久しぶりに店で齧る
トラップと聞けば何を思い浮かべるだろう。
その答えは人それぞれであるだろうが、それだけ多彩なトラップが世の中には存在しているということだ。実際私の家は地上部分は即死トラップを豊富に設置してある。
ダンジョンゲームなどではシーフやレンジャーなどトラップ探知能力がある職が必須と言われる訳の一つだ。ダンジョンものにおいてトラップによる死亡率はおよそ45%(適当)。敢えて突っ込むことで罠を味方に知らせる変人が極稀にいるが希少例なので外すとして基本トラップに注意してダンジョンに挑むのは当然のことである。
ドラかじでも勿論即死とまではいかないトラップが多数存在しており、ソロの私はトラップがありそうな所には極力近寄らないようにしている。宝箱は絶対開けるが。
まぁ、長々と話したが要するに宝箱開けてテレポート系のトラップにかかった。いしのなかにいる、みたいな事態にならないで良かったとは思うが現在の状況もあまり宜しくはない。
「さ、さささささささよっ…。」
マナーモード並にガタガタ震える馬鹿男を宥めつつ途方に暮れる。そんな私達を行き交う人々はあまり気にもとめず歩いていく。
…うん。そう、私達はあろうことか見知らぬ街中に飛ばされてしまったのである。なんてこったい。
幸いにも着地地点が薄暗い路地裏だったおかげで大騒ぎにはならなかったが、こちらにはドラゴンという最大の爆弾を抱えている。いつ起爆してもおかしくない。
「あわわわわ…。」
爆弾は発狂を疑うレベルでパニックを起こして役立たず状態なので私がなんとか解決策を見つけるべきだろう。しかしどうしたものか。
ここがどこかさっぱりわからないから下手に動けないし、動かなければどうにもならない。実に困った。馬鹿男は隠して私だけで情報収集することも考えたが、こんな状態の馬鹿男を置いていったら何をしでかすか分からないから断念。
「困りましたね…。」
こういう時に精霊が出てくればいいのだが…影も形もない。本当に役に立たない男だ。しかしどうしようか。仕方ないから馬鹿男を連れて情報収集しかないな。そう決めた時だった。
「あァ?あんた…久しぶりだなァ。」
このガラの悪い口調、顔面凶器系イケメン…こいつは確か!
誰だっけ。
なんか見たことある気がするが、誰だっただろうか。
「あなたは…。」
とりあえずわかった振りをしておこう。
うーん、誰だろう。この世界に来てからの知り合いだと思うのだが…さっぱり思い当たらないな。
顔をしばらく見ていれば思い出すだろうか。しかしイケメンの顔眺めていると目が孕むってばっちゃが言っていたからあまり見つめたくないな。さっさと思い出そう…うん、わからない。
「んァ?そいつ、お連れさんか?」
後ろの馬鹿男に気付いて顔面凶器はジロジロ見る。その目が一瞬瞠目して剣呑な光を宿したのを私は見逃さなかった。もしかして、馬鹿男がドラゴンとばれたか?だとしたら早急にこの場から離れないといけないが。馬鹿男は未だにマナーモードだ。いっそのこと電源を切ってやろうか。
「まァ、訳ありなのはお互い様だ。そう警戒しなさんな。」
こちらのそんな警戒を読み取ってか、ケラケラ笑いながらそう言う男の台詞でようやくこの男が誰だったか思い出した。最初の町のアングラ飴男だ。ということはここは最初の町なのか?それだと結構困ったことになるのだが…。聖女ちゃんとか、中二男とか。どっちと会っても私の死亡フラグである。
「……めんどいな。」
全然警戒を解かない私に困ったような顔で溜息をつく所までイケメンである。爆発しろ。
まぁイケメンだから警戒しているという訳ではなく、中二男の一件からそう易々と人を信用し難い上顔面凶器なアングラ様は少々、いやかなり警戒を怠れないのだ。イケメン=災厄というイメージを持っているのは否めないが。
「…飴舐めるか?」
そんな餌に私が釣られると思ったか?
嘗めないでいただきたい。私は飴で釣られるような安い女ではないのだ。
「旨い飯屋が近くにあるし、奢ってやるよ。」
「ケテル、さっさと正気に戻りなさい。ご飯食べに行きますよ。ほら、落ち着きなさい。」
ご飯うまー(゜Д゜)
やはり人はご飯がなくては生きていけないよね、私今すごく幸せだな。お米買って帰ろうかな。
お金は多分適当に何か売れば出来るだろうし。
「…ちゃんと飯喰ってんのか?」
がっつきすぎただろうか、不憫な子を見るような目で私を見てくる。いや、ちゃんと食べてますよ?ただこうして普通の、お店で食べるのが久しぶりでちょっとテンション上がっているだけです。
「…というかあんた誰だよ。」
ぶすっとした顔でパンケーキをフォークでつつく馬鹿男は今更な質問を投げた。そういえば私もこいつの名前、知らない。
というか私もこいつに名乗ってないはずだからお互い名前知らないんじゃないだろうか。自己紹介するべきだろうか。
「アイトスだ。至って普通の一般人だ。」
逸般人の間違いではないか?
