↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伯爵令嬢エレーヌ・エリーゼ・ストーンハートには血も涙も汗もない  作者: 堂道形人
十月のエリーゼ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/91

十月のエリーゼ 第二十五話

ジョゼ「エレーヌ様あああ!エレーヌ様を見失いましたの!」シクシク

馬車馬「もう無理っす」馬車馬「走れません」

 馬上でブランコ椅子ごとしっかりとお姫様抱っこをされた伯爵令嬢。エレーヌの両腕もしっかりと、その長身の美丈夫いけめんの背中に回り、締められている。

 真っ直ぐに伯爵屋敷に戻った二人を見て、ディミトリを始めとする伯爵屋敷の使用人達は大衝撃を受けた。


「お嬢様…何と…何と立派に成長なさって…」


 ディミトリは、まるで何年も居なかった者が帰って来て驚いているかのように、声を震わせた。


「お嬢様…いつの間にこんな美丈夫いけめんとそのように懇ろになられたのですか…私共はお嬢様の事を見縊みくびっておりましたわ…」


 ヘルダも涙声でハンカチを噛み締める。


 モンティエは青ざめた顔で呟く。


「あなた方までそんな事を…頼むから早く彼女についた風船を切り離してくれ…手を離したら飛んで行ってしまうのだぞ」



 役目を終えた巨大な風船魔人は、空のブランコ椅子をぶら提げたまま、夜空高く飛び去って行った。

 エレーヌは、無言で崩れ落ち、四つん這いでうずくまる。


「お嬢様、はしたのうございますわ」


 一応、ヘルダが注意するのだが、エレーヌが起き上がる様子は一向に無い。


「結局あの行列は…どういう事だったのでしょう…?」


 ディミトリがモンティエに尋ねるが。


「それが知りたいのは俺の方だ…一体何故こうなった」


 モンティエは、何の気無しに、そう答えてしまった。


「それは…災難でしたわね大尉」


 顔を伏せたままエレーヌが呟いた。


「待て、そういう意味では」

「そうではなくて!?大尉には何の関係もありませんのよ!日頃の行いが悪い伯爵家の馬鹿女が晒し者にされているのに付き合って、街じゅうの人の前で恥ずかしい思いする理由なんてございませんわ!放っておいて下されば宜しかったのよ!」



 迷惑だったように言ってしまったモンティエも悪い。今回の騒ぎはエレーヌが起こした物ではないし望んだものでもない。エレーヌも普通に被害者なのだ。


 それ以上に。命の危険さえあった為とは言え、これだけ長時間抱き着いていた後で、その相手にそう言われてしまっては全く立つ瀬が無い。色々と規格外な部分もあるエレーヌだが、中身は今日十七歳になったばかりの乙女でもある。


 恥ずかしい思いをしたのだってエレーヌも一緒だ。モンティエだけが衆目に晒された訳ではない。


 しかし、だからと言ってすぐに拗ねた言い方をしてしまうエレーヌも悪い。


 まず、モンティエは今回の騒ぎにエレーヌが関わってない事を知らなかった。他の者が企み、エレーヌは巻き込まれただけと知っているのはサリエルだけだ。


 モンティエがエレーヌの身体を離さなかったのは純粋にエレーヌの安全の為だ。モンティエはそこに邪心を挟む男ではない。それこそ人命救助の人工呼吸と変わらない行為な訳で、そこは乙女心を理解しろなどと言われる筋合いは無い。


