フラグは齧るもの
リグレッサと出会って数日経った。
外に出ても安全と明言されたが、リグレッサが来る前と変わらず私たちは家に閉じ籠っていた。
前と違うところは毎日なんらかの手土産を持ってリグレッサがやってくることだろうか?
古馴染みかのように自然と家に入ってきていたって普通に世間話をして帰っていく。
彼女の適応力も目を見張る物があるが彼女を受け入れてしまっているケテルとラティも大概だ。
彼らに言わせてみれば私と一緒にいれば異常なことに慣れるとのことだが…非常に納得できない。
その物言いでは私がトラブルを引き寄せているようではないか。
過去を振り返ればぐうの音も出ない惨状であるので声に出せないが抗議したい。
私は平和に、平穏に過ごしたいのだ。面倒事はノーサンキューである。
「ダウト。」
そう冷めたケテルの声が部屋に響いた。
私たちはトランプゲームの一つのダウトに興じていた。
比較的知名度が高い(と私は思っている)のでわからない方はwikiを参照していただけると非常に助かる。個人的に少し似たボードゲームのブラフの方が好みではあるが十分面白いゲームなので知らなかった人は是非やってみて欲しい。
さて、ダウト(嘘)という名の通り嘘をつきつつ自分の手札をなくすゲームなのだが。
「…くっ…。」
ラティが8と言って裏向きに出したカードはK。
ラティは嘘を言っていた。嘘を言ったラティは場の全てのカードを手札に加えなければいけない。
「さっきから当てすぎなのですよ!なんなのですか、その的中率!イカサマしているのですか!?」
「観察と手札と運の賜物だ。9。上がり。」
「くぅぅ!ブラフ!」
「残念、9だ。」
「にぎぎぎぎ!」
非常に意外なことにケテルはとんでもなくダウトが強かった。
私も得意な方と自負していたが勝率で一歩劣っている。
まだカードゲームに慣れていないリグレッサよりぶっちぎりで弱いのがラティである。
とことんダウトを外し、ダウトと言われれば当たる。
分かりやすいか、と言われればそうでもない…はずなのだがケテルにはモロ分かりらしい。
「ほんまケテルはんはラティはんの事よぅ見てはるなぁ。」
そんな二人を微笑ましそうに見ているリグレッサ。
ポーカーフェイス(というかそもそも人の顔じゃない)の上高い集中力と賢さ、勘の鋭さを持っているのでゲームに慣れさえすれば案外リグレッサが一番強いのではないだろうか。
こうして一緒に遊び続ければそう遠くない未来に起こりそうだ。
「いやいや、おもろいもんやらしてもろうて、ほんまおおきに。」
そう言ってリグレッサはお辞儀してきた。
彼女が人間の顔をしていたら、とてもいい笑顔なのではないだろうかと思える雰囲気だ。
いてこまさんといてよかったわぁ~、とさらりと言うな、怖い。
そんなちょっとなんとも言えない雰囲気になっていると、一匹のバスケットボール程の大きさの蜘蛛がリグレッサの元へやってきた。私達にはキィキィとしか聞こえないがリグレッサにはちゃんとわかるのだろう、真剣な表情で蜘蛛の鳴き声に耳を傾けている。…そういえば蜘蛛パーツあったな、この子。
「……面倒やな。」
ギチギチギチと音を発しながらリグレッサは呟いた。
キィとリグレッサが鳴くと蜘蛛は瞬く間にこの場から去っていった。
リグレッサは伏し目がちに何か考えているようだ。正直角度と状況と偏見でそう思っただけで全く見当違いの事をしているのかもしれないが。
「なにか問題でもあったのか?」
普通に聞きに行ったケテル、お前は勇者だ。
ガンガン行こうぜから命を大事に、に方針転換することを強くお勧めする。
お前の種族で蛮勇は死亡フラグにしかならないよ!
