたい!
シリアス続きに感じましたら、申し訳あまりせん。
放課後になり、貴之が部活に出るため、俺はナーシャと母親の家探しをすることにした。
ナーシャが言うに、いや、俺が聞いてナーシャが答えるに、単に隣が俺だったからだと言う。
それと、実は朝に鼎に執拗に迫られているところを目にし、知らないフリをしていれば、俺が鼎の件で頼見込んでくると予想していたとか。
頭が良いのか、計算高いだけなのか。
どちらにしろ、ナーシャが俺にとって不運の対象ではないことは明らかだった。
だからこうして、手伝ってあげることができる。
ちなみに、ナーシャに人見知りが発動しなかった原因は猫を被って転入してきたことに、驚きと馬鹿らしさを感じてだ。
普通に美少女で、日本語がカタコトだったら最初の「よろしく」だけで明日まで喋ることは無かったと思う。
「ーーて、ことで相手が俺だったことに感謝してくれ」
「してるよ、ちゃんと。それに朝日も感謝してよ? 私とこれから仲良く学校生活を送れるんだから。ドストライクでしょ、二次元に出てくるテンプレ白人美少女」
「……明日、髪の毛黒染めしてやるよ」
「うっそー! うっそ! 図星だったかもだけど、それだけは許してえ!」
本気で黒染めされると思ったのか、ナーシャは俺の腕にしがみついて首を左右に激しく振る。
ドストライクの美少女(ただの好みの問題)が、全く害の無い存在であることに幸せを感じる。
「冗談だって……。それで、何処どこら辺だ?」
「覚えてないのはっきりと。でも高校の近くの団地の……何処かってことは分かってるの」
「一から探すパターンだな。苗字は?」
「ーー金山……かな? お父さん、お母さんのことについて話してくれないのよ全然」
まあ、離婚していればそんなもんだと思うが。
「じゃあとりあえず金山って苗字を頼りに探してみるか」
「探偵みたいでワクワクする!」
「他人事みたいに言ってるけどな、お前ーー」
「ーーせんぱーい!!」
ーー!?
ーー!?
遥か向こうから、真っ直ぐに伸びてここまで届く声に俺とナーシャは飛び上がる。
ーーやばい、やばいやばい!
面倒な野郎に見つかってしまった。
俺のマウンテンバイクを勝手に乗って、私服で迫ってくるストーカーは、かなり怒っている。
顔が金剛力士像並に険しい。
「に、逃げるぞナーシャ!」
「え!? でも私が食い止めてーー」
「あれ暴走モード入ってるって! お母さんと夢の中会って初陣で使徒をフルボッコだって!」
「な、何ネタっ!? て、私も逃げるのおおおお!」
俺は○ヴァで鼎の暴走度合いを例え、ナーシャの手を引いてとりあえず団地の中に逃げ込む。
右折、左折を繰り返し、団地内を十分以上走り回ってから同じ場所に戻ってきてしまった。
鼎は何処かへ消え、一安心する。
ナーシャと二人で息を整える。
「危なかった……」
「大丈夫よ。にても、誰のマウンテンバイク? 緑色なんて」
「さあ? 貴之……のじゃないか?」
隠す必要があるかないかで言うならーーない。
そもそも貴之は原付き登校しているから、鼎の私物か俺のか桐華ちゃんのかの三択なんだがーー
ナーシャは転校初日、俺と貴之と鼎しか知らない。
それに、あのマウンテンバイクを俺の物と言うと、どれだけ否定したところで鼎に甘いと判断されてしまいかねない。
そうすればもう手伝ってくれないかもしれない。
貴之には悪いが、お前の防御力の薄さを借りるぞ。
ーー悪いな親友。親友の為に鍵をかけないズボラな男になってくれ。
「再開するか?」
「良いの? 今日はもう帰ったほうがあの子がーー」
「見つけましたよ……先輩! 誰ですか、美少女じゃないですか、私聞いてませんよ!?」
「……帰れないだろ?」
「はあ。ジャパニーズピーポーってみんなこうなの?」
何処から出てくるのかと思いきや、マウンテンバイクで横幅のある家の壁から出てきた鼎に俺とナーシャは絶望した。
BMXもできるのか……こいつ。
ナーシャは鼎のヤバさを理解すると、小声で「……同情しちゃう」なんて言って俺の肩を叩いてくれた。
★
「ーーつまり、ここがナーシャの母親の家……なのか?」
「そうですよ? 先輩は学校から三番区への行き方知らないから、ここが何処か分かっていなかったんです。ここは三番区、私のテリトリー、そして金山さんはーーもう引っ越しています」
ーー辛い現実か……。
鼎に捕まったことを逆手に取り、ダメ元で聞いたところここは三番区で金山さんとは小さい頃に近所で付き合いがあったという。
鼎が「もうすぐですよ」と、ナーシャに言った五分前は俺も心臓がバクバクだった。
何故なら、離婚してもう会えないだろう母親と海を越えて、やっと会える奇跡の瞬間に自分が立ち会うことになるのだから。
「……そうなんだ」
「ナーシャ、大丈夫か?」
「うーん。まあ、甘くないってことよね」
だが結果はーー会えなかった。
金山さんは、仕事の都合で出て行ったナーシャとその父親のあともここに住んでいたことは確か。
だが、家を一括で買ったことで売りに出して出ていくのは簡単な状態だった訳で、それで二年前に出て行ったらしい。
家はあるにはあるが、売物件になっておりもぬけの殻……。
こんな現実、ありなのか?
