強制デートからは逃げられない
「先輩とデート! デート!」
「はしゃぐな、そしてくっつくなよ……。ほら、イルカだぞイルカ、お前そっくりだ」
「可愛いってことですか!?」
「間抜けが似てるなってーー」
水族館に俺は鼎と来ている。
あれだけ鼎から逃げていた(事実上は逃げられていない)俺が、どうして一緒に水族館へ来ているかと言うと……。
俺達がくっついた訳ではない。
俺はずっと逃げ続けている。
鼎がいつまで経っても、俺からしてみればストーカーなのに変わりはないしこれからも変わらない。
現状況を簡潔に説明するなら、まずは二週間前の偽装交際が一日で終わった三日後に遡れば良い。
ーー二週間前。
「ーー今からくじ引きします!」
「……何のだ?」
四本の割り箸を赤と青の二本に色を付けて分け、それを持った鼎が俺と桐華ちゃんと貴之が談笑しているところへ飛び込んできた。
唐突にくじ引きをしようと言うが、嫌な予感しかしない。
現に鼎が今日で四十五回も俺の前に現れていることが、予兆と言える。
「カップリングくじ引き!」
「でさ、昨日テレビがさーー」
「無視しないでくださいよ! やりましょう!」
「内容が明確でないくじ引きはしたくない」
俺がそう言うと、鼎は意味不明に胸を張るので、仕方なく俺達は聞く耳を立てる。
「これは二週間後の土曜日にデートへ一組だけが行けると言うくじ引きです!」
「乗ったっす!!」
「……デートって。何処になんだ?」
「水族館です。二週間後の土曜日限定で無料入場ペアチケットがあるんですけど、それを男女一人ずつで行こうと言う催しです」
「え、これって女子二人にとっては朝日と行ける最高のチャンスかもだけどさ、俺に関しては全く参加理由無いよな?」
「ああ、ねーな。てか、俺もねーな」
「ーーあります!」
「あるっすよ!!」
鼎と桐華ちゃんが机を強く叩いた。
恐怖すら感じ、仕方なく俺と貴之はそのくじ引きに参加した。
その結果が、今である。
いやあ、何と言うことだーー何も小細工されていないガチのくじ引きで、どうしたらこうも運悪く俺と鼎がペアになるのか。
確率とやらの意味を、再度調べて自分を納得させたい。
さてさて、鼎と強制デートに来た俺だが今更言えないことがある。
強がってイルカに指差し、鼎を馬鹿にしたり……そんなことをする余裕を見せながら実は圧迫感を感じている。
俺はーー水族館が大の苦手である。
海やプールも、親や従兄弟と行くことはあるが、我慢している。
水に囲まれている環境に圧迫感を抱き、水難の不安に襲われる。
言えないが、言いたくないがーー怖い!
「先輩次はあっち行きましょう!」
ハイテンションなのは良いが、そう急かさないで欲しい。
いや、どうせならアイスやクレープを買いに一旦外へ行って屋台巡りを提案して欲しい。
俺からクレープ食べようなど、恥ずかしくて言えないから頼む鼎ーー俺のストーカーなら察してくれ。
「ーー先輩後ろっ!!」
「ーーっ!? うおおおお!!」
「……え、先輩?」
あ、やばい……本気で驚いたせいか、漏らしかけた。
「えーとな……これはな?」
説明したら恥をかく、言い訳をしたら見苦しくなる。
最悪の窮地に自ら立ってしまった。
突然後ろなどと鼎が言うから振り向いてみれば、真後ろの巨大水槽から鮫が俺を見ていたのだった。
誰が驚かずして、平然を装えるか。
無理だ、あんなの無理だ。
水槽に突進して壊し、中から鮫が出てくる騒動が海外の水族館であったことを思い出して全身震えだす。
「先輩もしかして……」
「いや……これはな?」
「分かりました。大丈夫です、私の胸の中で泣いてください……」
「水難による暗い過去は持ち合わせてねーよ!!」
無意識のうちに、鼎に抱き着いていた俺は離れて突っ込む。
ステージ5の末期癌を患った重症者風に扱われたり、過去に水難事故に遭ってトラウマ持ち合わせている設定にされたり、何かと悲しい奴に仕立てられている。
もしかしてーーいや、もしかしなくとも。
俺は……鼎に遊ばれていたりするのか?
