やっぱりそうなるよね!?
「ジオルド、久しぶりね!」
「なんだ、お前らか。」
お店の中に入れば、薄暗い室内に武器や防具がずらりと並んでいた。
剣、槍、盾……どれも磨き上げられていて、鈍い光を放っている。
棚や床を見ても、塵一つ落ちていない。
(すごい……本物だ。)
思わず手を伸ばしかけて、思いとどまった。
(触ったら怒られそうね……)
初めて見る武器に目を向けていると、ふとあることに気が付いた。
店内はとても清潔だというのに、お客さんが一人もいないのだ。
「お前らとは何よ!それより、今日も閑古鳥が鳴いてるじゃないの。」
マチルダと軽口を言い合うあたり、知り合いのようだけど……
(なんだろう……隣に住んでいた頑固親父を思い出すわ……)
頑固親父……
早くに奥さんを亡くして、母が心配だからとよく料理をおすそ分けしていた。
その度に、
「俺は世話されるほど腐っちゃいねぇ」
「俺のことは放っておいてくれ!」
と、よく帰されたものだ。
その話を母にすれば、「本当は寂しいのよ~。」と笑っていた。
昔のことを思い出していると、店主の声でふっと現実に引き戻される。
「……うるさい。お前に心配される筋合いはないぞ。それだけを言いに来たのであればすぐに帰れ!」
「まぁまぁつれないじゃないの~!私たちとジオルドちゃんの仲でしょぉ~!」
ジオルドちゃん……!?
不思議そうにマチルダを見上げれば、それに気づいたマチルダが私に声をかける。
「ふふっ。ごめんなさいね。ちょっと怖かったわよね~。まりか、この不愛想な男に自分でご挨拶できるかしら?」
挨拶……
ちらりとジオルドの方を見れば、ジオルドは私のことを不思議そうに見つめていた。
恐らく人種である私がここにいるのが珍しいのだろう。
トットールの肩を軽く叩くと、そっと床に降ろしてくれた。
トテトテ
転ばないように気を付けながらジオルドの元へと向かう。
「じ、じおりゅどちゃん。わたち、まりかってゆうにょよ。よろちくにぇ。」
頭を下げて挨拶をすると、後ろから「くくっ」と笑い声が聞こえてくる。
「じ、ジオルドちゃん……ですって……」
「あぁ~。ジオルドちゃんもまりかの言葉に固まっているぞ。」
(マチルダがジオルドちゃんと言っていたから真似したんだけど……ダメだったかしら。)
ジオルドの顔がみるみる赤くなっていく。
(やばい……あれは頑固親父の必殺技……)
「ちゅんかん、ゆわかちき……」
私は慌てて口を押さえた。
しかし、ジオルドだけでなくマチルダたちにも私の声が届いていたようだ……
店内に二人の笑い声が弾けた。
そして、次の瞬間――
「い、いい加減にせんかぁぁ~!お、おまえらぁぁぁ~!!人をおちょくるのも大概にしろよ~!」
ジオルドの怒鳴り声がそれをかき消した。
混沌とした店内で思わず耳を塞ぐ。
「ひぃぃぃ~だってぇぇ~ジオルドちゃん……瞬間湯沸かし器って……そのままじゃな~い。もういっそのこと瞬間湯沸かしジオルドにしたらどぉ~?」
マチルダは火に油を注ぐのが得意なのか、笑いながらジオルドの肩をバシバシと叩く。
「そうだな。それはいい。似合っているぞ。瞬間湯沸かしジオルド。くくくっ……」
トットールとマチルダを見ていて、てっきり正反対な二人だと思っていたが、どうやら違ったようだ。
(二人ともそっくりね……)
私は小さくため息を吐くと、ジオルドに声をかける。
「じおりゅどちゃん。」
「あ?なんだ。娘が俺に何の用だ。」
「むしゅめじゃにゃい、まりか。」
ジオルドをじろりと睨むと、自分の髪をガシガシと掻いてから恥ずかしそうに言い直した。
「あぁ~、まりかだな。で、何の用だ。」
何の用……
そういえば何の用でここに来たのか。
トットールをちらりと見る。
「そうだったな。ジオルド、まりかでも使える武器はないか?できれば軽くて、切れ味のいいナイフとかだと助かるんだが……」
「剣はまだ持てないだろうしな……」
ボソッとこぼしたトットールの声が私の耳に届く。
(失礼ね……いつか使えるようになるわよ!)
