どうやら使う力そのものが違うようです。
「守護獣、か……」
白夜の言葉が、頭の中で何度も木霊する。
正直なところ――信用しきれているわけではない。
だが、少なくとも嘘を言っているようにも見えなかった。
「そうだ。お前たちの世界にもそういった存在がいるかは知らんがな……」
「ん~……種族によって考え方は違うんだけど……聖獣がいるという国もあったわね……それに近いという感じかしら。」
マチルダは頷きながら、そのまま話を続けた。
(こういうところはさすがだな……)
俺だったら、一度疑ってかかってしまうところも、マチルダは疑うことなくすんなりと受け入れられる。
それに、はっきりした性格だ。
(裏表ない分、楽なんだよな……)
「ふむ……聖獣か。もしかするとそれに近しいかもしれんな。だが、お前たちの世界に行くと我はポシェットにしかなれんようだ。」
「……力がなくなると言ったらいいのだろうか。」
「なるほどねぇ……もしかしたら世界が違うから、そもそも使う力も違うのかもしれないわよ?」
マチルダは口元に手を当てて少し考えると……
「例えば……びゃくちゃんたちのいた元の世界では神力。私たちの世界では……魔力……とかねぇ……」
その言葉を聞いて白夜は、目をパチパチとさせたかと思うと、何かに気づいたのか、急に大きな声を出した。
「そ、それだ!!」
まりかが起きそうなほどの大きな声に、思わず白夜の口を塞ぐ。
「な、なにをす……」
「おい、そんな大きな声を出すな。まりかが起きるだろうが!!」
白夜の耳としっぽが垂れていく。
(わかりやすいな……)
白夜が黙ったのを確認してから、白夜の口からゆっくり手を離した。
「す、すまない……」
「あら、ちゃんと謝ることもできるのね。」
「こら、茶化すな。」
マチルダにデコピンすると、額を擦りながら「はーい……」と視線を逸らした。
「……で?白夜、何がわかったんだ?」
「……力の違いについてだ。我はまりかに仕える前にこの土地に住む神の守護獣。普段はこの地を守るために神から力を与えられている。だが……」
「俺たちの世界に行くと、この地を離れるから力が使えなくなる……ということか。」
白夜は深くうなずいた。
「そういうことだ。」
白夜のその一言で、まりかの世界と俺たちの世界が違うと、はっきりした。
「びゃくちゃん。あなたの世界には魔力はないの?」
「ふむ……はるか昔、陰陽道というのがあったが……今は既に途絶えている。血縁者はいるかもしれないが、魔力というのは聞いたことがないな。」
そこで一度言葉を切ると――
「……ゲームの中では聞いたことがあるが……」
(ゲーム……とは、なんだ……?)
隣を見ると、マチルダもまた不思議そうに首を傾げていた。
「何度もごめんなさいね。びゃくちゃん」
「その……申し訳ないんだけど……」
マチルダは言葉を選ぶように、一度視線を落とした。
「私たちには、おんみょうどう?とかげーむ?がわからないのよ。結局それも魔力とは違うのよね?」
「……」
白夜も、どう返していいのか、口を閉じた。
静かな空気が、頬をかすめた。
「ふむ……その辺は我もわからん。だが……なんというか、お前たちの世界に行くと、力が抜けるようなそんな感覚になるのだ。」
「特に、炎を吹いた後は酷かった。」
(炎を吹いた後……か)
「スライムを倒した時の話か。」
「そうだ。あの時は必死だった。スライムに囲まれていたからな。」
俺は、以前まりかから話を聞いた時のことを思い出した。
スライムに囲まれて逃げ道を塞がれた。
どうにかしようとしたら、ポシェットの白夜から水がちょろっと出て……
「念じれば使えるのかも……と思ったら使えたんだったか?」
白夜は俺の話に首を縦に振ると、大きな欠伸をした。
どうやら少し眠いらしい……
「そうだ。なんとか炎は出たが……そこから先は数日間眠さが消えなかった。この地に来ると一時的に楽になるがな……」
「その割には今眠そうじゃない……」
「うるさい!時間を考えろ!!」
白夜が空を見上げるのにつられて、俺たちも視線を上げた。
空には綺麗な丸い月と、小さな星屑が静かに瞬いている。
「あら……夜だったのね……明るいから気づかなかったわ……」
「今夜は満月だ。それに、月の光が桜の花びらに反射して、いつもより明るいからだろうな……」
白夜は、もう話すことはないとでも言うように、丸くなると目を閉じた。
「とにかくだ。こことお前たちの住む世界は違う世界だということは話したからな。」
それだけ言うと、すやすやと寝息が聞こえてくる。
「はぁ……一日目から濃い一日だったな……」
「えぇ、濃すぎるくらいよ……」
マチルダはそう言いながら、小さく息を吐いた。
「異世界に来たとは思っていたけど……まさかここまで違うとはねぇ……」
「だな……」
俺も空を見上げたまま、静かにうなずく。
以前聞いたまりかの話も含めて理解はできた。
だが、それと同時に――問題も増えた。
「結局、外に出れば危険なままってことだな……」
「そうなるわねぇ……」
マチルダも表情を引き締める。
「それに、まりかの体も気になるわ。あの子……かなり無理していたみたいだったし……」
「……あぁ、そうだな。」
小さな体で、あの魔物から逃げていた。
その事実だけで、十分すぎるほど異常だ。
「魔力とスキルの違いもわからない。まりかの魔力量の限界もだ……」
「そうね。明日は……少し様子を見た方がいいかもしれないわ。」
「だな……わからない以上、なにかあってからでは遅い。」
一度言葉が途切れる。
風が吹き、花びらが静かに舞った。
「……とりあえず、今日は休みましょうか。」
「そうだな……」
俺たちは互いに頷くと、それぞれの場所へと視線を落とした。




