スキルが使えるようになったら借金が爆増したんですが!?
「なるほど……白夜が狐ねぇ……」
「まりかの付属品じゃなかったのねぇ……」
「な、なんだ!?その目は!お前たち、我に対して失礼だぞ!?」
二人は白夜を覗き込んだ。
その視線に、白夜の動きがわずかに止まる。
「な、なんだ……」
二人の視線に押されたのか、言葉尻がどんどん小さくなっていく。
(ほんと、口だけなんだから……)
そんな白夜に小さくため息を吐くと、私は二人に声をかけた。
「とと。まちりゅだ。」
「なぁに?」
「どうした?」
二人の視線が白夜から私へと向く。
私は指をモジモジさせながら、二人を見つめた。
「ま、まりかの……はなち……ちんじてくれりゅの?」
「うっ……か、かわ……」
「ちょ……トット……まりかちゃんが……」
マチルダはトットールの肩をバシバシと叩きながら、目に涙を浮かべている。
「あぁ……かわいいだろう。俺の娘だ!」
いや……
「むしゅめ、じゃにゃい……」
首をフルフルと横に振る。
先ほどから気になっていたが、ずっと“娘”という言葉が出ていた。
宿に泊まるための方便だと思っていたのだが――
どうやら違ったようだ。
私に否定されたのがショックなのか、トットールは目を大きく見開き、固まった。
「娘じゃない……」とブツブツ囁いている声が聞こえてきた。
(取り敢えず、私の話は信じてくれたってことでいいのかな?)
放心状態になっているトットールは置いておいて、マチルダを見る。
すると小さくうなずいた。
そのうなずきは、出会ってまだ数時間だけど、私の事を信じているという証にも取れた。
(本当……出会えたのがこの人達でよかったわ。)
自分の肩の力がふっと抜ける。
――その瞬間だった。
『毎日ローン返済ができなければ、その金額が上乗せされます。』
上乗せされます……
上乗せされます……
桜の声が頭の中に木霊した。
背中を、嫌な汗がたらりと流れる。
(わ、忘れてた……)
「しょ、しょうだった!!」
テーブルをバンッと叩くと私は勢いよく立ち上がった。
その様子を見て、トットールとマチルダは首を傾げる。
「急にどうした?」
トットールが声をかけてきたが、それどころではない。
なぜなら……ローンがどうなっているのか……
そっちの方が今は大事だからだ。
「お、おかねが……すちる……ちゅかえりゅか……ためちたい……」
私の慌てようが二人にも届いたのか、二人はお互いに視線を合わせて小さくうなずくと、そのまま誰もいない部屋へと私を運んだ。
***
「ここなら人も来ないから、スチルとやらを試すがいい。」
(本当はスキルなんだけど……)
本が沢山置いてある部屋に連れてこられると、私はゆっくり床に降ろされた。
二人の話を聞いてわかったことがある。
この世界には魔法はあるが、スキルという概念はないということだ。
そもそも言葉すら通じていないのか、私の“すちる”はいつの間にか“スチル”で固定されてしまった。
言語が違うはずなのに、普通の会話に困らないことは、“召喚特典”として勝手に納得してたけど……
どうやら、初めて聞く単語は変換されないらしい。
(まぁ、通じるならいいか……)
深く考えても仕方がない。
そもそも、私だって三歳になっているのだ……
見た目だって変わっているし、気にしたところで仕方がないだろう。
「ありがちょ。」
私はペコリと頭を下げると、白夜を手に持った。
「まりかはポシェットを手に持つことができるんだな。」
「やっぱり、白夜はまりかの一部ってことなのねぇ~」
二人は私がスキルを使うのを食い入るように見つめている。
(視線が……)
穴が開きそうな熱視線に耐えるように、白夜のがま口を開いた。
……
しかし、何も起こる気配がない。
三人の間に静寂が落ちた。
「やっぱり……ちゅかえにゃい……」
小さく発したはずの言葉が、やけに大きく響いた。
「失敗か……?」
その時――
がま口の中が急に光ると同時に、吸い込まれる感覚に襲われた。
「まりか!?」
トットールの声が聞こえた気がしたが……
目を開けると――
そこは、桜の木の下にある犬小屋の前だった。
「しぇ、いこう、ちた?」
「どうやらそのようだな。」
「びゃく……とととまちりゅだは?」
辺りを見渡しても、白い狐しかいない。
「どうやら、あの二人は来れないようだな。」
「そうみたい……」
すると、
《遅いお帰りですね。もう帰ってこないのではないかと思っていましたよ。》
桜の木を触ってもいないのに、システムが勝手に話し出した。
「ここ、わたちのいえ。かえってくりゅ。」
《ふっ……そうですか……》
なんだか少し嬉しそうだ。
《と、言われても負ける気はないですけどね。四日分の金貨が納品されておりませんので四十八枚分のローンが加算されております。円に換算すると、四百八十万円です。》
「……よ、よんひゃくぅぅぅ!?!?」
四百八十万円……
と、言うことは金貨一枚十万円ということだ。
(四十八枚って……)
「さいこりょのめ、のさいこうち……」
《はい、最後振った目の数×日数とさせていただきました。》
「だ、だりぇが……そにゃこと……」
決めたの…と声を出そうとすれば……
《ふっ……もちろん私ですが?》
無機質な音声でしかないはずが、どこか楽しそうだ。
(鬼畜だ……鬼畜すぎる……)
このまま行くと、五千万が一気に一億ローンになるのも夢では無い。
しかも三十年で返し切れるのか……
目が遠くなる。
《安心してください。あなたでしたらすぐに返済できますよ。》
(なんの根拠にもなってないんですけど!?)
《商売でもすればいいんです。まっ、犬小屋では何も出来ないですがね……》
「……」
《私は信じてますよ。まりか様のこと。さっ、今日のサイコロを振りましょうか。》
どこから用意したのか手の上には二つのサイコロ。
(えっ……また振るの!?)
《もちろんです。これは日課。言わばデイリーイベントなのですから。》
(そんなイベントいらねーよ!!)
思わず心の中で叫んだ瞬間だった。
そして仕方なく、サイコロを振ると――
「ちゅ、ちゅんでる……」
《十二枚ですね。》
桜の無慈悲な声が頭に響き渡った。
(なんで最大値引くのよぉぉぉ!!)




