人はただの木材から齧り付いてきそうなナニカを作れる
「………。」
蟲倉に着てからどれぐらい経っただろうか。
(A.約1ヶ月)
適当にトランプを作ってみたりしなかったら暇過ぎて流血沙汰が起きていたかもしれない。ナイス私。
ラティとケテルは仲良く(?)スピードをしている。
反射神経はケテルの方が上だが、物理的早さはラティの方が上。なかなかいい勝負をしている。
ケテルの方が飲み込みが早かったから勝ち越しているが、ラティも差を詰めるべく鬼神のような気迫で挑んでいる。
本気で遊んでいる彼らを生暖かい目で見守る。
実はこのトランプ、大工スキルの練習でたまたま出来た産物で、本当は薄いかつ固いをコンセプトにした板を作ろうとした失敗作である。
我が家要塞化計画に必要なので練習していたのだが
やはり中々上手くいかない。
この調子では 8.8cmFlaKどころか
機関銃姉貴も搭載するのに何年かかるやら。
もういっそのこと全部精霊に頼めばいいんじゃね?
という考えが頭の片隅にあったが
やはり自分の城は自分で完成させたいというのが乙女心。
…とはいっても妥協しないとやっていけないレベルだから出来るだけ自分で作って後は丸投げ予定。
兎に角我が家要塞化計画は千里の道のようだ。
一歩一歩こつこつ堅実に気長にやろう。
取り敢えず外壁の素材は決まらないから罠について考えておこう。緑の悪魔(匠)と呼ばれた私の罠のレシピは∞だ!(誇張表現)
「…そういえばお姉様、前家を新しくしたいと仰っていたと思うのですが…今でも考えていますか?」
ラティがカードを弄びながら聞いてきた。
まぁ隠すことでもないし、とそれに首肯する。
するとラティが目を輝かせてこちらへ向かってきた。
「ワタクシ、拙いながら物作りが趣味なのです!宜しければお手伝いさせて欲しいのですが…。」
そう言いながらこちらを伺ってくる。
…ほむ。
手伝ってくれるというのは有難いけど一体どれほどの腕なのだろうか?
ちょっと何か作ってもらおうかな。
「お、お姉様…。」
えへへと可愛く笑うラティ。
思いっきり顔を引き攣らせているケテル。
そして私は目の前の物をきっと死んだ魚のような目で見ているだろう。
私の目の前のそれ、ラティの物作りの産物は…
得体のしれない物体Dであった。
ちなみにDはダークマターのDである。でも今は、そんな事はどうでもいいんだ。重要な事じゃない。
料理でダークマターを作る人間は…現実でも時々いる。
科学の実験で細菌兵器とかそういうレベルじゃねぇものを作る人間もいる。
しかし物作りでダークマターを作ってしまう人間は初めて見た。
むしろあの材料で何故こんなものを作れるのか小一時間問い詰めたい。
直視したくないそれにちらりと視線を向ける。
材料はエネミードロップではない木材で、普通に茶色だったのに…
どうしてビビットピンクとかパステルグリーンとかよくわからない色になっているのだろうか?
ドドメ色のキャンパスの上から適当に手に取った油絵具で前衛的に塗りたくった、みたいな。
色を染めるような材料は一切渡していないし、変色するような物は渡していない。
実際に私もこれでいくつか作ったことがあるからまずこんな色にはならなかった。
木材というから勿論四角柱であったフォルムも歪な増殖する細胞みたいな形をしている。
そして根本らしきところには捕食するナニカのような見事な歯並びの口。
彫ったのだったらその腕には驚嘆するが、本人談彫っていないとのこと。
そして材料全部フルに使ったとのことだが…明らかにサイズが二回りほど減っているのだが。
触った感触はサラサラしたものからしっとりした物になっていた。
いや、もうここまできたらぶっちゃけてしまおう。しっとりとかそんなチャチなものじゃないブヨリとした感触。湿って、ざらりとして、ぶよりとする柔らかさ。
本人談塗料は愚か渡した材料以外使っていないとのこと。
何をしたらこんなよくわからない物ができるというのだ?
