このままだと毎日取り立て地獄です。
「へぇ~、白夜ってうるさいポシェットだと思ってたけど、本当に狐だったのねぇ~。」
一通り落ち着いたところで、私は白夜についてトットールたちに話した。
「不思議なものだな。でも、何で話すか納得した。普通ならポシェットが話すなんてことないもんな。」
確かに……
ポシェットが話すことは、この異世界でもないらしい。
「びゃく、そとでてもだまっちぇてね!」
「だ、だま、黙ってろって!?もっと言い方があるだろうが……!」
「……」
「おい!なにか言い返せ!まるで我がバカみたいだろうが!!」
「びゃく、もともちょ、あたまわりゅい……」
私が目じりを下げて首を横に振っていると、
ブォンッ
システムが起動する音が頭の中に響いた。
その瞬間――
先ほどまで動いていたはずのマチルダやトットールの動きが、静止画のように止まる。
(えっ……前はこんなことなかったと思うんだけど……)
《おかえりなさいませ。まりか様。》
どうやら、桜と話すときは動きが止まるようだ。
「たぢゃいま、さくりゃ……」
《桜とは……私のことですか。私にも名前を付けてくださるなど、まりか様はお優しいのですね。》
「ふふ……じゃあ、しゃっきん、まけちぇ……」
《それはできません。ルールですので。》
「……ですよにぇ~……」
桜の声にがっくりと肩を落とす。
《本日のローン返済の時間となりました。》
「……」
淡々と事実だけを告げていくシステムに、なぜか泣きたくなってくる。
《まりか様。返済をお願いいたします。》
(いや、返済なんてできるわけないじゃん)
《まりか様。返済をお願いいたします。》
機械のように同じ言葉を繰り返す。
そもそも、ここに来るまでに色々あったのだ。
まずは無事にスキルを使えたことを褒めてほしい。
(……って、言ってもこのシステムには伝わらないか……)
私は小さくため息を吐くと、桜に聞こえるくらいの声で呟いた。
「……へんしゃい……できましぇん……」
《……はぁ……そうですか……》
桜の呆れた声が、頭の中に木霊する。
返済できない申し訳なさも相まって、次に出てきた言葉は――
「……しゅみまちぇん……」
たった一言だった。
***
「シャンティア団長は見つかったか!?」
ドドドドッ――
「いや、見つからん。あの人すぐにいなくなるんだよな……」
聖女と勇者が現れてから一週間――
フランシア国にある魔法師団では、いなくなった団長を探すため、団員たちが走り回っていた。
「はぁ~……またですかぁ……」
私は団長室に入ると、いつもシャンティア団長が座っていた場所に目を向けた。
いつもだったら書類や本が散乱している机の上も、妙に整いすぎている。
(これは……もう戻って来ないということでしょうかねぇ~……)
ガタンと椅子に座ると、机の引き出しを順番に開けた。
すると――
「セナへ」と書かれた封筒が、一通だけ入っていた。
(全く……律儀なのは変わらないですねぇ……)
裏を見れば「トットール・シャンティア」の名前が入っている。
異世界召喚の後も、団長が聖女や勇者に興味を示していないのはわかっていた。
いつも外を眺めては心配そうにため息を吐く。
その様子を見ていて、いつかはこんな日が来るのではないかと思っていた。
私は封を開けると手紙を取り出した。
―――――
セナ・ニャードラ。
お前に、魔法師団団長を命ずる。
お前は俺の弟子だ。だから大丈夫だろう。
俺のことは、適当に誤魔化しておけ。
あとは頼んだ。
トットール・シャンティア
―――――
「本当、師匠らしいですねぇ……」
私は手紙を封筒に戻した。
そして、指先に火を灯し――封筒へと移す。
パチパチ
燃えていく文字を、ただ静かに見つめる。
「……魔法師団は私が預かります。」
ぽつりと、そう口にする。
もともと、師匠には無理を言って押し付けていた役目だ。
この国が人以外を受け入れないと知りながら――
それでも、ここに残っていた。
「仕方ないですねぇ……ここからは、私が頑張りますかぁ~……」
黒くなった手紙を手に取ると、窓の外へ放る。
ひらひらと舞っていた残骸が、風にさらわれて消えていく。
その瞬間――
コンコン
扉を叩く音が響いた。
(名残惜しむ時間は終わりですねぇ……)
止まっていた時間が、再び動き出す。
「はぁーい。いますよぉ~!!」
外にいる団員に声をかければ、ガチャリと扉が開いた。
「……あれ?セナ副団長?」
廊下の向こうから、団員の一人が不安そうに声をかけてくる。
私は軽く息を吐いてから、いつもの調子で振り返ると、にこりと微笑んだ。
「団長は……長い休暇に出てしまったようですぅ~」
「えっ!?きゅ、休暇ですか……?この大変な時に……?」
(大変……ですかねぇ~?)
廊下の奥からは、聖女と勇者の怒鳴り声が聞こえてくる。
「イケメンを連れてきなさいよぉ!!」
「エルフの美女を連れてこい!!」
(まぁ、あの二人相手だと厄介ではありますけどねぇ~……)
私は目を細めると、目の前にいる団員に一言告げた。
「その間は――私が預かります」
「えっ!?セナ副団長が!?!?大丈夫ですか?」
「まぁ~何とかなりますってぇ~……」
目の前にいる団員の肩をくるりと扉の方へ向けると、そのまま背中を押す。
「さっ、仕事、溜まってるんでしょう?さっさと終わらせますよぉ~」
そう言って歩き出すと、近くで聞き耳を立てていた団員たちが後に続いた。




