第3話 夜限定スライムと、仲間になった村娘
※第3話は
大きな戦闘はなく、準備・会話・仲間加入が中心の回になります。
物語の土台作りとしてお読みください。
俺は行商人から聞いた情報を、まだ宿屋で休んでいるリリアと共有するために一旦宿屋に戻る事にした、途中で雑貨屋に入り、野ウサギなどを捕獲する罠を2,3個購入してアイテムボックスに放り込む、薬も売っていたので気付け薬を少し買ってから宿に戻った、1階のフロント前にミナが居た、どうも俺が目覚める前に起きて、自宅に帰って身体を清めてからこちらに来たようだ、いつもの村娘スタイルに戻っている。
「あ、おはようございます勇者様、出かけていたのですか? 」
昨日のアレは何だったのかと思うほど清々しい笑顔を向けているのを見ると、やっぱ女性ってすげえなーと、思わず感心してしまう。
「ああ、おはようミナさん」
「さん付けは不要です、呼び捨てで構いませんよ」
ミナと昨日のアレがあったのに他人行儀は、やはり失礼だったと反省し、訂正する
「あ、ごめん…ミナ、今日は何の用事でここに? 」
そう言うと植物のつるで編んだバスケットをもって来た
「今日は私が作ったお弁当を皆さんに食べてもらいたくて、朝ごはんまだでしたよね?」
バスケットから漂うパンの香ばしい香りに、妙にお腹がすいてきた……そう言えば早くに宿を出てたから、朝食もまだだったな、酒場じゃ日中は食事を提供するらしいが、あいにく行商人の情報を早く共有したくて飲み物しか頼んでなかったんだよなあ……
「それは有難い、早速部屋で……いや、ちょっと待っててもらえるかな、準備が出来たら呼ぶから」
「あ……はい、分かりました、ではここで待っていますね」
と言うミナの返事を聴いてからすぐにフロントに銀貨を2枚渡して
「部屋の掃除はこっちでするから掃除係の入室は待ってくれ、用事が全部済んだらまた呼ぶから」
と伝えてから2階へ急いで上がり、部屋に入って早速居間の掃除に取り掛かる……案の定、部屋の床には水やら、水のような液体やら、白濁したものやらが床を汚していたので魔法を使う事にした
「フロアクリア! 」
これは所謂『生活魔法』というモノで、日常的に使われる消費魔力が物凄く少ないが掃除や体の汚れを落としたりと、何かと重宝する魔法である。
続いて寝室に入るとリリアが目を覚まして起きていた、着衣の乱れも無くいつもの旅の神官の姿だ、俺を見るとチョット頬を赤くして目を逸らす
「あ、おはようございます勇者様、やはり勇者様は凄いのですね……」
何が凄いのかは、この際置いておいて……
「ああ、おはようリリア、早速だけど部屋を片付けるから手伝ってくれるかな? 」
その言葉に我に返ったリリアはようやく元のリリアに戻った
「あ、そうですわね……では清浄の魔法を使いましょう」
リリアの提案に同意し
「じゃあ俺はベッドメイキングをするよ、倒れてしまった調度品とかも直しておくから」
「ではお願いしますわ」
そう言ってリリアは清浄の魔法を使ってあたりに漂う香水やイカ臭い色んな匂いを浄化していく、部屋の汚れも綺麗になっている
「よしシーツの方も汚れはとれているな、じゃあ早速やるか」
と、俺もベッドを綺麗に直していく、シーツの中から綺麗になったゴムのような袋が何個か見つかったがそれも回収してまとめて袋に入れた後に、ごみ箱に捨てていく
「しかし、紙が普段使いできるほど安く流通していて助かった」
俺がそう言うとリリアは苦笑した
「一昔前でしたら、紙は高級品でしたわ、でも安価に製造できる魔道具が開発されてからは様々なものが紙で作られて流通していますわ、この紙袋も20枚セットで銅貨1枚で購入出来ますの」
いや、本当に助かるよ、現世で読んだどこぞのラノベじゃあ、紙を作って大儲け! とかザラにあるしなあ……
掃除は捗り、すぐに終わったので俺は1階で待っているミナを呼びに、下へ降りた
「おまたせ、ミナ」
声を掛けられたミナは笑顔で応じてくれた
「では、早速おじゃましますね」
こうして再び2階へ上がり部屋の居間でリリアと共にミナが作ってくれたバゲットサンドやスライスしたバゲットに塗る手作りのジャムをバゲットに塗って食べる
「おお、これはうまい! 」
