借金は増えましたが、とりあえず素材集めから始めます。
「宿屋を始めるということはわかったわ。でも、その前に問題がいくつかあるわよね。」
マチルダの声にトットールと私はうなずく。
「そうだな。」
「しょざいあちゅめ。いぬごやかいじょー。ろーんへんしゃい。」
指折り数えながら問題点を出していく。
「そう、犬小屋の状態では何もできないわ。まりかなら入れたのかもしれないけど、私たちに入ることはできないわよね。」
確かに……
ギリギリ子供が一人入ることができる大きさの犬小屋にマチルダたちが入ることはできない。
「それに、一番の問題は私たちがまりかのスキルの中に入ることができるのかということだと思うの」
その言葉にトットールが続く。
「確かに。さっきまりかがスキルを使ったとき俺たちは弾かれた。」
「しょうだった……」
皆で移動したはずが、移動できたのは白夜と私だけ。
トットールとマチルダは移動することができなかった。
(でも……できないってことはないと思うのよね。)
桜と話をした時――
《まりか様なら自分で稼ぐことができるはずです》
と言っていた。
すでに稼ぐ前提で話をしていたのだ。
(あれは素材集めで稼げるって話し方じゃなかったのよね)
それにローンの増えていく金額を考えていくと……
(金貨四十八枚で四百八十万円ってことは、金貨一枚で十万円)
何かしら商売をしなければ返すことは……
(現実的に無理よね)
桜の言葉を思い出すだけで気持ちが沈む……
ただ、考えているうちにわかってきたこともある。
犬小屋から小屋へ進化させようとしたとき、ステータスボードらしきものには《施設強化》という言葉が出てきていた。
と、言うことは――
(町とか作るシミュレーションゲームみたいなのよね~)
スマホでやっていたゲームを思い出す。
私が思っているシミュレーションゲームであれば、これからレベルアップをしていくと解放されるものが増える気がする。
(まぁ……それ以外にも何かありそうだけど……そこは考えないことにしょう)
私は一度下を向いて考えると、トットールとマチルダを見た。
「いましゅぐ、むり。でみょ、いどーできりゅ、きがすりゅ。」
すると、二人は一度お互いの顔を見あった。
どうやら意味が分からないようだ。
恐らく、スキルという概念がないから想像できないのだろう。
私は「ん~……」と考えてから、トットールたちにわかりやすい言葉で聞いてみた。
「とと。まほーは、れべりゅあぷしにゃい?」
「ん?なんだ……その、〝れべりゅあぷ"とやらは……」
……
レベルアップ……が伝わらない。
別の言い方、別の言い方……
(……そうだ!)
「まほー、ちゅよくすりゅには、どうすりゅの?」
首をコテンと傾げる。
「あぁ~強くするにはどうしたらってことか!」
なんとかトットールにも伝わったらしい。
(スキルという言葉もそうだったけど……伝わらない言葉が結構あるのよね。)
普段何気なく使っていた言葉が伝わらないのは、地味に厄介だ。
(これだったら海外留学しておけばよかった。)
(いや、したところで伝わらないか。ここは異世界だし。)
一人でノリツッコミをしていたら、トットールがわかりやすいように解説していく。
「魔法は魔力に比例する。それと使う人の想像力だな。だから強さとかは関係ないんだ。」
「あるとすれば、年齢によって魔力量が増えていくということだろうか。」
「あっ、あとは種族にも影響するわね~。エルフはこの世界で最も魔力が多いわ。逆に獣人族は魔力こそ少ないものの力が強いしね。ドワーフは魔力は普通だけど手先が器用だったりするのよ。」
トットールの言葉に、マチルダが補足する。
なるほど……
(種族によって、得意・不得意があるってことね)
この世界にどんな種族の人がいるのか気になったが、それはこれからわかっていくだろう。
ただ、一つだけ気になったことがある。
「ひとは?」
人族についてだ。一番弱いといっていたし……
「人族か……」
「あ~人族ね……」
歯切れの悪い二人を見て、なんとなく察してしまった。
「人族はちょっと特殊なのよ。私たちも知らないことが多いわ。」
「俺もだ。数年間、実態を探ろうとフランシア国に滞在していたが、わからないことが多かった。」
トットールは一度そこで区切ると、小さく息を吐きだす。
「魔法は使えないわけではないが、魔力は弱い。結界魔法は得意のようだがな……それ以外はからっきしだ。そして、聖女、勇者信仰が強いだけで、全て人任せの国だ。」
聖女、勇者か……
一緒に召喚された二人を思い出す。
(あの二人に何かができるとは思えないけど)
それに一つだけ気になることがある。
「まりかも、ひと、だけど、まほーちゅかえた。にゃんで?」
魔力が年齢に値するなら、人族の三歳なんてほとんど魔力はないんじゃないだろうか。
なのに白夜はあたり一面を吹き飛ばすくらいの炎を吹くことができた。
「それは、まりかが異世界人だからではないか。」
今まで黙っていた白夜が、「何を当たり前のことを…」とでもいうように口を開いた。
「確かに、異世界人ということで何か違うことがあるのかもしれんな。」
白夜の言葉にその場にいた全員が納得した。
(まっ……私には関係ないことね。これからのことを考えましょ)
私は頭の中を切り替えると、これからについて考えていたことを話す。
「まりかにょ、すちる。しょざいあちゅめりゅと、ちゅよくなりゅ。と、おもう。」
「だかりゃ、まじゅは、しょざいあちゅめしゅりゅ!」
あくまでも強化できるかどうかは想像でしかない。
まずはやってみないと何も始まらない。
「スチルが未知すぎてわからないのだけど、強くなる可能性があるならやってみないとね。」
「そうだな。素材集めもまりかがしないといけないんだったな。モンスターを教えたり、戦い方を教えることはできるからな。一緒に行こう。」
こうして素材集めが始まろうとしていた。
その時――
「借金はどうするんだ?増えていくだけだぞ。」
白夜の声がその場に静かに落ちた。
(考えないようにしてたのに……)
「しゃっきん、ふえても、しかたにゃ……」
「それよりも、いにゅごや、しんかのほうが、だいじ!」
――その瞬間。
頭の奥に、あの機械的な声が響いた。
《承知いたしました。その間も借金は増え続けますのでご注意ください。》
(いや、我が家の外でも話せるんかい!!)
しかし、機械的な声が返ってくることはなかった。




