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異世界召喚の代償は三歳の身体と五千万円のローンでした! ~目指せ完済!スキル『我が家』で借金返済しながら成り上がります~  作者: ゆずこしょう
どうやら嫌な予感が的中したようです。

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瘴気と言われても、私だけ何も感じないみたいです。

「うわぁぁ~……うっ……」


赤い瞳がギロリとこちらを睨む。


その瞬間、思わず叫びそうになった私の口を、トットールが塞いだ。


「シッ……まりか。今は声を上げるな。」


こくりとうなずくと、私は音を立てないようにトットールの後ろに隠れた。


「久しぶりねぇ~!やっぱりミスリルがあるダンジョンなだけあるわぁ~!」


ダンジョン!?


ただの洞窟だと思っていたが、どうやらここはダンジョンらしい。


しかもマチルダは『ミスリルがあるダンジョンなだけあるわ~』と言っていた。


(それって結構やばいダンジョンなんじゃ……いや、聞かない方がいいわね……)


マチルダはさらりと髪をかき上げると、妖しい笑みを浮かべた。


「トット。こいつは私がもらうわね~!」


「あぁ~……見るな。」


私がちらちらと視線を向けていたのに気づいたのか、トットールが静かに私の顔を自分の胸元に押し当てた。


すると――


ヒュッ――キィンッ!


鋭い金属音が耳に届く。


「はい、終わり~!」


マチルダの明るい声が洞窟に響いた。


私はおそるおそるトットールの服から顔を上げると、足元には先ほどまで私を睨んでいた魔物が静かに倒れていた。


(……はや)


あまりの早さに、思わず二度見する。


「えっ……と……」


「ふふ……驚いた?私こう見えて……バリバリの剣術使いなのよ~!」


「……」


いや、それは見ていればなんとなくわかるけど……


「いや、そこじゃないだろう。まりかが驚いているのは……」


「えっ?違うの!?」


マチルダがギュンッという風切り音とともに振り向いた。


(絶対的に回しちゃいけないやつだ……)


少し視線を逸らしながらうなずくと、トットールが続ける。


「……魔物の弱さにだろ。」


「……」


(いや、それも違うわ!!ってか、そもそも絶対弱くないでしょ!この魔物……)


全身を纏う黒い毛並み。


頭には大きな角が二本生えていて、口からは何でも噛みちぎることができそうな鋭い牙が見えている。


「それにしても……こいつがここにいるなんてな。」


「えぇ……魔災の影響なのかもしれないわね。」


二人の話からすると、この魔物自体は弱いものではなさそうだ。


「こいちゅは……?そうしゅりゅの?」


マチルダが倒した魔物を指さすと、トットールが空中をつまむように指を動かした。


すると――


空間が歪んで、何もなかったところに穴が開いた。


「ヘルモスっていう魔物だ。」


トットールはヘルモスを手に取ると、そのまま穴の中にしまっていく。


穴に消える寸前、ヘルモスの首がこちらを向いた。


(ひぃぃ……でも、なんだか美味しそう~……)


「一応しまっておくか。素材にはなるしな。」


「そうね、お肉としては一級品だし、戻ったら解体してもらいましょ~。」


一級品という言葉に、思わず喉の奥がごくりと鳴った。


ぐぅ~~~~


そしていつもの如く……


私のお腹の音が鳴り響いた。


「とと……こりぇ、たべりぇりゅの?」


思わずそう聞くと、マチルダとトットールが一瞬だけ顔を見合わせた。


「あぁ、食べられるぞ。ただし――」


トットールが言葉を切る。


「普通は、な。」


「ふちゅーは……?」


(これは普通じゃない……ってこと?)


お腹がすいたこともあって、食べられないと聞くと、心なしか声のトーンが下がる。


そんな私を見て、マチルダがくすっと笑った。


「瘴気をたっぷり浴びた魔物はねぇ、そのまま食べると体を壊すのよ~。」


「か、からだ……?」


「軽ければ吐き気やめまい、ひどいと魔力が暴走することもあるわねぇ。」


「……」


(それ、絶対ダメなやつじゃない!?)


トットールが穴を開けていた空間をじーっとみる。


すでにこの場に魔物の姿はない。


だが、なんとなく……一歩後ろに下がった。


(異世界……こわっ……)


海外旅行に行く時も知らない地に行くわけだから怖さはあった。


でもそれ以上に、今の方が数倍怖い。


「……ふふっ。そんなに怖がらなくて大丈夫よ?ちゃんと処理すればいいだけなんだから。」


「そうだな。瘴気を抜けば問題ない。あとは普通の生き物と変わらないからな。」


「……しょーき……」


聞き慣れない言葉を、ぽつりと呟く。


(さっきも聞いたな)


「この空気のことよ~。見えないけど、身体にはしっかり影響が出るの。」


マチルダはそう言いながら、軽く肩を回した。


「長時間浴びると、体調崩すから気をつけなさいねぇ~。」


(空気か……)


スンスンと鼻を鳴らして嗅いでみるが、いつもと変わらない。


むしろ洞窟の中だからか、苔の匂いや、梅雨のような湿った匂いを感じる程度だ。


(今のところ体に異変とかはないけどなぁ……)


「……ととと、まちりゅだはだいじょぶにゃの?」


「俺たちは慣れてるから平気だ。それに……」


「不思議だけど、いつもより不快感は少ないのよね。」


「へぇー……」


不快感が全然分からない。


「敵はある程度の強さなはずなんだけど……不思議ね。」


マチルダの言葉に、トットールも静かにうなずく。


「普通なら、もう少し影響が出てもおかしくないはずなんだがな……」


(普通なら……?)


その言葉が、妙に引っかかる。どのくらいの影響が出るかが想像できないけど……


(風邪を引いた時みたいな感じなのかな)


私は自分の手を見つめた。


震えてもいなければ、息も乱れていない。


頭も、はっきりしているし、冷や汗もかいていない。


(ん~……やっぱり、何も変わらないわね)


自分の身体をバタバタと動かして確認していると、二人は私の動きに笑い始めた。


「ふふっ、何してるのよ。」


「変だぞ……」


空気が柔らかくなる。


その時――


ぴたり、と。


空気が止まった。


トットールたちの笑い声は消え、鋭い視線が洞窟の奥へと向けられた。


「……っ」


「……来るわね。」


その声は、さっきまでの軽さとは別人のようだった。


空気が、さらに重くなる。


押し潰されるような圧。


それなのに――


(……やっぱり、平気)


その違和感だけが、はっきりと残った。


次の瞬間。


ずるり、と。


闇の奥から、何かが這い出てきた。


「にゃ、に……ありぇ……」


それは――明らかに、この場の空気を変えている“元凶”だった。


その存在を見た瞬間。


トットールとマチルダの呼吸が、わずかに乱れる。


「……嘘でしょ」


「なんで、こんな所に……」


二人の声は、かすかに震えていた。


――それなのに。


(……やっぱり、何も感じない)


私だけが、その異常を“感じていなかった”。

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