お願いなので、素材集めの準備くらいは簡単に進めさせてください!
「わかったわ!そしたら……まずは準備しないとね。魔物退治もしないといけないし。」
マチルダが私をちらりと見る。
持っているのは白夜のポシェットのみ。
「この服装は……って思ったけど、着替えができないのよね。」
そうなのだ……
青いオーバーオールに赤いトレーナーにハンチング帽。
唯一着脱可能なのはハンチング帽のみで、それ以外はなぜか脱ぐことができない。
お風呂に入るときは一時的に脱ぐことが可能だけど、それ以外の服を着ようとすると、洋服が私の身体をすり抜けてしまう始末。
(いったいどうなっているのか……不思議なのよね。)
「とりあえず、魔物と戦うための武器を用意しましょう。魔法も使えるみたいだけど、すぐに魔力がなくなってしまったら……元も子もないしね。」
魔力の調整がまだできないというのもあるのかもしれないが、先日の二の舞は困る。
「たちかに、そりぇは、こまりゅ」
いくら素材集めを地道にしていきたいといっても、借金がどんどん増えていくのは避けたい。
(宿屋だって、成功するかわからないし……)
そのためにはサイコロを毎日引いて、金額を下げておかないといけない。
(魔力枯渇で倒れるのは絶対に避けたいわね。)
「でしょ~……まりかが魔力を供給できるのが白夜以外にも可能で、私たちも使えるなら私たちが戦う未来もあるのだろうけど……」
「それがいいのかもわからないしね。」
さすが元冒険者。この短時間でここまで考えてくれているとは。
「そうだな……俺たちがどれだけ手助けしてもいいのかもわからん。とどめを刺すのがまりかであればいいのか……とかな。そのあたりは色々試していくしかないか。」
マチルダの言葉に続くように、トットールが話す。
「とと、まちりゅだ……ありがちょ。」
改めてぺこりと頭を下げると、二人は微笑んだ。
「いいのよ~!さっ、行きましょうか。このお店は今日で一旦廃業ね~!」
「えっ?」
軽く言うマチルダに思わず目を見開く。
「いいのいいの~!まりかの方が大切だもの。それに~このお店は道楽でやってただけだから~。」
道楽で……宿屋?ですか……
「あっ、宿屋って勘違いしているようだけど、ここはただの食堂よ? 二階は私の居住スペースで、三階はアパートとして貸し出してただけ~!」
……
てっきり宿屋かと思っていたけど違ったらしい。
「アパートはそのまま貸し出しておけばいいし、食堂だけ閉じれば大丈夫でしょ~。」
「そうだな。たまに見に来ることもできるし、話しておけば住人の誰かしらが手入れしてくれるだろう。」
軽く話す二人に、私はそれ以上何も言い返すことができなかった。
***
「待たせたな。」
「じゃ、行きましょうか~!」
それから数分後――
トットールは準備を終えて一階へと降りてくると、私を抱きかかえた。
荷物はもちろん……
「にゃにももってにゃい……?」
マチルダを見ても、持っているのは細い剣を一本腰に差しているだけ。
「ふふ。驚いた? 私たちは魔法で収納ができるのよ~。エルフはこういうのができるから助かるわ~!」
何もないところに手をかざすと、空間が歪む。
(空間魔法……ってやつかな)
「わたちも……ちゅかえりゅ?」
「いや、お前は使えなくてもいいだろ。」
二人に聞いてみれば、代わりに白夜が答えた。
「我の中に入れればいいのだからな。」
……
いや、絶対空間魔法使えた方がかっこいいでしょ!?
思わず白夜を睨みつければ、白夜はふいっと顔を背けながら口笛を吹き始めた。
ぴゅ~ぴゅ~
気の抜けるような音が耳に届く。
「ぷぷ……だしゃ……っ!」
私はそんな白夜につられて笑いながら言い返した。
「なっ!だ、ださ、いだと!?」
「うにゅ……びゃく、だしゃ……ぷぷ……」
私たちのやり取りを見ていたトットールとマチルダも、笑いをこらえているのが見える。
それに気づいた白夜は、
「わ、わ、笑いたきゃ笑うがよい!下手にこらえられる方が辛いわ!」
顔を真っ赤にしながら叫んだ白夜の言葉に、堪えきれなくなったみんなが一斉に笑い出した。
それからしばらくして――
「はぁ~笑った笑った。じゃあ気を取り直していくか。」
ある程度笑いが収まるのを待つと、トットールが扉を開けた。
外から陽の光が差し込んでくる。
「まぶちぃ~……」
魔法陣とは違う自然光に思わず目を瞑った。
「はは、すぐ慣れるさ。それより、ゆっくり目を開けてみろ。」
異世界にきて初めての町。
ゆっくりと目を開ければ、石畳の道が遠くまで続いていた。
木組みの建物が立ち並び、色とりどりの布が窓から干されている。
「いらっしゃい!新鮮な野菜はいかがですか~!」
「武具の修理承ります~!」
「今日は魚が安いよ~!」
あちこちから飛び交う威勢のいい声。
行き交う人たちの中には、獣の耳や尻尾を持つ人、頭に鬼のような角が生えた人……
日本では絶対に見ることのできない光景が広がっていた。
(本当に異世界なのね……)
「わぁ~……しゅごい……」
今まで見たことのない世界に思わず目を見開いた。
(って、見とれてる場合じゃない!)
私は首を横に振った。
「ふふ。そんなに喜んでもらえるとなんだか私たちも嬉しいわね。ここは色々な種族が共存している町なのよ。といっても、フランシア国以外は似たような感じなんだけどねぇ~。」
「さっ、まずは素材集めのための準備を整えないとね~。」
マチルダの言葉にうなずく。
(そうだ。目的を失わないようにしないと……)
鼻をふんふんと鳴らしながら息巻いていると、そんな私の気持ちとは裏腹に、色々な人たちが声をかけてくる。
「よっ!マチルダちゃん~今日も美しいね~!」
「あら、ありがと。そんなこと言っても安くはしないんだからね~!」
「トットールも一緒なんて珍しいじゃないか。冒険者に戻るのか~?」
どうやらこの町で、二人を知らない人の方が少ないようだ。
二人は手短に挨拶を済ませると、一軒の店の前で止まった。
カラン、カラン
「いらっしゃい。」
ベルの音とともに出てきたのは、人よりも小さく、がっしりとした身体。
そして少し気難しそうな雰囲気をまとった、ドワーフだった。
(……一筋縄ではいかなさそうだけど、大丈夫かな)