しかし、そうしれっと言ってサンドイッチをもきゅもきゅと食べる姿は確かに一般人に見えなくもない。なんかそこはかとなく和むというか可愛いような。
これがギャップ萌えというのだろうか。
「…ケテル。サヨの…同居人だ。」
むすっとした顔で穴だらけになったパンケーキをまだつつきつつそう馬鹿男は言った。食べ物で遊ぶなとあれほど(ry)。
パンケーキを凝視していたら、ようやく馬鹿男もパンケーキの惨状に気付いたらしくすごく情けない顔をしてしょげた。自業自得だ。
「紗世です。よろしくお願いしますね。」
にっこり笑ってそう言うが、一方はサンドイッチに夢中、もう一方はパンケーキをしょんぼりして見つめている。
刀で切りつけてやろうか、ああん?と思ったが私は大人なので気にしない。切なそうな目でこっちを見てくる馬鹿男の視線も気にしない。
「…んむ、ここのサンドイッチは少し野菜が少なくてパンの部分が湿っていてあまり良くないな。」
これが目を輝かせてそのサンドイッチを貪り喰っていた男の口から出てきた台詞である。どんだけサンドイッチが好きなんだよ!と突っ込みたくなる。
そして馬鹿男は穴だらけのパンケーキを食べている。
穴だらけなだけで味に支障はないから普通に美味しそうに食べている。
「…で、だ。直球に聞くが、なんであんたはドラゴンを街に連れ込んでいるんだァ?」
世間話をするかのような気安さで飴男はぶっこんできた。
思わず飲んでいた水を吹き出しそうになった。
馬鹿男はパンケーキを食べることに夢中だ。こいつは本当狙われる身の割りに無防備過ぎではないだろうか。
「あァ、ちゃんと他には聞こえないように細工してあるから気にすんな。」
いや、気にするだろう普通。
ほかに聞こえないように、って魔法でも使っているのか?呪文とかは一切聞こえなかったが。
そもそもなんで馬鹿男がドラゴンと気付いたんだ?やはりそういうスキルをこの世界の人間は持ち合わせているのか?
「………。お連れさん、マイペースだな。」
警戒する私をよそに、緊急事態に気付かずパンケーキを食べ続ける馬鹿男を見て飴男はぽつりと言った。
心底同意する。しかしマイペースというよりそもそも気付いてすらいないから、どちらかというと鈍感と言う方が適切だと思う。
「なんか警戒した俺の方が馬鹿らしいぜ。」
苦笑する飴男はドラゴンを狩るというより、ドラゴンが街に害を加えるのでは?と考えていたらしい。
油断は出来ないが、表面上こちらが何かしない限り攻撃などするつもりはないようだ。
「理由が特にないなら、今の内にそいつを外に連れて行った方がいい。明日にはドラゴンハンターが街に来る。」
真剣にそう忠告してくる飴男の心の内を知る術はないし、信用できるほど長い付き合いもない。
ドラゴンハンターが何かは分からないが、外に出るように誘導して罠を仕掛けている可能性もなくはない。
「忠告、ありがとうございます。」
しかしその言葉、信じてみよう。
ご飯奢ってくれたし。
「…そういえば、『堕ちた聖人』と『聖女』があんたらしい人間について嗅ぎ回ったりしているぞ。気を付けておけ。」
そう思いっきり気になる言葉を残して飴男は消えた。
文字通り、まるで初めからそこにいなかったかのように忽然と姿を消したのだ。飴男の席には空の皿と代金らしい貨幣のような物が置いてあり、それだけがあの男が存在した証拠だった。
「…ふぅ。あれ?あの男は?」
パンケーキを食べ終わり、今更そう言ってくる馬鹿男を残念なものを見るような目で見てから、帰りましたと言ってその貨幣のような物を手に取る。
この世界ではイケメンは謎を残して消えなければならない、みたいな法則があるのだうか?
手にした貨幣は冷たかった。
結果から言えば、街は新しい拠点近くの街だったらしく、家に帰ることが出来た。罠はなかった。
謎ばかり増えていくが、この謎が解明される日は来るのだろうか…。正直どうでもいい。