「ーー帰るか」
「先輩……そうですね。私達は帰りましょう」
俺と鼎は、ここで利害が一致した。
ナーシャをここに一人にしてあげることが、彼女の今の精神状態としても良いはずだ。
「ーー朝日。今日は、お願い。お父さん帰ってこないから、家に来てよ……」
だが、逆に一人は嫌らしい。
ついでに鼎も誘われてしまい、俺が居れば何でも良い馬鹿な思考の主であるストーカー野郎は親に許可を取るもなく頷いた。
と、言うことでーーナーシャに鼎を預けて家に帰ろうとしたが、マウンテンバイクを人質に取られ俺は仕方なく着いていくしかなくなった。
★
金持ちの転入生、篠木部ナーシャの父親が日本へ帰ってきて住むことにしたのは、三番区から西に少し行ったところにある有名な高級マンションの最上階の一部屋だった。
外資系と言っていたが、それにしてもここへ娘と二人住むなんてーー
父親の帰りの遅い訳が良く分かる。
お邪魔してから(することになってから)早くも三時が経ち、鼎はソファーの上で寝ている。
逃げるなら今ーーなのだが、俺とコーヒーをテーブルで対面しながら焼け飲みし続けるナーシャを捨てはおけない。
ここは諦めて、朝まで居るしかない。
だがな……どう声を掛けたら良いか分からないぞ?
慰めるって、こんなに難しかったか?
「ナーシャさ」
「朝日、こっち来て?」
「……ああ、良いよ」
ナーシャの横に行く。
すると、ナーシャが座っていたところに俺は座らされ、膝の上に彼女は座った。
おいおい、飼い主と猫ですか……。
「落ち着くのか?」
「お母さんとしてたこと。はあ……現実から逃げたいって、初めて思ったあ」
「現実から逃げたいか……俺もだな。ソファーで寝てるあのストーカー野郎から逃げることが現実から逃げることなんだがーー逃げられないしよ」
「お互い、酷い現実を見てしまったってことじゃない? あーあ、朝日。私疲れちゃった」
ナーシャはわざとらしく声を大きくしてそう言うと、俺の胸に頭を預ける。
これが鼎だったらゾッとする、桐華ちゃんだったらまずできない、ナーシャはーー可愛いな。
白人美少女で好みな件については置いておき、素で可愛いと思えるのは多分ナーシャが素直だから。
良い意味の馬鹿だから。
それを言ってしまえば、俺も馬鹿の部類だけどさ。
「ーーよし、同盟組むか!」
「何それ、楽しそう」
「現実から逃げたい同盟だ。今は二人だし、これからも二人ーーとりあえず、逃げたい時は逃げようぜってことだ。互いに協力してな」
「ーー朝日のばーか。慰めになんてなってない!」
俺はナーシャに頬を両手で挟まれ、目を開けた時には膝の上から降りていた。
「どこ行くんだ?」
「お風呂。一緒に入る? 信用してるから全然良いわよ」
「ーー遠慮しておいてやる。でもそうだな、背中を流してくれても良いぞ?」
「……調子に乗らないでよ。良いけど」
「良いのかよっ! お前も調子良い奴じゃねーか!」
突っ込むと、良い笑顔で笑って、ナーシャが俺を手招きしてくる。
行くと、先に風呂を譲ってくれて背中を流してくれた。
思春期の男女だがーーこれはこれで良い。
互いに意識していないのが、最高じゃないか。
これは俺とナーシャの特権だ。
面白い、ナーシャのキャラなど気に入っていただけましたら評価していただけると嬉しいです!