ジャムは春に流通するさくらんぼを使っているようだ、砂糖は高級品だと思ったが、どうもこれはさくらんぼの甘味だけで作られているようだ、甘すぎないのがまた良い。
「このバゲットサンドも、美味しいですわ! 」
ここの特産品の一つに馬肉があるのだが、行商からの交易で羊の肉や牛肉なども手に入るらしく、このバゲットには塩で味付けした焼いた牛肉が薄くスライスされて挟まっていた、肉を包むようにレタスのような食感の葉っぱやキャベツのような食感の野菜も肉を包むように挟まれていて食感も楽しんだ。
「お口にあったようで、嬉しいです」
ミナは本当にうれしそうに微笑んだ、ひとしきり食事も終えて、ひと段落したので本題に入る事にする……が、ミナが真面目な顔でパーティーの加入を申し込んできた
「私、決めたんです、いつまでも守られてばかりの村娘でいたくはないって、でも戦いとかは苦手だから、料理や戦い以外でお役に立ちたいんです! お願いします勇者様! 」
これには正直困った、現状として戦闘時に前衛で戦うのは俺だ、そして後方で魔法の支援を行うリリアだ、リリアもそれなりのレベルを積んでいるので戦闘で足手まといになる事は無い、だがミナは本来非戦闘員だ、パーティーの中では敵にもっとも狙われやすい、ミナの意思も考えてあげたいけれど、正直言って常に守り切れるかどうかは不安だ、でも
「普段から情報は共有するし報酬は山分け、戦闘中はリリアから絶対に離れない、可能なら自分を守る魔法も習得する、これが最低条件だ、危険な状況に恐怖して逃げ出すようなら、俺は後を追わないし戻って来ても合流は許さないが、それでも良いか? 」
一介の村娘に対しての要求としてはかなり厳しいと思うが、ミナの決意は揺るがなかった
「分かりました、私だってちゃんと出来る事を勇者様やリリア様に証明して見せます! 」
その言葉にリリアは微笑みながら
「勇者様、女性にここまで言わせたのなら、責任はとるべきですよ? 」
責任……と聞いて昨晩の事を思い出してウッ……となったが、俺は決断した
「分かった、じゃあこれからは俺たちの仲間だ、そうと決まればあれをやるぞ」
その言葉にリリアは恭しくお辞儀をする
「はい、勇者様、では早速勇者の加護の宣誓の儀を行います」
そう言って荷物袋にあった聖書を取り出し、俺はアイテムボックスから燭台を出してテーブルに置いた、ろうそくに火をつける必要は無い、儀式としての体裁を整えたのだ、リリアが聖書を開き読み上げる、宣誓の儀の一節があるらしい
「神は子に言いました、立ち塞がる闇を払い光の灯火をその手に持ちて、人々に神の加護を分け与えたまえ、いかなる困難が起きようとも、その歩みを止めぬことを、ここに誓いますか? 」
ミナは答える、よどみなく
「はい、誓います」
続いて俺が剣を抜いてミナの肩に剣の刀身の腹の部分をかざし
『ミナ、勇者と共に歩む仲間としてミナに勇者の加護を与える事を、ここに宣言する』
その時窓から一筋の光が降り注ぎミナの身体を照らしていく、そして光が消える、辺りは何事も無かったかのような静寂に包まれた。
リリアは優しくミナに微笑んだ
「さあ、これからはあなたも勇者の仲間ですよ」
「これからいろいろあると思うが、よろしくな、ミナ」
俺の言葉にミナは少しうるんだ瞳で笑顔を俺に向けて
「はい! これから、よろしくお願いします! 勇者様! 」
こうしてミナが俺たちのパーティーに加わった、そして改めて俺が手に入れた情報をリリアとミナに共有する、するとミナが興味深い話をしてきた
「私、以前に森の方で狩りをしていた猟師さんから聞いたことがあるんです、闇スライムは素早くて、捕まえるのが難しいけれど、地面を這うように移動するので落とし穴に引っ掛かりやすいって、でも闇スライムが発生する場所は決まっているのでちゃんと場所を特定しないと空振りになる事も多いって言ってました」
ミナの情報は凄く有益だ、これが本当ならば、先ずは発生する場所の条件を調べる必要が出てくるが、その問題の答えもミナは教えてくれた
「闇スライムは森の中にある開けた場所では無くて、木々の隙間から、おとなひとり分の大きさの月明かりが差し込む場所でしか発生しないって、しかも1度出てきた場所に次に出てくるまで2ヶ月も間隔が空くって言ってました」
