借金は自力で稼げ?幼女にそれ言う?
「まりかがいない……」
先ほどまでそこにいた可愛らしい女の子は、ポシェットを手に持ったまま、どこかへと消えていた。
かたん……
「あら、こんな所に石なんかあったかしら」
マチルダが石を手に取る。
手の平に乗るほどの、小さな石だ。
(……一体、どこに消えたんだ……)
石を小窓から捨てようとするマチルダの手を止める。
「マチルダ。それを捨てるな……」
「えっ?でも、ただの石ころよ?」
確かに、ただの石だ。
だが、直感的に捨ててはいけない気がした。
「それでもだ」
スチルとは何なのか――
まりかや白夜から話は聞いていたが、理解できないところが多い。
魔法とは、考え方がまるで違う。
「……はぁ……まりかが心配ね」
マチルダが小さくため息を吐く。
「そうだな……」
マチルダと俺は、小さい頃から一緒にいることが多かった。
そのせいか、手に取るように相手のことがわかる。
「この際だからはっきりしよう。マチルダ、俺はこれからまりかと一緒に暮らそうと思っている。お前は……」
隣を見れば、マチルダの心は既に決まっているようだった。
「……聞くのは野暮だったか」
「そうね。私もその暮らしに参加させて欲しいわ。だって……」
そこで一旦区切ると、マチルダは「ふふっ」と笑った。
「あの子。見てて飽きないし、放っておけないもの」
いつから女として生きるようになったか――
もう覚えてはいないが、こんなに楽しそうに笑うマチルダを見るのは久しぶりな気がする。
「あんたとの冒険も楽しかったけどねぇ~。私が母親になれるなんて、早々ないんだから。あんただけ楽しむのなんて許さないわぁ~!」
「わかったから……痛いからやめてくれ」
バシバシと肩を叩くマチルダの手をどけると、今度は背中をバシンッと叩かれた。
「まっ、あんたと夫婦になる気はないけどね」
「それはこっちのセリフだ!」
冗談じゃない。
俺にだって選ぶ権利くらいある。
そう思っていると――
マチルダが捨てようと思っていた石がカタカタと揺れ始めた。
「えっ……!?ちょ、何よこれ……」
「し、しらん。とりあえずそれを下に置け!」
二人でカタカタと揺れる石を見ていると、石の形がゆっくりとまりかが持っていたポシェットの形に変わっていく。
そして――
ボフンッ!!
という音と一緒に
「わぁぁぁ~!!」
まりかが姿を現した。
「ま、まりか!?」
「とと、まちりゅだ……」
先ほどあった石はどこにもなく、そこにはまりかと、まりかの腰にくっつくようにしてポシェットの白夜が顔を出している。
「ふむ……どうやら戻ってきたようだな。」
白夜の声が部屋の中に静かに響いた。
「おかえり。」
マチルダは急いでまりかに駆け寄るとギュッと抱きしめた。
「ただいま……」
ぽつりと呟いたきり、まりかは何かを考え込むように押し黙った。
「きょうも、きんかじゅうにまい……ひゃ、ひゃくに、にじゅうまんえん……」
戻ってきてからというもの、心ここにあらずといった状態でぶつぶつと小さい声で呟く。
一体何があったというのか。
先ほどから何度かまりかに話しかけるものの、まりかから返事がない。
「どうした?戻ってきてからなんだかまりかの様子がおかしいぞ。」
「本当ね……白夜何か知らないの?」
マチルダも同じように思っていたのか、白夜に視線を向けた。
「ふむ。我も全てを知るわけではないが、何があったのかはおおよそ見当はついている。」
そういうと、まりかの代わりに何があったのかを話し始めた。
***
遡ること数分前――
サイコロの出た目を見てわなわなと震えていると、桜の声がさらに追い打ちをかけた。
《言い忘れたことがありましたので、お伝えさせていただきます。》
「……」
言い忘れたこと?そこで切る時点でいい気がしないのは私だけ!?
頭の中でウゥ~と警報音が鳴り響く。
(絶対聞かない方がいいやつだ)
これ以上負債を負わないためにも、必死に言葉を探すが、口から出た言葉は情けないものだった。
「あ~っと……それはまた……」
耳を塞いで視線をずらす。
が――
時すでに遅し……桜は容赦なく続けた。
《素材はあなたが自分で採取したもの、もしくは購入したものしか受け付けません。勿論お金もです。もらったものは全て受け付けませんのでご注意ください》
……
「えっ……?」
《えっ……?》
(いや、「え……?」じゃねぇ~よ!)
思わず心の中で悪態をつく。
でもこれだけは言わせてほしい……
「こんなりふじんってありにゃの!?」
そもそもこのローンだって元を正せば勇太が勝手に契約した土地のせいだ。
なのになぜ私にばかりローンが加算されるのか……
(あいつ……いつか絶対目に物見せてやるんだから。)
しかし桜はそんな私の言葉など意に介さず、淡々と話を続けた。
《こちらはルールですので必ず守っていただきますようお願いいたします。もし守らなければペナルティーが加算されますのでご注意ください。》
ペナルティーねぇ~……
(絶対ろくなものじゃないわね……)
《もちろんペナルティーは、ローンの加算です。》
「ほら、やっぱりにぇ!?!?」
聞いてもいないのに答えてくれる辺り、桜の容赦のなさが滲み出ている。
白夜は私が誰かと話していることに気付いているようだが、話に入ってこようとはせず、その場でうずくまって寝息を立てていた。
(使えない狐だな……)
《本日も残りあと半日しかありません。金貨十二枚の納品を楽しみにしております。それと……ふふっ……犬小屋からの進化も…》
桜は小ばかにしたように笑うと、そのままプツリと音声を切った。
「ししゅてむのくしぇに、わりゃえりゅんかい!」
しかし――
私の言葉に返事をすることはなかった。