といっても、どうやったら元の身体に戻るのか全然わからないのだが……
「軽くて、切れ味のいいナイフか……」
ジオルドはトットールの話を聞いてからジーッと私を見つめる。
先ほどまでの目つきとは明らかに変わっていた。
「まりかのサイズだったら持てるナイフはあるが……重たいだろうな。もし、軽いナイフがいいというのであれば……ミスリルか、オリハルコン辺りだが……」
ミスリルにオリハルコン……
(ゲームしていたときに聞いた名前だわ!)
オリハルコンは伝説級、ミスリルはその一段下――
そんなイメージだ。
「ミスリルか、オリハルコンか……ちなみに在庫は……?」
「えっ!?ありゅにょ!?こんなとこりょに!?」
まさか店先でお目にかかれるとは思っていなかったので、自分が失礼なことを言っているとは気が付いていなかった。
「いや、ないぞ。っていうかお前、さっきから聞いてればいい口してるな!」
ジオルドは私の頬をグイッとつぶす。
ぷにっ。
口が尖ってタコみたいな顔になったのがわかる。
「お前のせいで、こいつらに笑われるは最悪だ。」
タコの顔のまま、トットールたちを見れば、二人は笑いを堪えていた。
(これはジオルドに対してっていうより、私に対してだと思うけど……)
でも、失礼なことを言ったのはわかっている。
瞬間湯沸かし器とか、
あと、瞬間湯沸かし器とか……
(あれ、瞬間湯沸かし器くらいしか言ってなくない!?)
そう思ったものの……
(気づいていないだけで、嫌な思いをさせたかもしれないし。)
ここは三十三歳。大人な私が折れるべきだ。
(見た目は三歳だけど……)
私は必死に「ご、ごめ、ちゃい……」と伝えれば、思いが伝わったのか、
「ふんっ。」
と言って頬を離すと、ジオルドはそのまま店の奥へと入っていった。
それからしばらくして――
「まりか。お前が使えそうなナイフをいくつか用意した。一度持ってみろ。」
そう言って持ってきてくれた三本のナイフ……
「ガキ用に作ったもんじゃねぇが……まぁ、使えなくもねぇだろ」
確かに、子供でも扱いやすそうなナイフではある。
一本一本落とさないように気を付けながら持ってみると、
「お、重たい……」
「そうだろうな……」
全てのナイフが思っていた以上に重たかった。
「獣人族であれば、子供でもこのくらいの重さは普通に使うことができる。だが、人族となるとこれでは重たいんだ。そうすると、ミスリルなら軽くて持ちやすいだろうが……」
ジオルドは少し言葉を濁した。
なんだか嫌な予感がする。
「最近、鉱石の納品があまりなくてな。もし作るとなると、時間がかかる」
(やっぱりね!?)
他の素材も採取に行かなければならないから、あまりこっちに時間は割きたくないところなんだけど……
「ちにゃみに……つくりゅとしたりゃ、どにょくらいかかりゅの……」
ジオルドは少し考えてから、少し視線を逸らした。
「わからん。」
「わからにゃいって……」
「ダンジョンに行った冒険者が何人も帰ってきていないらしいんだ。」
(わぁ……不穏な空気がぷんぷんする)
私と同じことを思ったのか、トットールとマチルダも顔を顰めた。
「もし、みちゅりりゅ、がほちいにゃら……」
「あぁ~俺たちで採りに行くしかないだろうな……」
返ってきたのは無情な一言だった。
(やっぱり……そうなるのね。)
どんどん増えていく素材採取に、私は膝から崩れ落ちた。
(お願いだから、もう少しだけ簡単にしてほしいんだけど……!)




