寝ている間に、保護者たちがひと悶着起こしていたようです。
「なるほど……仲間は五人までか……」
「それだったら、何とかなるんじゃない?それに……素材集めだってずっと、弱小魔物とは限らないでしょ?」
……弱小魔物
それでも倒すのがやっとの私からすれば強敵なんだけど……
でも、マチルダの言う通りだ。
(こういうゲームは……素材がそのままってことはない……よね)
「そうだな。とはいえ、まずはここからどう出るかだな……。」
トットールは白夜とマチルダをちらりと見ると、最後に私を見た。
それにしても、頭が重い……
頭もぼーっとしてきた。
「もう、まりかが限界だな……」
「げん……かい……?」
「そうね。目も開いてないし、明日の朝また話しましょ?」
マチルダは私を抱き上げると、そのまま犬小屋へと運んでいく。
「今日はとりあえずここで寝なさい。」
「んにゅ……ねゆ……」
眠たい目を擦ると、そのまま犬小屋の中に入った。
***
「寝たか……」
「えぇ、疲れてたのね。」
マチルダが戻ってくると、三人で大きな木の下に集まった。
「それにしても……この木。初めて見たな。」
「私もよぉ~。私たちの世界にはない木よねぇ。」
マチルダはヒラヒラと落ちてくる花弁を一枚手に取ると、「綺麗よね……」と呟く。
しばらくの間、誰も言葉を発さなかった。
ただ、風に揺れる花弁だけが静かに舞っている。
どこか現実とは違う、穏やかな空気がそこにあった。
「ダンジョンってことを忘れてしまいそうだ。」
ボソリと呟くと、マチルダも同じことを思っていたのか「本当ね……」と返してきた。
その言葉を境に、ふっと空気が変わる。
さっきまでの穏やかな気配が、どこか張り詰めたものへと変わった。
「おい、トットール。マチルダ。」
声のする方へと視線を向けると、今まで黙っていた白夜が、真剣な目でこちらを見ていた。
「お前たちは、まりかの保護者でもあるからな。ここの存在について簡単に話しておこう……」
白夜は手先をペロリと舐めると、見下ろすようにこちらを見た。
普段ポシェットの姿しか見ていないため違和感も残るが……
(話し方からして、本物なんだろうな。偉そうだし……)
「と、言っても何故か我も忘れてしまっていることの方が多いのだがな。」
「それは偉そうに言うことじゃないでしょ!?」
どうやらマチルダも同じことを思っていたらしい。
「ふん。うるさいぞ。我はこう見えて高貴な存在なのだ。もっと敬え!!」
「いや、敬うところがどこにもないじゃない……」
「な、なんだとぉぉぉ!?」
白夜は目を細めると、マチルダを睨みつけた。
「あら、本当のことじゃない。」
しかし、マチルダはそんなことを気にせず話を続けた。
「だって、あなた。普段は、ただの口うるさいポシェットなのよ?ここでは狐になれるのかもしれないけど……私たちの世界では……ただのまりかの付属品でしかないじゃない!」
「……んぐっ……」
「それに、魔法を使う時はまりかの魔力を使うんでしょ~?お荷物以外の何なのよ!」
白夜は何も言い返すことができないのか――
しおしおと縮こまっていく。
(このままだと話が脱線しそうだな……)
「マチルダ。その辺にしておいてやれ。白夜にも何か理由があるのかもしれないだろ?」
「でも……」
マチルダは不満そうに顔を顰めたが、俺の言いたいことをわかってくれたのか、ぐっと言葉を飲み込んだ。
「それに、今はここの存在について聞く方が先決だ。明日以降どうやってここから出るかを考えなければならないしな……」
「そうね……びゃくちゃん、ごめんなさいね。ちょっと色々なことがあって、いっぱいいっぱいだったわ。」
「び、びゃくちゃん!?」
「えぇ。まりかもあなたのことを“びゃく”と呼んでいるし、可愛いし、いいじゃない。」
白夜もまりかの名前を出されると弱いのか、小さく「好きにしろ」と言うと、そのまま話を戻した。
「まず、ここの存在についてだ。ここはお前たちのいる世界とは違う。ここはまりかの元いた世界の一角だ。」
やはり……か。
マチルダと視線を合わせると、同じことを思っていたのか小さくうなずく。
「びゃくちゃん、それは……何となくわかっていたわ。ここは私たちの住む世界の空気と少し違う。なんというのかしら……」
「瘴気がないのか……苦しくないのよね。」
「瘴気とは……呪いとかそういった類か?」
白夜は首を傾げた。
どうやらまりかたちの住む世界に瘴気はないらしい。
だからなのか……まりかのスキルの中は息がしやすかった。
「ん~……呪いがどういったものなのかわからないんだけど……似たようなものなのかしら?」
白夜の言葉に、今度はマチルダが首を傾げる。
(スチルといい……本当に異世界から来たんだな……)
「わからん……まぁ、似たようなものとしておこう。」
白夜は首を横に振ると、そのまま話を続ける。
「ここは、まりかがお前たちの世界に飛ばされる前に契約して買った土地なのだ。だから、スキルとして一緒についてきた。」
「えっ?」
「ちょっと待って!?スチルじゃなくてスキルなの!?」
まりかがずっと“スチル”と言っていたから、そう信じていたけど、どうやら違ったようだ。
「突っ込むのはそこか!?いまはそれよりも大事なことがあるだろうが!!」
(確かに……)
「そ、そうだったわね。話を続けてちょうだい。」
マチルダが手の平を上に向けて「どうぞ」と白夜に伝える。
「まぁよい。このスキルが使用できるタイミングは我もまだわからん。ただ、魔力とは違う気がしている。」
「結局なにも分からないってこと!?」
「ええい!!言い方を考えろ、言い方を!!」
「と、とにかくだ……異世界に来たことで分からないことだらけなのだ。我はあくまでもまりかの世界でこの地を守っていた守護獣。」
白夜は少し悲しそうな、寂しそうな顔をしながら付け加えた。
「それ以外の何物でもない――それ以上でも、それ以下でもな。」