…私は確かに好きに作ってみて、とは言ったけれどこんなもの作れとは言っていない。
何故だろう、なんとも言えない威圧感をそこはかとなく感じる。
私が見ているはずなのに、見られているような…肌が粟立つ感じ。
今にもあの口が齧り付いてきそうな…。
明らかに命吹き込まれているよこれ。生きているダークマター?嫌すぎる!
「えーっと…ちょっと失敗してしまいました。」
反省はしているようだが自分があまりにもアレなものを作った自覚はないようだ。
そんなラティをケテルが未確認生命物体を見るかのような目で見ている。
ちょっとラティから距離を取ったように見えるのも恐らく気のせいではないだろう。
というかちょっとでこんなものを作りだすとしたら大失敗したらどうなるのか。…考えないでおこう。
兎も角ラティに何かを作らせるというのは自殺行為だとわかった。
「うん。私一人で十分だから、作業中ラティはケテルと遊んでいてね。」
え、とぎょっとした目で私を見てくるケテル。
いや、最近二人なんか仲良いからそれでいいかと思ったんだけど何故にそんなに心外そう?
ケテルは私とラティの顔を何度も交互に見る。偶にちらりと足元のダークマターも見る。
そして最後に私を凝視する。心なしか涙目のような気がする。
微笑んで見返してやる。大丈夫だよ、ダークマター作った本人は普通の人間だよ。
多分。
「た、体調が優れないから部屋で休む!」
ケテルはそう言って後ずさりする。
……別に建設作業今するとは一言も言ってないんだけどなぁ。
むしろここから出るまで本格的にやる予定はこれっぽっちもない。
そしてあんなダークマターを作った本人は普通の人間である。大事なことなので二回言った。
まぁ強いて追い討ちの言葉をかけるとするなら。
「ケテル、知ってるか?ハンターからは に げ ら れ な い。」
「やめて!?」
お前がドラゴンである限りドラゴンハンターのラティからは逃げられないのだ!
…とかそんなことはたぶんないけどね。
ケテルがラティを見る目が…いやもう見ようとすらしていない。
怖がっているというか「関わりたくない」って雰囲気だからじきになんとかなるだろう。
共同生活している以上折り合いをつけてくれると私は信じているよ!
ついにドアに辿り着いたケテルは素早くドアを開けて隙間に体を滑り込ませてスピーディーに退出した。
無駄のない退出に素晴らしいと感心するが何も可笑しくないな。
「……なんなのでしょう、あの爬虫類の反応。」
ジト目でそんなケテルを見送ったラティの心外そうな言葉に生温い笑顔で返す。
たぶんいつも喧嘩している相手がよくわからん物作って得体のしれない人間になったみたいで混乱しているんじゃないかな。私が現在進行形でそうだから。
「お姉様、今回はちょっと失敗しただけなのですよ!ワタクシ役に立ちますよ!」
必死に言ってくるラティに悪いが本当にお手伝いはいらないかな、って思った。
やっぱり家造りは一人でやるべきだね。
「うん、でもやっぱり一人で大丈夫かなって。罠設置とかむしろ一人じゃないと危険だし。」
言い募るラティに言う。
本心だよ。嘘は言ってないよ。ラティに任せたら家が倒壊するとか思ってないよ。
いや、倒壊じゃなくてもしかしたらダンジョン化するかな?とも思ってないよ。
スキルもあるから一人で作るのもそう苦じゃないし本当手伝いは無用だよ。
さっき手伝いは有難いと思ったのは気の迷いだよ。
「お姉様!?ワタクシと目を合わせてくれませんか!?どうして視線を逸らすのですか!?」
HAHAHAなんのことかな。
嘘をつく人は右斜め上に視線を逸らすって言うけどほら私は左下見てるし。
目を合わせて話すのは私コミュ障なんですから無理なんです。
別に焦ってもないし、そもそも隠したいやましい思いも嘘もついてないし。
「お姉様?ワタクシが悪かったですからこっち向いてください!」
大丈夫大丈夫、私超大丈夫よ。
ああ、でもちょっと…。
「私もちょっと体調悪いから…。」
「お姉様ぁぁぁぁぁ!?」
私、この課題を終わらせたら
新しいキャラを出すんだ…。




