ダンジョンの見回りに来たら、何かがおかしいです。
「まりか、みまわりしてくりゅ。」
――ダンジョンでキャンプ場を始める。
そう決めてから、数日が経った。
「びゃくちゃん、ちゃんとまりかを見ていてちょうだいね。」
「言われなくてもわかっておるわ!!」
私はトットールに言われて、スキルを安定して使えるようにするため日夜練習に励んでいた。
と、言っても……
(ダンジョンとスキルを行き来するだけだけど……)
『まりか。まずはキャンプ場についてだが……セーフゾーンのようなものであっているか?』
『せーふじょーん……?』
『そうだ。ダンジョンの中にもいくつかモンスターが出ないエリアというのがある。そこに拠点をおいてダンジョン攻略をしたりするんだ。』
(なるほど……そういうのもあるのね……)
ってことは……そこに上手くたどり着ければお金を使わなくても自由に寝泊まりができるということじゃ……
(せっかく、お金が稼げると思ったのに……)
トットールの話に肩を落とすと、頭をポンポンと叩かれた。
『そんなに落ち込むな。』
『そうよ~。セーフゾーンだからといって、魔物が来ないとは言いきれないもの。』
『大物が隠れていたから魔物が寄り付かなかっただけ……なんてこともあるのよぉ~』
『安全で、瘴気がないところなんて私たちの世界ではないんだからぁ~。』
安全なところがない世界……
(……こわっ……)
マチルダの言葉に身体がブルりと震えた。
せめてもう少し安全なところに転移して欲しかった……。
『それに、ここにいると回復も早いのよねぇ~。』
『かいふく?』
それは初めて聞いた。
私はなんの変化もないし……
『ふふっ……なんて言うのかしら。治癒が早いかはまだ分からないけど……疲労回復が早いのよ。』
(疲労回復か……)
マチルダの言葉を聞いて、ふとあることを思い出す。
最近、眠くなるのは早いけど、次の日に身体が重くなっているということはなかった気がする。
(年齢の影響かと思ってたけど……)
――それだけじゃない。
昨日だって、あれだけ動いたのに。
(普通なら、もっと疲れてるはずなのに……)
朝起きたらピンピンしていた。
(もしかして……これって、お金になるんじゃ……?)
『ふふ……その顔を見るに、まりかも思うところがありそうね。まぁ、だからちゃんと売り出せれば大丈夫ってことよ。ただ――』
『問題は山積みだけどねぇ~』
――とはいえ。
やれることから、一つずつ確かめるしかない。
そうして私たちは、いくつかの実験をすることにした。
その中の一つが、スキルの中に人を残したまま私だけが外に出ることができるのか――ということだ。
結果は……
『スキルは使えるが、場所は移動できない……か』
試しに、スキルの外に出て、離れたところでスキルを使ってみたが……
スキルの中に入ることはできても、出る時は毎回同じ場所に戻ってしまった。
(恐らく、一番初めに入ったところがセーブポイントみたいな感じなのね……)
そして離れすぎると、スキル自体が作動しない。
『とりあえず、巨大な魔物は消えていたし、もう少し安全なところに拠点を移すか……』
今のうちにダンジョンの外に出るという選択肢もあったが、私の一言でここに残ることが決まった。
『ここでおかねかしぇぐ……まで、でにゃい!!』
それにあの大型の魔物も気になる。
(下位の魔物も美味しいって言ってたから、絶対美味しいはず!!)
せっかく異世界に来たのだ。
(楽しめるところは楽しまないと勿体ない。)
(あの二人のせいで巻き込まれたのは、正直癪だけど……)
『あいちゅらより、いしぇかいらいふ、まんきつしゅる!!』
小さい手を大きく上に突き上げて宣言すると、二人は顔を見合わせて、小さくため息を吐いた。
『そうか……まりかがそこまで言うなら……』
『そ、そうねぇ……このままここで頑張ってみる?』
二人は――
ゆっくりと首を縦に振った。
***
――そうして。
ダンジョンでキャンプ場を始めることを決めた私は――
スキル「我が家」から出て、ダンジョンを見回っていた。
「おい、まりか。そんなに急いだら転ぶぞ?」
「ふふ、だいじょぶ、だいじょ……」
――次の瞬間。
バタンッ――!
「ほらな……」
「いちゃ……い」
手を地面について、よろよろと立ち上がる。
(……おかしい)
ここには何度も来たことがある。
躓くようなものなんて、無かったはずなのに。
(それに――)
この辺りは、魔物が寄り付かない。
何度か見回りに来ているうちに、自然とそう分かっていた。
(トットールが私の影響だって言ってたけど……)
(……でも)
今日は、いつもと違う気がする。
トテトテと転んだ位置に戻ると、地面を見渡した。
「……うっ……」
「……」
「びゃく、しゃべった?」
「喋るわけないだろうが。それより、お前が“話すな”と言ったんだろう」
そうだった……
少し前に、
『ほかのひとみたりゃ、びくりしゅる、から、だまっちぇて!!』
そう言ったのを思い出す。
「っちぇ……こちょは……」
(……誰か、いる?)
「……うっ……」
――地を這うような、うめき声に背筋がぞくりと震える。
「ひっ……ゆうりぇい……」
「な、わけあるか。それより灯りをつけろ」
「そうすれば、見えるだろう」
(……そうだった……)
さっき転んだせいで、ランプのことをすっかり忘れていた。
私は持っていたランプに慌てて火を灯すと、うめき声のする方へゆっくりと視線を落とした。
「えっ……だりぇ?」
「……うっ……」
話しかけて返ってくるのは、うめき声と荒い呼吸だけ……
「まもにょ……?」
「な、わけあるか!もう少しランプを近づけてみろ。」
白夜に言われた通り、うめき声のする所をランプの灯りに照らすと、なにかがキラリと光った。
「ひっ……や、やっぱり……」
(耳と爪……?)
けれど、その顔は――間違いなく“人”だった。
「……まもにょ、じゃにゃい……」
それは――
血にまみれた、獣人だった。




