齧る敵の大きさは?
前回のあらすじ!
修羅場。
…いや今も続いているんだけどね、修羅場。
すごく胃が痛いです。
「まぁ、なんだ…強く生きろ?」
表情はわからないが本気で同情しているようなザインの言葉がつらい。引きこもりたくなる。胃が痛い。
お茶用意するねと言って止められる前に素早くその場から離脱するか?いや、茶なんてものはうちに存在していないけども。まぁ試みが成功したとしても何も解決しないのだから時間経過で状況が悪化するだけなので止めておこう。
しかしならばどうしようか。
「…サヨと同居させて貰っている、ケテルだ。そしてこいつは同じく最近住むことになったラティーシャ。…んで、君は誰?何しにきたの?」
馬鹿男、あんたは女神だ。間違えた神だ。
これでなんとかこれ以上雰囲気を悪化させずに話を進めることがてきる!…はず。たぶんきっと。
勿論馬鹿男の問いかけにアンジュは笑顔で答える。
「アンネージュ・フィリ・ルミアです。サヨさんとは一度パーティーを組ませてもらいドラゴンの討伐をしたことがあります。その時サヨさんが私の運命の方とわかったのでこうして準備が整った今、迎えにきた次第です。」
爆弾ぶっこんできたよこの子。
場の空気が一瞬で氷河期突入したよ!
ラティなんか臨戦態勢だし、馬鹿男は剣呑な顔付きになるし、中二男は未だ気絶してるし、ザインは…表情がいまいち今一は反応がわからない。
気になることだらけの発言だけど一番気になったのは
迎えにきたってどういうことなの!?
「アンジュ、迎えにとはどういうことですか?」
平静を装って問い掛ける。
まさか私を陰謀渦巻く貴族社会に巻き込むつもりではないだろうな?やめてくれ、そんな死亡フラグ。
一般庶民の私には社交界に蔓延る化け狸共と戦う力なんてないぞ。にこにこ笑ってるだけなら出来るかもしれないが。教養?マナー?知らぬ存ぜぬ纏めて心底どうでもいい。
なので貴族社会へのご招待なら断固拒否の姿勢でいく。
「言葉通りの意味です。」
にこりと笑って彼女は言う。
「鳥籠を用意しました。
貴女を害す全てから守ります。
貴女の平穏を約束します。
貴女が望みに全力で答えましょう。」
場所という言葉が鳥籠と聞こえた気がするのは私だけではないだろう。歌うように告げるアンジュちちょっと…いや、大分恐ろしい。
具体的にいうと貞操の危機を感じる。
「だから、サヨさん。」
ー私と一緒に来て下さいませんか?
しばし沈黙が続いた。
いや、付いていく気は欠片もないが断るにはアンジュの気迫というか雰囲気が怖くて出来ない。
ヤンデレ程恐ろしいものはないよね。
一歩間違えたらデッドエンドだと私の勘が言っている。
「さて。」
沈黙を破ったのは沈黙を作った原因であるアンジュ。
彼女はにこりと笑って私の足元の奴を見た。
私も忘れかけていたがそこには気絶している中二男がいる。
「そこの危険人物を始末しておきましょうか。」
…始末?
まさか殺す、ということか?
いやいやいや確かにこいつには多大な迷惑を掛けられたが命を取るというのは…うーん。
しかしなんか周りの雰囲気は異存なし、むしろ超肯定的なような。
止めておこうよ、なんかこいつバックにヤバい奴いるらしいし。
ちらりとザインの方を見る。
「まぁ、なんだ。ここで死んだらその程度ってことだろ。」
人事のようにのたまいましたよ、この野郎!