しかしよくやった。褒めて遣わす。
はっとしたようにリグレッサがケテルの方を見た。
複眼がケテルを映している。ケテルもリグレッサを見ている。
…恋が始まりそうなフレーズだな。
そのときだった。
視界にノイズが走った。
何の痛みもなく、視界が、いや五感全てが何者かにジャックされたかのように。
痛みこそないが、そのノイズはなんとも言えない不快感を催す。
その状態が五秒ほど続いた頃だろうか。
ノイズに混じって誰か、少年のような声が聞こえだした。
「……こ、…ねき。」
その声に耳を澄ます。
まごう事なき厄介事だかノイズを聞き続ける苦行よりましだろう。
ノイズが段々クリアになっていくような錯覚を覚える程その声だけに耳を傾ける。
いや、事実そのノイズはクリアになっていた。
「何処?姉貴。」
そう、綺麗な声が聞こえると同時に視界のノイズが消えた。
赤と金で構成された豪奢な部屋に、人間大の人形が立っていた。
いや、あれは人間だ。人形の如き美しさを持った人間。
VRMMOで割と量産されていたから見分けは簡単についた。
見分けがつかなかったら今頃呪いの人形!?とか思っていたかもしれない。
ぼうっと空を見ていた少年(恐らく)が、急にかくんと首を曲げてこちらを見た。
ホラーな動作に思わず後退りそうになった。
「………あ、」
私を見ているような彼はそう吐息のような声を漏らして
可憐に微笑んだ。
そして彼が言葉を紡ごうと口を開けた瞬間、私はまたノイズに包まれていた。
そして次の瞬間に晴れた。
そこには変わらず見つめ合っているケテルとリグレッサがいた。
どうやら私は妙な電波を受信していたようだ。そういうことにしておこう。
「ぃぐっ…!?」
と私が自己完結していたら急にケテルが頭を抱えた。
「初めはきついやろうけど要は慣れや。便利やし多用するから慣れて損はあらへんで?」
そんなケテルにアドバイスするリグレッサ。
え?私がいない間になにがあったの?
「え、と。何やっていたのですか?」
よかったラティもわかっていないらしい。
本当に目と目が合って何かやっていたのか?
「うちの一族は目を合わせた相手に情報を送ることが出来るんや。並の人間やエネミーやと発狂してまうけどドラゴンのケテルはんならイケるから今回の情報を送らせてもろうたわ。時間あんまあらへんからこんな説明で勘忍な。あとはケテルはんに聞いといて。」
そういってリグレッサはカサカサと去っていった。
……本当に目と目を合わせて何かやってたのか。
あとさらっと発狂するとか言わなかったか?確かに種族こそドラゴンだけどもケテル見た目とかスペックとか結構人間だぞ?いや、筋力かなりあるけど。
「……大丈夫ですか、馬鹿蜥蜴。」
未だに頭を抱えて唸っているケテルにそうラティは話しかけた。
ラティの貴重なデレシーン(toケテル)である。
「……大丈夫じゃ、ない。」
本当に辛そうなケテルも、いつもの喧嘩腰はなりを潜めて弱弱しく呟く。
実に私が蚊帳の外である。真にけしからんもっとやれ。わが家は不純異種族交友推奨してます。
恋愛はくっついたらうざいけど、くっ付くまでをニヤニヤして見るのが楽しいと思うんだ。
そしてフラグをぶち壊すのも大好きだ。
「大丈夫ですか?ケテル。」
颯爽と二人の空間に突入して回復魔法使用。
治るか治らないかは重要ではない。そのなんかふわっとしたちょっぴりいい雰囲気をぶち壊す。
不純異種族交友は認める、だがいつ邪魔しないと言った?(下種顔)
「あ、あぁ…大分よくなったと思う。ありがとう、サヨ。」
ニコニコと笑うケテル。
だが気付いているか?先ほどまで心配そうに見ていたラティが険を含んだ目つきになっていることを!
かつて偉い人は言った。
リア充爆発しろ、と。
「…いつまでお姉様にくっ付いているのですか、このエロ蜥蜴。」
「あ゛?」
そしてまた喧嘩勃発である。
うむ、今日も仲が宜しいようで私はうれしい。
……む?何か忘れているような…気のせいか。