凄い、これでかなり闇スライムが確保できる確率が上がる、でも一度にどのくらい出てくるかはまだわからない、ミナにそのことを聞いたら
「ごめんなさい、数までは猟師さんは教えてくれなかったんです」
その言葉に俺は納得した
「まあ、そりゃあそうか、もしかしたらその猟師も闇スライムを狩って、手に入る素材で生活しているかもしれないからな、ミナは信頼されていたから教えてくれたに違いない、実際酒場ではその辺の詳細な情報は出てこなかったしな」
俺のその話に
「まあ、そうなんですの? ではかなり知る人ぞ知る、という話なのですね」
とリリアは頷く
「まあ勇者とその仲間にしか効果が無くて、しかも大量に出回っているかもしれない石なんてそこまで価値は無いだろうしなあ」
俺は雑貨屋で購入した野ウサギを捕獲する罠の事を思い出した
「あ、そうだ、雑貨屋で野ウサギを捕獲する為の罠を購入したんだが、これって役に立ちそうか? 」
といってアイテムボックスから罠を取り出してミナに見せる
「えっと、猟師さんの話では地面を這うように移動するって言ってましたから、うまく誘導できれば捕獲できるかもしれないです、でも罠が破壊される事もあるかも……」
そう言われて罠を観察する、細い木の棒で横長の箱上に組み立てられて、麻ひものような比較的安価な細いひもで各パーツが結ばれていた、闇スライムがどの程度の強さかは不明だが、力が強かった場合は破壊されて逃げられる可能性も確かにある。
「うーん、確かにちょっと心もとないなあ……」
俺がそう言うと
「でしたら、罠の周囲に落し穴を仕掛けましょう、私の結界の魔法を応用すれば、閉じ込めることも可能ですわ」
というリリアの提案に俺は乗る事にした
「なるほど、確かにリリアの結界なら、ちょっとやそっとでは突破は出来ないだろう、よし! そうと決まれば現場へ行って罠を仕掛ける場所を探して準備をしよう! 」
俺の言葉に反応して
「じゃあ私は、知り合いの猟師さんに森での案内の依頼と闇スライムが次に出てくる場所の大まかな範囲を教えてもらえるように交渉してきますね」
そういってミナは部屋を出ていった
「じゃあ、私は雑貨屋に言ってマジックポーションを買い足してくるわね、もしかしたら長期戦になるかもしれないし」
そう言ってリリアも部屋を出る
「よし、俺は酒場で森に潜む闇スライム以外のモンスターの情報を仕入れておくか」
暗闇に囲まれた森の中だ、日中には出てこない狂暴なモンスターも出てくるかもしれない、事前に知っておけばリスクはかなり低くなるからな
そして、しばらくしてミナから猟師のカサドルさんが狩りに協力してくれると紹介してくれた、リリアの方もマジックポーション以外に魔法のスクロールを何本か購入してきた、スクロールの魔法はどれもスタンの魔法、これで闇スライムを行動不能にするつもりらしい、神聖魔法は魔物を浄化する魔法もあるが、範囲が広いので無関係な魔物を刺激する恐れがあるのだとか、リリアの魔力量は結構ある方だが無駄撃ちは避けたいのだろう、こうして各々が準備を進め、猟師のカサドルさんからもおおよその発生場所の範囲を教えてくれた。
「よしじゃあ、野営用の準備が整い次第森へ出発だ! 」
「おーーー! 」
と言う掛け声とともに
俺たちパーティーは狩りの準備を整え……そしてまだ日が高いうちに現場に到着した、カサドルさんの案内で現場までは何の障害も無く目的地に着いた。
「今夜はこの辺りで闇スライムが発生する可能性が高い、罠を仕掛けるなら自分が引っ掛からないように、みんなにちゃんと知らせるんじゃぞ」
という事らしい、俺たちは早速罠にの準備に取り掛かり、同時に現場から少し離れた場所にカサドルさんも良く利用するという野営地を貸してもらい、並行して野営の準備も進める、そして全ての準備が整った時には日は傾き空は赤く染まっていた。
「さあ、これから狩りの時間だ」
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
第3話は、派手さよりも
「この先を安心して追えるかどうか」を重視した回でした。
次話では、
夜の森での実践編に入ります。
準備したことが、ちゃんと試される回になりますので、
よろしければ引き続きお付き合いください。