しかし殺人はあまりよろしくない、なんとか止めたいところだ。
…まぁ、そんな必要はなかった訳だが。
本能的に忌避する音が鳴り響いた。
文字には起こせそうもない、ただただ気持ちが悪い音。
高い?低い?それすらもわからない。
…いや、脳が理解することを止めている。
耳を塞いでも聞こえるその音に耐えていたら…それが姿を現した。
世界の一部が何かに侵食されているように、全く別のものになっている。完成された絵画に絵の具をぶちまけたような、いやその上から絵を描き始めたような、そんな背景からそれは出てきた。
水から出てくるように、滑らかに出てきた腕は白く。
次いで出てきた顔は人形のように美しく。
一糸纏わぬその上半身は子供体型も合わさって決して卑猥でない。
さらりと流れ落ちた髪は銀糸のようで、これまた美しい。
其処まで出たら、何かに止められたようにそれ以上出なくなった。
そしてその見た目少女は目を開く。綺麗な赤い瞳。
陳腐な表現だが、まさしく神の最高傑作といえる美しい少女。
彼女を見た私の第一印象は…
(うわ、中二。)
と、ロマンもなにもないものであった。
まぁ中二男のバックだから中二してるとは思ったけども想像以上の中二力に私は驚きを隠せないよ。
音は小さくなったとはいえ未だ鳴り響いていて、恐らくこの少女ここの場に存在する限り続くんじゃ?と思うと気が滅入る。
「そこまで無理するなんて余程それのことが気に入っているんだな?■■■。」
そんな音の中、飄々としたザインの声が聞こえた。
ちらりとそちらを見れば平然としていてまるで音が聞こえていないかのように見える。
ついでにと周囲を見れば誰も彼も苦悶の表情をして頭を支えるなりなんなりしているので少なくともこの音が私だけに聞こえている、という訳ではないようだ。
ところでザインが最後に言った言葉は何だろう?
もしかして少女への呼びかけ?
ノイズが走ったような音がしてよく聞こえなかった。
「…うるさいわね、■■。お遊びがすぎるなら私にも考えがあるよ?」
ギロリとザインを睨んで口を開いた少女から出た鈴のような声がモロ好みであった。
…私の好みは置いておくとして、少女の意外と普通の言葉(中二ではなかった)とザインとの軽いやり取りに驚く。お前ら仲良いな?
「はっ、何すると言うんだ?」
「恥ずかしい格好で皆の前で盆踊り。」
「止めてくれ。」
「なら耐久麻雀私が飽きるまで。」
「止めてくれ。」
…お前ら仲良いな(確信)。
学生のやり取りみたいで微笑ましい。
微笑ましい、が。
そいつ、私の記憶が正しいなら敵だよね?
「やることやってさっさと帰れ。いい加減音が鬱陶しい。お前の目当てはどうせこれだろう。」
そう言ってザインは中二男を少女に差し出した。
いや、待て待てそれ敵、私の敵!復讐目標!
そしてその少女はその保護者か何かでしょう!?
渡しちゃ駄目だよ!
「邪魔しないんだ?」
確認するように聞くその声に驚きは含まれていない。
もしかしてザインは少女側の人間?
「邪魔したら殺すんだろ?」
抵抗するだけ無駄だ。
溜め息をつきつつ言ったその言葉の意味を考える。
私達(一般人)<中二男<<<越えられない壁<<<ザイン<<少女
…みたいな?
え、それ勝てる見込みなくない?
「物分かりが良くて宜しい。じゃ、私帰るね。」
中二男を抱えて少女は背景に消えていく。
そして耳障りな音が小さくなるにつれて侵食していた背景は消えていき、やがて出現前と何も変わらない状況に戻った。中二男を除いて。
「あれが、背後?」
前に言ってた。
そうザインに訊ねれば、陽炎は頷いた。
「ああ。あいつは俺達を虫螻のように潰せる力を持っているからな。抵抗しない方がいい。」
…ん?ちょっと待て。
俺達?つまり、ザインもあの少女にとって雑魚?
「え、と。ザインとあの人、どちらが強いのですか?」
恐る恐る聞いてみる。どうかこの予想が外れていますように!いやいやそんな…ザインより強いとか
「あいつと俺じゃ勝負にもならないさ。本気でやり合ったら俺なんか痕跡もなくなってるだろう。」
……パワーインフレ過ぎるだろ!?
あけましておめでとうございます!
今年もよろしゅうお願いします




