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そして私は今日もドラゴンの心臓を齧る  作者: ヨハン@小熊
ep2:第二章(タイトル未定)
31/50

新天地でもドラゴンの心臓は齧る

知らない土地、知らないエネミー。

こういうことを何というのだっただろうか。嗚呼そうか。

振り出しに戻るという奴か。

「ケテル、さっさと強くなってあいつを倒しに行きましょう。自分の仕出かした事の重大さを思い知れば良いのです。」

思わず黒い笑みが浮かぶ。いつかと言わず、今すぐ殴りに行きたい、あのお綺麗な顔が見るに耐えないものになるまで殴ってやるのに。

苛立つ私を前にどうすればいいか分からないのか挙動不審になるモブオブザモブを見ているとほっこりした。馬鹿男よ、お前はずっとそのままでいろよ…。

「サヨ、ここは水中メインのエネミーが多い。引きずり込まれたら厄介だから水際によらない方がいい。」

水中!?何それ面白そう!

やはり泳ぐ系スキルが手に入ったりするのかな、あとは釣りとか?わわ、凄く楽しみだ!ここのドラゴン早く見つけよう、そしてスキルゲットだ!

…しかし水中エネミーはどうやって倒せばいいんだ?水中から引きずり出すか、水中で戦うか…後者は死亡フラグだからやめるとしてやはり何らかの手段は必要だろう。

「慎重に行きましょうか。」

水際に気をつけていれば大方大丈夫だろう。イカみたいな触手に捕まるとかなければ問題ない。…馬鹿男が捕まりそうで心配だ。


心配は杞憂であった。

このエリアのエネミーはどうやら雑魚らしい。

さくさくエネミーを倒す私に何故か馬鹿男は(´・ω・`)という顔をしていたが、馬鹿男でもあっさり倒せる程度のエネミーである。とてもじゃないが、今の私どころか馬鹿男のレベリングに全く適していないレベルエリアだろう。ダンジョンの難易度にもよるが、次忠告男が現れた時に拠点の変更を頼むことになるかもしれない。

「…サヨは、強いな。」

しみじみと、何だか気落ちした様子で馬鹿男が言ってくる。おそらく自分と比較しているのではないだろうか?確かに女より弱いというのは屈辱かもしれないが、仕方ないことだろう。というか最近までパンピーだった奴に負けたら私はゲームパッドを折るよ、廃課金するよ。何より、だ。

「この程度、まだまだです。あの男には全く届かない、まだあの領域まで遠い…。私は、弱い。」

ちょっと力があるからと慢心していたが、まだまだ私は弱い。まずはあの中二野郎、そしていつか運営かみにさえ挑んでやる!限界は投げ捨てるものだ。

「強くなりましょう、私達ならなれる。」

あの男に言われなくても、だ。

握り拳を作って宣言すれば、馬鹿男は苦笑した。何がおかしいというのか、1800文字以内で説明してほしいものだ。私達は強くなる、絶対に。そしてあの男、そして神ですら打ち倒してみせるのだ!

「あぁ、俺達なら強くなれる。一緒に頑張ろう。」

そう言って、馬鹿男はこちらの握り拳に自分の握り拳をこつんとぶつけた。本当に嬉しそうにそう言うものだからついこちらも嬉しくなる。声を出して小さく笑えば、馬鹿男も釣られたのか笑い出して二人でしばらく笑うことになった。…青春してるな、私。

「あ、ドラゴン!」

ヒャッハー、心臓寄越せー!

「…(´・ω・`)」


心臓ゲット!

「今日のご飯~♪」

どんなスキルが手に入るんだろう。すごくわくわくするなぁ。…アバターアイテム?何それ興味ない。ちなみに遭遇したドラゴンはミニ青龍みたいな奴だった。可愛かった。

「……あ、サヨそこ水面にちか、」

馬鹿男が何か言いかけた時。

ざぱぁっと水面から何かが現れて私に襲いかかってきて…

「ぜぃあ!」

一太刀で死んだ。所詮雑魚である。

不意打ちならせめてもうすぐ隠密にするべきだし、水中が得意なら引きずり込んで自分の領域に持っていくべきだろう。甘い、そんな攻撃でこの私の命を取れると思うなよ。

「………サヨは、つよいな。」

先刻言ったときより些か死んだ目で馬鹿男が言ってくる。どうしたのだろうか?疲れてきているのだろうか、そろそろ家に戻るべきか。めぼしい果実類は見つかっていないが、心臓があるし今までの貯蓄があるからなんとかなるだろう。

「そろそろ帰りますか。」

死んだ魚のような目をした馬鹿男を引き摺るようにして帰路につく。さてさて、どんなスキルが手に入るかな~楽しみだ!

