見回りしてたら、とんでもないものを拾いました。
「……じゅうじんぞく?」
(そういえば――)
この世界には、人族の他にもいろんな種族がいるって言ってたっけ。
(あの話……本当だったのね)
トットール達がエルフで、ジオルドがドワーフだって聞いていたから、いつか会うかもとは思っていたけど……
まさかこんなに早く会うとは思っても見なかった。
「こにょ、みみとしっぽ……ほんもの?」
目の前の男には、猫のような短い耳があり、
その後ろには、細く長いしっぽが力なく垂れていた。
(これって……本物?)
(……さわってみたい)
私はそっと周囲を見回してから、倒れている男の耳に指先を伸ばす。
(……やわらかい)
指先に、ふわりとした感触が伝わった。
「……っ」
「ふぁぁぁぁ~もふ、もひゅだぁぁぁ~!!」
動物のような毛並みに、思わず頬が緩む。
(癒される……)
目の前のもふもふに夢中になっていると――
ぴくり、と耳が動いた。
「おい、そろそろやめてやれ……」
「う、うごいちゃ……!?」
「当たり前だ。まだ生きている。」
白夜はフンッと鼻を鳴らした。
「それに我の方が毛並みは綺麗だぞ……」
「嫉妬してりゅの?」
白夜を覗き込むと、ふい、と視線を逸らした。
「そ、それよりも……だ。」
どうやら図星だったらしい。
「そのままだと危険だぞ!?」
(……危険)
「そうだっちゃ!」
(この人怪我してたんだ。)
つい、もふもふに夢中になっていた。
もう一度、目の前の男に目を向けると――
ぴくり、と指先が動く。
眉間に皺を寄せながら、ゆっくりと目を開けた。
「うっ……」
「だ、だいじょーぶ!?」
「き、きみは……?天使か……?どうやら俺にも迎えが来たようだ。」
「……ただのにん……って……」
言い終わる前に――
ぐったりと力が抜けた。
「きぜちゅ、してりゅ……」
「びゃく、どうちよ……」
体を何度か揺すってみたが起きる気配は無い。
「どうするかは、お前が決めることだ。」
幸い、ここには魔物が来ない。
(このままでも大丈夫だとは思うけど……)
「にゃんだか……かわいしょ……」
そんな時、トットールがいつか試さなければならないと言っていたことを思い出した。
『客を呼ぶなら、この場所に誰でも入れるようにしなければならないだろ。それはできるのか?』
トットールと、マチルダがスキルの中に入れるようになったのは――
(桜が私の仲間と認めたからだと思うんだよね……)
その前は入ることができなかったし……
「ためちてみりゅ……しかにゃい……」
私は目の前で気絶している人の肩を持ち上げると、ズリズリと身体を引きずった。
「……お、おもい……」
「まりか……もしかしてお前……そいつを……」
「うにゅ……ためちてみりゅ。はじめてにょ、おきゃくしゃ!」
見てみれば冒険者としてそれなりに強いのか……キラキラした高価そうな装備をつけている。
「きっと、ちゅよい……おきゃくしゃ、だいじ!」
「う、うーむ……そうか?強そうには見えんが……」
ズリズリと地面を進むこと数十分――
ただ歩くだけなら数分の距離なのに、やたらと長く感じる。
「はぁ、はぁ、ちゅ、ちゅいたぁぁぁ~……」
前もって目印をつけてある場所に辿り着くと、ポシェットのがま口に手をかけた。
(ここなら――)
「……あれ?」
何度やっても、スキルは発動しない。
「びゃく……これ……」
「あと数歩、前に出ないと使えないぞ。」
「うっ……ほんちょだ……」
足元の目印を見れば、あと数歩届いていなかった。
「中にまだ奴らがいる以上、拠点は動かせん」
「うぅ……おもたいにょに……」
「そんなやつその辺に置いておいても死にはしないだろ?」
「そんにゃことできにゃ!!」
目の前には、あと少しで届きそうな距離。
けれど――
届かない。
(あと、ほんの少しなのに……)
「……まりか」
「どうする?」
私はもう一度、気絶している男の肩を持ち上げると引っ張った。
「が、がんばりゅ……」
手が千切れそうな重さに、思わず歯を食いしばる。
(あと、ちょっと……)
――それでも、手は止めなかった。
そして、ようやく目印に到達すると――
私はポシェットのがま口を開いた。
周りがキラキラと輝くと同時に、浮遊感に襲われる。
次の瞬間――
ダンジョンの景色が変わり、ヒラヒラと桜が舞うスキルの中へと移動していた。
「まりか、おかえりなさい。早かったわねぇぇ~」
桜のすぐ近くでは、マチルダが地面を深く掘っている。
少し離れた場所では、トットールが私と同じような服装に麦わら帽子を被り、桑を持っていた。
「ふ、ふたりとも、にゃにしてりゅの?」
「ん?これは……実験だ!」
ザクッ、ザクッ……
実験……?
(イケメンエルフが畑を耕してるだけにしか見えないけど……!?)
二人の行動に首を傾げる。
すると、マチルダがトットールの代わりに口を開いた。
「そりゃ、びっくりするわよねぇ~……」
「でも、本当に実験なのよぉ~……」
「じっ……けん……」
(って、あの実験だよね……?)
小さく呟くと、マチルダがその声に反応した。
「そうそう。ここで井戸や畑を作ることができるのか。生活していけるのかってことねぇ。」
ザクッ、ザクッ
二人の間に、土を耕す音が響き渡る。
「な、なりゅほど……」
確かに生活するのに畑や水があると便利だ。
それはすごくよくわかる……
けど……
(今やること!?)
心の中で突っ込んでいると、マチルダはそのまま話を続けた。
「でぇ、まりかはどうしたのよぉ?って……」
マチルダはこちらに顔を向けると、私の足元に転がっている獣人を見て、目を見開いた。
「あら、獣人族?しかも――白虎の獣人族なんて、珍しいもの拾ってきたじゃないのぉぉ!」
「えっ!?びゃっこ?」
「ねこちゃんじゃ、にゃい……?」
「あら、猫の方がよかった?でも、残念……白虎族よ。」
床に転がっている男の人にもう一度視線を向けると――
「うっ……」
苦しそうにうめき声をあげた。