★
鼎に全てを打ち明け、水が怖いと言った。
すると、気を利かせてくれたのか、水族館に謎に設けられているフードコートに連れて行かれた。
ーー違う、連れて行ってくれた。
「先輩可愛いですね。ますます好きになりました、付き合ってください!」
「何、俺は可愛いキャラなのか?」
「半分可愛い、半分格好良いで構成されています。ちなみに、桐華ちゃんには白馬の王子様として見られています」
白馬の王子様ではなく、落馬の間抜け様が良いところだ。
白い馬を巧みに操るイコールで、ヤンキー集団に一人で打ち勝つ。
白い馬に乗ったは良いがドジを踏んで走らせる前に落ちたイコールで、ヤンキー集団に自ら殴られ意識を失っただ。
白馬に乗る前に、まずは豚くらい乗れないと話にならないくらい情けない野郎だぞ俺は。
「……はあ、でも落ち着いた。悪い、男なのにみっともないよ」
「大丈夫です。実は私も鮫が急に近づいてきたのに驚いて先輩にーーテヘッ!」
「お前も驚いてたのかよっ! 一人で勝手に驚いていてくれ! 巻き込まれただけじゃねーか!」
「すいません、私だけ驚くのは何だか気に食わなくてーー」
こっちが気に食わないと言ってやりたい。
巻き込まれた挙句、水が怖いなんて恥ずかしい事実を暴露する羽目になったのだから。
「帰りは違うルートから行きましょう。植物園から抜けられるはずです」
「そうしてくれ……もう水族館は懲り懲りだ」
「その代わりに先輩の家に行っていいですか!?」
「よーし! 克服するために水族館内を通って出ようかなっ!?」
水に恐怖を感じながら外に出るか、安心安全ルートである植物園を抜けて外に出て家に鼎が来るか。
どちらを選ぶと問われれば、即答で前者を選ぶ。
家に鼎が来る方が、俺にとって最大の恐怖でしかない。
もう少ししたら水族館内を通って出よう。
身が持たないことは、己が一番良く分かっている。
「それで先輩、お弁当食べませんか?」
「作ってきたのか?」
「節約ですよ、せ・つ・や・く」
「それは助かる……じゃあ、いただきます」
俺は鼎が作ってきてくれた普通の弁当を有り難く受け取って食べる。
見た目は普通の弁当だが、味は三星だ。
俺は弁当を味わいながら、鼎のしつこい告白(計十回)を全て断り通した。
★
「ーーうわ、暗くなったな」
「本当ですね」
電車で三つも市を越えて行った水族館から帰ってきて、駅から出てみると外は既に暗くなっていた。
ちなみに電車の中では二人揃って仲良く爆睡していた。
ここが終点で助かった……乗り過ごしがない。
「では先輩! また明日にーー」
「明日? いや、明日日曜日……お前明日うち来る気かよっ!?」
「はい! なので今から私は急いで家に帰って服選びをーー」
「て、おい。流石に送っていくよ、暗いから危ないし」
腕時計は七時を回っている。
こんな時間に女子を一人で帰す男は居ない。
鼎は俺の突然な紳士的対応に目を丸くする。
「ほら、帰るぞ」
「ーーは、はい!」
俺は鼎の前を歩く。
何となくだが、鼎の家を知っている。
桐華ちゃんが三区に鼎の家はあると教えてくれたから、とりあえずそっち方面に向かって歩けば着くはずだ。
「これもデートですね!」
「これもデートに入れるのか? お前、どんだけデートに拘ってんだよ」
「デートはデートです! 家に着いて寝るまでがデートです」
「おーい? 何その同棲カップル感。またなって言って別れた時点でデートは終わってるぞ」
そもそもこれはデートではないのだが。
「ーー先輩捕まえた!」
「お前な……」
「良いじゃないですか。くじ引きに男気とか言って参加した先輩が悪いです。逃げられませんからね?」
「はいはい、今日は逃げねーよ。その分明日からしっかりと逃げる」
鼎は俺の手に飛びついてきて、恋人握りをしてきた。
人生初の女子との手繋ぎだが、ドキドキしないのは相手がストーカーだから。
だが、今日はそもそもくじ引きに男気と言って貴之と参加したことで強制デートしているのだ。
はなから今日一日は逃げるつもりがなかった。
だからまあ……減るものじゃないし、手繋ぎくらい大目に見ようか。
その分、明日からは二倍の活力を費やして逃げてやると俺は心に強く誓う。
手繋ぎをしましたが、朝日は次からしっかりと、また逃げますのでギャグに戻ります!
面白いとか、お? イチャラブもあるの? など、思っていただけましたら、評価していただけると嬉しいです!