「なぁ、サヨ…。」

俯いた馬鹿男がぼそりと言う。

死んだ目の人間が言うことは大体ろくでもないことだが一応聞くだけ聞いてみようと耳を傾ける。悩み事か?愚痴か?なんでもいい、ばっちこい。

「俺って役立たずだよなぁ…。」

何を言っているんだ、この馬鹿は。

「ケテルのどこが役に立たないというのですか?」

全国の役立たずに爪の垢をぜんじるどころかそのまま飲ませたいよ、自宅警備員ニートとか廃神はいじんとかに。冗談はさておき一体何故そんなことを言い出したのだろうか、私には皆目見当がつかないのだが。

「俺は、弱い。弱すぎて守られてばかりで…凄く情けない。俺がもっと強かったら…精霊ぐらい強かったら、サヨを守れるのに。」

何を言っているんだ、この馬鹿は。(二回目)

というかあの忠告男はいくら強かろうが全く…殆ど役に立っていないぞ。いや、風呂とか移動とか色々役に立っていたか、そういえば。天の邪鬼で疑問だけ残していく変人のイメージしかなかった。

しかし、何故こんなに落ち込んでいるのか。

強くなろう、とつい先ほど誓い合ったばかりで何故弱いということで落ち込むのか。弱くてもいいじゃないか、これから強くなるのだから。と言えば済むような雰囲気ではないような。困ったな。

「私は…。」

何と言えばいいのか。どうしてこんなに落ち込んでいるのかさっぱりわからないからどう声をかければいいか全くわからない。なんで役立たずと自嘲するのか、そう思った経緯も予想がつかない。こういうときは素直に言えとばっちゃが言っていた気がする。

「私にとっては、あの得体の知れない精霊よりもケテルの方がずっと頼りになるし、助けられています。」

きっぱりと言ってやる。これでまだうにゃうにゃ言うようであれば竜巻旋風脚食らわしてやる。今なら出来る気がするんだ。

じぃーっとこっちを捨て犬の如き目で見てくる馬鹿男。堂々と見返す私。しばらく見つめ合う。

すっと馬鹿男が目をそらした。勝った!

「あ、ありがとう。変なこと言ってごめん。」

分かってくれたようで何よりだ。最も分かるまで肉体言語を使う予定もあったから物わかりがよくて助かった。格闘家ではないから素手の攻撃は手加減できないし、威力低いし、当たらないしの三重苦だからな。

なら本職さむらいで殴れ?それだとうっかりさぱっと斬ってしまったら危険だからな…。まぁそれは置いておくとして。

「では、帰りますよ。」

空が赤く染まっている。帰宅の時間だ。


「うーむむむ。」

心臓を食べたことで新しいスキルは手に入った。

手に入ったのだが…

「どうした、まずかった?」

いや、普通に美味しいけども。そうではなくてだな、スキルがだな、すごく微妙なんだ。

具体的に言うと水中呼吸というパッシブスキル。水中でも呼吸できるという名前通りのスキルなのだが一見使えそうに見えて酷いデメリットがある。…武器が持てないのだ。さらに魔法やスキルの詠唱も不可能である。水中で呼吸出来る代わりに武器使用不可とか本当どういうことなの。何のためのスキルなの、水中で戦う為じゃないの?

「やっぱり下手なものよりケテルの方が何倍もいいわ…。」

ストライカーみたいな感じで便r…使えr…頼りになるよね。こんな糞スキル、趣味かネタか…格闘家ぐらいしか使いこなせないだろう、戦闘で使おうとしたら。一方馬鹿男は馬鹿っぷりで和むし、たまに役に立つ精霊オプションが付いているし、最近戦闘面でも頼りになるし…おや、馬鹿男、結構頼りになる男だな、もしかしなくても。

「い、いきなりなんだよ。」

照れたように顔を赤くして言う。…和むなぁ。

馬鹿男って本当犬みたいで癒される、アニマルセラピーっていうのかな?ニコニコ見ていたらそっぽ向かれた。解せぬ。こうなったらニコニコ見続けてみよう、にぱー。ずっと笑いかけられているとすごく照れるよね。さて、馬鹿男はどんな反応をするやら。

……………。

「お、俺部屋に帰る!」

ご飯途中なのに逃亡を計る馬鹿男。愚かなり!

私がこんなおもしr…惜しいことを見逃すわけがないだろう、ふはは。がっしり腕をひっ捕まえてにっこりと笑いかけて言う。

「お残しは、許しませんよ?」

馬鹿男は真っ赤な顔でその場に崩れ落ちた。少し遊び過ぎたかもしれない。

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