借金返済のために犬小屋を宿屋に改造することにしました!
「と、言うことがあったらしい。」
「なるほどな……」
椅子に座って、カップに入っているミルクをちびちびと飲むまりかを見つめる。
その間も何かを考えているのか、まりかはどこか遠いところを見ていた。
その時――
ふと何かを思いついたのか、勢いよく立ち上がった。
「しょーだ!わたちがととたちをやとえばいいにょよ!」
「……いや、雇うといっても金がないだろう……」
まりかに雇われるか……
それも悪くはない。
悪くはないが……
俺が唸っていると、マチルダが代わりに話し出した。
「まりか。私はあなたに雇われるのはさらさらごめんよ。」
「や、とわれたくにゃい……?」
まりかは血の気の引いた顔で、俺とマチルダを交互に見た。
そんな様子に気付いてか、マチルダはまりかに近付くと、小さな手をギュッと握って視線を合わせる。
「えぇ……私はね、あなたと家族になりたいと思っているの。勿論、隣で黙りこんでいるバカもね。」
「か、かじょく……?」
「そうよ。だから、雇う、雇われるじゃなくて、一緒にお金を稼ぐというのはどうかしら。勿論家族としてね?」
「いっしょに、かしぇぐ……」
マチルダはまりかの言葉にこくりとうなずいた。
「そう、一緒に稼ぐ分にはもらったものにはならないでしょ?あなたがこれから生きていくためにも、魔法を使えるようにならないといけないし、素材集めも自分である程度できた方がいいわ。」
マチルダの言うとおりだ。俺たちがずっと一緒にいてあげられるわけではない以上、この子にも自分で生きていく術を身に付けてもらわなくてはならない。
異世界から来た以上、今までとは何もかも勝手が違う。
「たびゅん、いっしょにかしぇぐ、だめとおもう。さくりゃ、そんなにあまくにゃい……。」
マチルダの言葉にまりかは首を横に振った。
さくりゃ……?
新しい名前に思わず口を挟みそうになるが、それを遮るようにまりかは話を続けた。
「でみょ……ふたりとかじょくはうれちい……」
それだけ言うとはにかむように笑うまりか。
(うちの娘……かわいいな。)
それに合わせるようにマチルダもまりかに笑顔を向ける。
「ふふっ……そう言ってもらえて嬉しいわ。」
「でも……そっか……あくまでもまりかのスチルだから、本人が稼がないといけないってことなのね。」
「うにゅ……」
マチルダは少し考えてから、白夜に視線を向けた。
「白夜、スチル『我が家』だっけ……その中には二人しか入れないのかしら。」
「我が知っていると思っているのか?」
「……知っているわけがないわね。」
「失礼だな!」
「くふっ」
二人のやり取りを見ていると、まりかが小さく笑った。
その瞬間――
少しだが、まりかの目に光が戻ってきているようなそんな気がした。
***
「びゃく、まちりゅだのおかげでいいこちょ、おもいちゅいた。」
こちらの世界に戻ってきてどのくらい経っただろうか。
正直、借金とルールが加算されたことで頭がパンクしそうだった。
雇い主となればうまくいくのではないかと思った案も、あっさり却下され、マチルダが考えてくれた‟一緒に稼ぐ作戦“もなんだか桜にダメと言われそうで……
どうしたらいいのかと頭を抱えていた時、ふとあることに気がついた。
犬小屋を改良して、人が泊まれる場所にすればいいのではないかと……
「まりか、やどや、はじめりゅ!」
「「「や、宿屋!?」」」
三人の声が重なった。
「お、おい、ちょっと待て。宿屋って、あの犬小屋でか!?」
話を先に切り出したのは他でもない白夜だった。
それもそのはずだ。
この中で、我が家のスキルの中に入れるのは白夜のみ。
と、言うことは現状を知っているのも白夜だけなのだから。
「うにゅ。いまは……いにゅごや、だけど、しょざいあちゅめて、かいじょーしゅれば、りっぱにゃ、やどやにゃる。」
三人にも伝わりやすいように話す。
幼女の舌ったらずな言葉にもだいぶ慣れてきたとはいえ、まだまだ油断はできない。
「た、確かにそうだが……どれだけ時間がかかると思っている。」
「む……わかってりゅも……」
でも、今はそれしか思い浮かばなかった。
頬を少し膨らませると、三人は何も言い返すことができないのか「うっ……」と小さくうなった。
「しょ、しょれに……いぬごや、かいじょーできれば、みないっちょにいれりゅよ。」
そう言って私はトットールとマチルダの腕にギュッとしがみついた。
(家族って言ってくれるくらいだもん、一緒にいてくれる気はあるはず……)
幼女の身体に引きずられているのか、二人と一緒にいることができないのは寂しいと感じるようになっていた。
「はぁ……」
マチルダのため息に、心がざわつく。
すると、大きな手が私の頭の上に置かれた。
「そんなに、怖がらなくても大丈夫よ!さっきもいったでしょ?あなたは私の味方だって。だから安心しなさい。」
マチルダはウインクをした。
「そうだな。俺もお前から離れるつもりはないから安心しろ。」
ぶっきらぼうに頭を撫でるトットールになんだか嬉しくなる。
「ふん、我はどうせお前から離れられんからな。好きにしろ。」
白夜は相変わらずそっけなかったが、反対はしなかった。
「やったぁ!」
思わず両手を上げると、三人が苦笑いを浮かべるのが見えた。
「ただし、宿屋を始めるにはまず素材が必要よ。今の状態じゃ何もできないわ。」
マチルダの言葉に、思わず背筋が伸びた。
「うにゅ……まず、しょざいあちゅめ、がんばりゅ!」
「ふふっ、その意気よ。」
やることは山積みだ。
だが、やることは決まった。
それだけで十分だった。




