桜が譲歩してくれたけど返済システムは変わりません。
《……》
「……」
返事がこない。
風が吹いて、桜の花びらがひらりと舞った。
それでも、桜は黙ったままだ。
(……気まずい……)
いつもうるさい白夜を見れば、時間が止まっているのかトットールたちと同じように静止していた。
「ほんとうに、やくにたちゃない、きちゅねだ。」
《その言葉には同感です。あの狐は、まりか様の傍にいながら役に立っていませんからね》
「……へ?」
いつものシステムらしい声はどこへやら……桜は軽快な調子で言葉を発した。
《……ふふふ……ばれてしまいましたね。》
(バレたって……勝手に話してきたのはそっちだけどね!?)
桜の言葉遣いに目を見開いて驚いていると、桜はそのまま話を続けた。
《本来はこちらが私の話し方なのですが、ゲームらしさを追求した方が面白いかと思いまして……》
「げーむ……りゃしさ……」
(いや、そんなのいらないわ!!)
でもわざとゲームらしさを出しているということは、もしかして……
「ろーんへんしゃいも……?」
《いえ、それは本当です。》
間髪入れずに返ってきた言葉に、私はがっくりと肩を落とした。
「じゃ、じゃぁ……しょざいあちゅめは……?」
《それも本当です。》
どうやら初めに説明してくれた内容に嘘偽りはないらしい。
《ですが、一つだけお伝えが漏れていたことがありました。》
伝え忘れ……?
(……全部、本当なんだ……)
説明は多すぎて覚えてないけど――
ローンやら素材集めやら、ろくなものがなかったのは確かだ。
(変なことじゃなきゃいいんだけど……)
《……》
桜は木をさわさわと揺らすだけで、なかなか話そうとしない。
そのせいか、背中に嫌な汗が一筋流れた。
「しゃくりゃ……?」
名前を呼ぶと、少しだけ木の揺れが速くなる。
《……はい、まりか様。なんでしょうか。》
「はやく、はなちて……?」
《……あぁ~!すみません。話してよかったんですね。てっきり返事がなかったので、聞きたくないのかと思っていました。》
(いや、この流れで話さないとかないでしょ!?)
私は、目を少し細めて桜を見上げた。
《ハハハ……危ない、危ない!!このままではあの狐と同じことになってしまうところでした。》
桜は、白夜のことがあまり好きではないらしい。
会話のたびに滲み出る「あの狐」という言葉に、思わず笑いそうになった。
《ローン返済のお話ですが、三歳のまりか様には難しいということ、十分理解しております。それにこのままではローン返済が出来なさそう……》
(いや、見ればわかるでしょ!ってか、気づくの遅いな!?)
《ですので……百歩譲って、仲間を五人まで集めることを許可いたします。あの狐は仲間には含まれません。あれは……あくまでもまりか様の付属品として扱ってください。》
「……ぷぷぷ……ふじょくひん……」
《はい、あの狐は付属品です。それ以上でもそれ以下でもありません。そして、もらうという行為は禁止。ここも変わりません。一緒に集める、もしくはまりか様のお金で買うということをしてくださいね。》
桜なりの譲歩、らしい。
私は桜の言葉を聞いて、ほっと息を吐いた。
「じゃ、じゃあ……さいこりょも……」
《それは無理です。》
「……でしゅよねぇ~~~……ハハハ……」
仲間よりもローン返済を何とかしてほしかったが、これ以上何も言うことはできなかった。
《はい。本日のローンは金貨十二枚、日本円で百二十万円分が加算されます。》
「……」
百二十万……?
いや、昨日言われた四百八十万円に比べたらマシかもしれない。
《それでは、明日の返済額をどうぞ。》
どこから出てきたのか、手の上にはサイコロが二つ置かれていた。
(来た……これ……)
私は小さな両手を重ねると、その中にサイコロをそっと包み込んだ。
(今日こそは……小さい目が出ますように……)
カラカラ……と、手の中で音が響いた。
「えいっ!!」
小さい手からサイコロを落とすと、コロコロと転がっていく。
しばらくして、止まったサイコロを覗き込むと、
そこには――
六の目が二つ並んでいた……
「にゃんでぇぇ!?」
《おめでとうございます。また十二ですね。》
「こりぇ!ろくしか、にゃいんじゃにゃいにょ!?」
《いえ、そんなことはございません。》
「でみょ、まいかい、ろくにょ!?」
《それは……まりか様の運の問題かと》
ぐっ……
痛いところを突いてくる桜に、思わず言葉を飲み込んだ。
《もし、そんなに気になるというのでしたら、拾ってみていただいても構いません。》
私は目の前に転がっているサイコロを手に取ると、その目を確認した。
「いち、に、さん……あってりゅ……」
《ふふ……私がまりか様に嘘を言うわけないではありませんか。あの狐ではないのですから。》
《それでは……名残惜しいですが、まりか様から何もなければ終了とさせていただきますが、よろしいでしょうか。》
あの狐といい、名残惜しいといい……
(もしかして、寂しいのかな。)
桜の木を見上げれば、ゆっくりと揺れている。
私は桜の木にそっと手を置くと、手のひらで撫でた。
「しゃくりゃ……また、あちたも、くりゅからりゃね」
その言葉が嬉しいのか、揺れが少しだけ早くなった。
《ありがとうございます。明日こそ、返済されることを楽しみにお待ちしていますね。》
その言葉を最後に――
ふっと、意識が現実へと引き戻される。
止まっていた時間が動き出し、風に揺れる桜の音が耳に戻ってきた。
「……びゃく?」
隣にいたはずの白夜が、いつものように不機嫌そうな顔でこちらを見ていた。
「おい、何をぼーっとしている」
トットールとマチルダは白夜の言葉に反応するように、私を覗き込んだ。
「あら、大丈夫?」
「あぁ~、ちょっと顔が青いな。心配だ。」
「とと、まちりゅだ……」
できれば二人には仲間になってほしい。
(家族だからって……言われているけど……)
私は手をギュッと強く握ると、桜と話した内容を三人に話した。