 恥ずかしい思いをしたのはエレーヌも一緒だという事も解っている。だがお互い様だったと解っているなら何故一方的に切り捨てるような事を言うのか。



 二人の間にはそういった感情の機微があった。

 ただ、エレーヌは知らなかったが、リシャール・モンティエはきちんと相手の気持ちは考えるものの、行動は良く言えば迅速に、悪く言えば野蛮に実行するタイプの人間だった。


「だが俺は既にお前を救ったのだ、エレーヌ!その代償は請求させて貰うぞ!」


 モンティエは少し乱暴にエレーヌの肩を掴み、引き起こす。そして、膝をついたままのエレーヌに覆い被さるように顔を近づけた。


「口づけか平手打ち、どちらかを申し受ける」


 モンティエは真顔でそう言った。

 伯爵令嬢は赤くも青くもならず、真っ白になって停止した。

 陸軍大尉は二秒だけ待った。


 そして、ほぼ真上を向いているエレーヌに、まるで人工呼吸のようにしっかりと唇を密閉し、三秒。



「誕生日おめでとう。これで失礼する」



 身を翻したモンティエ大尉は振り向きもせず、近くで大人しく待っていた愛馬にひらりと跨り、ただちに走らせて行く。

 エレーヌはゆっくりと、うつ伏せに倒れた。


「お嬢様…?おやまあ。困りましたね」


 ヘルダは少し笑って、屋敷に応援を呼びに行く。石化したエレーヌを寝室に運び込む為には、メイドが六人くらい居た方がいい。サリエルが居れば一人で足りるのだが。




 あれから一時間経っても、ロータリー交差点には祭りの余韻を楽しむ人々が残っていた。


「あの王子は陸軍の士官だよな。前に教会通りで歩哨に立っているのを見たぞ」

「あのお姫様は誰だったんだろうな」


 ある程度の事情通の間では、モンティエ大尉の姿はよく知られていた。しかし一応深窓の令嬢であるエレーヌの姿は、市井では殆ど知られていなかった。



 サリエルは眼鏡と髭をポケットにしまい、中途半端な姿で歩いていた。ジョゼに電気フルーレでアーチ山車から追い落とされ、他の馬車などに轢かれかけたが、どうにか無事あのメリーゴーランドから脱出した。

 その後お嬢様を追い掛けようかと思ったのだが…屋敷から乗って来た馬とはぐれてしまった。思えば馬に乗って来るのではなかった。あれなら自分で走った方が速かったと思う。

 今はその馬が見つからず中々屋敷に帰れない。それで一旦ロータリーの所に戻って来たら、何と馬はクリスティーナ奥様とその蒸気自動車の所に居るではないか。


「申し訳ありません奥様!お待たせしてしまったのでしょうか!?」


「そうね、少し。だけど待っていて良かったわ」


 クリスティーナは自ら持っていた引き綱をサリエルに渡す。


「私、このまま発ちますわ。エリーゼに宜しく伝えて下さるかしら」

「お嬢様とはお話し出来たのでしょうか?」

「あれは無理よ、ふふ、はは…もう、これ以上笑わせないで下さるかしら、本当にもうたくさん!」

「あ、あの…本当に、いつもあんな悪ふざけをしている訳ではないのです、その!今回は特に!お嬢様は本当に何も…」


 クリスティーナは急に居住まいを正す。


「もうあの子の悪ふざけ云々の話ではないの。オーギュストは当分屋敷に帰れないかもしれない。あの人は一人で奮闘しているけれど…王党派の孤立は深まるばかり。崩壊は時間の問題なの。私、貴女を見込んでいましたの。貴女なら何か、オーギュストの為になる仕事が出来ると思いましたのよ」


 サリエルは息を呑む。しかし。


「でもね!貴女とエリーゼの掛け合いを見ていて解ったわ!私の思い違いですわ、ほほほ、貴女を王宮に置いたら今日みたいな騒動が王宮で起こる、そうでしょう?大変な事になってしまいますわ!ホーッホッホッホ」


 クリスティーナは格好を崩し、扇子を広げて口元を隠して笑う。

 サリエルは肩を落とし、一瞬緊張を解く。

 しかしクリスティーナは再び居住まいを正した。


「貴女はエリーゼの元を離れたくないし、エリーゼは貴女を手放したくない。けれども私の今の話、貴方の胸にしまっておいて。そして何かの覚悟が決まった時は、いつでも私の元にいらして。御願いね」


「奥様…」


 クリスティーナはそれだけ言うと、また格好を崩し、茶目っ気のある身振りで手を振り、蒸気自動車に乗り込んだ。

 サリエルが見守る中、自動車は伯爵夫人自らの運転で、ゆっくりと発進し去って行った。

十月のエリーゼ編、終わり。


(;・∀・)宜しければおひねりなどポチっといただけますと…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。