*一緒に齧る喜びを
怯え、隠れ、逃げるだけの日々だった。
ヒュムドラゴンという弱く、人間に狩られる為に生まれたと言っても過言ではないドラゴン。それが俺達の一族だった。
一時の安住の地を見つけても、すぐにハンターに見つかって命からがら逃げ延びる。まだ、父も母も、他にも一緒に逃げる人のいた小さい時からずっと繰り返してきたこと。もうたった一人になってしまっても、懲りずにこうして生き続けている。精霊が傍にいてくれたけど、彼は気紛れでいるのに過ぎない。決して友達、ましてや家族とはとてもいえない近くて遠い存在。何度かもう捕まってしまおうか?と思ったことがある。その度自分を逃がすために代わりに捕まっていった人のことを思い出す。そして一番最後まで一緒にいた母がいつも、何度も言っていた言葉が脳裏に浮かぶ。
『今が少し間が悪いだけ。きっといつか私達は幸せになれる。私達は決して誰かに食い物にされるためだけに生まれてきたわけじゃない。』
誰よりも明るく前向きで、希望を信じている人だった。希望を忘れるな、生きていればきっといつか幸せになれる。そう言った母も、俺を逃がして捕まってしまった。逃げる俺にいきなさい、と言って。だから俺は生きないといけない。生きて、逃げて。そしていつかきっと幸せに。
そんな思いも、孤独な逃亡生活で薄れてきたそんな頃
俺は彼女に会ったんだ。
サヨという、人間の少女に。
ある日、捕まって両手両足縛られて絶体絶命と思ったときに、精霊が転移してくれて辛くも逃げられた…のだが、転移先がまさかの崖の上。しかもギリギリ落ちるところ。なんとか石にかじり付くことで落下は防げたものの、少し先に延びただけでどう考えてもお陀仏な未来。これは終わったな、と思いつつかじり続けて数分たっただろうか。
「……!」
目を見開いてこちらを見る少女の姿が目に映った。物語に出てくるような、美しい少女だった。漆黒の絹のような長い髪。濃い茶色の瞳。見慣れぬ民族衣装は高価そうで、少女の身分が高いことが分かる。手に果実を持っていることから、ここには散歩か何かで来たのだろうか?
「……!」
ハンターでないと自分がドラゴンかどうかなんてわからない。俺は助けを求めようと声を上げようとしたが、ふーっふーっと荒く息を吐き出すことしか出来ない。しかし何かいいたいのか分かったのか少女はこちらに駆け寄ろうとして…止まった。
「……!!」
何故考えるような顔をして止まったんだ?反応から多分ハンターではないことはほぼ確定だ。そして俺達ヒュムドラゴンは一見人間にしか見えない。なら助けてくれてもいいではないか!
「……!」
何故助けてくれないんだ、どうして!俺はこんな所で死ねない、死にたくない!生きて、きっといつか幸せになるって…だから見捨てないで、助けてほしい。どうか、どうか…
「……!!!」
力が抜けてきた。もう、駄目だ限界だ。そこで、ふと気付いた。自分は両手両足縛られた怪しい人間。そして少女はか細いとても俺を引き上げれそうな腕には見えない育ちの良さそうな少女。俺を助けようとしたらきっと彼女まで落ちてしまうだろうし、彼女からしたら俺は危険な男に見えるだろう。しかし、彼女は優しいのだろう、泣きそうな顔で俺を見ている。こんな優しい少女を巻き込むわけにはいかないだろう。だから仕方ない。こんな綺麗な少女を見て逝けるんだ、それでいいだろう。
「…、……。」
でも、やっぱり…死にたくないな。
結論から言えば俺は少女に助けられた。
助けられる前に俺は意識を失ったから最初は誰か他の人が助けたのか?と思ったがどうやらあんな虫も殺したことがないような見た目でも凄腕の冒険者で、俺を助けてくれたと起きた俺に精霊が教えてくれた。起きた時には少女はすでにいなかったが、自分を害するような人に見えなかったから休ませて貰うことにした。
帰ってきた少女は、やはり優しい人だった。礼を言えば、見捨てようとしたことにかなり気を病んでいた。結果的に助けてくれたのだから俺はいいと思うのだが、良心が許さないらしい。ならば、と少々いやかなり厚かましいが、気に病んでいるなら住まわせて欲しいと言えば、困った顔をして悩んでいたものの結局許してくれた。お人好しすぎるのではないだろうか?騙されそうで心配だ。
サヨはドラゴンの心臓を食べる。ドラゴンハンターか?と思い聞いてみたがそもそもドラゴンハンターという単語を知らないらしく、怪訝な顔をした。その後正体を探るなと言われたし、サヨも訳ありらしい。気になってつい聞いたら幼子を相手するかのように懇切丁寧にいかに自分が正体を探られたくないかか語ってきた。今は反省している。
少々それでギクシャクしてしまったが、お風呂に入ろうと思ってお風呂がないことに気づいて精霊に作って貰ったら、すごく感謝されてなんとか仲良くなれた。それから、外は人外魔境で俺が出たら間違いなくお陀仏と精霊に教えてもらったのでサヨの家でゆっくりまったり過ごしていた。しかしどこからでも情報が出てくるのだろうか、しばらくして家をドラゴンハンターに襲われた。上から変に物音がすると思ったら急に扉が開いて奴らは現れた。実は俺が今まで過ごしていたここは地下で、上の部分は罠だらけだったらしい。てこずらせやがって、と言う彼らの殺気を当てられながらなんとか俺は逃げ道を探していた。そこへ、サヨが現れた。サヨは現状を見るなりすぐに俺を庇ってくれたが、それは俺がドラゴンであると知らないからだ、と思うと胸が苦しくなる。サヨが優しくて、ここでの生活が楽しくて、黙ってしまっていた。俺はサヨを騙している、それが心苦しかった。。だからドラゴンハンター達のリーダーが何故ドラゴンを庇うのか、と叫びサヨが俺にドラゴンであるか聞いたとき、絶望的な状況なのに、救われるような気持ちになった。素直に答えた。嫌われるだろう、それでももうこれ以上黙っているのが辛かった。サヨになら殺されても良い。そう思えるほどサヨのことが好きになっていたから。だから…ドラゴンと知って尚俺を受け入れてくれたサヨに取り返しがつかないまでに恋をしてしまった。
サヨといると楽しい。あれから俺が弱過ぎるとサヨが訓練を提案し、最近では俺も強くなって一緒に狩りにいけるようになった。そしてサヨの友達というエネミーとも仲良くなった。三人で果実を食べるのがここ最近の当たり前になっている。ここでとれる果実より甘い、高価な果実などよく精霊がくれたけどそんなのと比較できないほど美味しく感じる。誰かと一緒に食べる、それはとっても幸せで…
生きていて良かった、と思えたんだ。
こんな生活がいつまでも続けばいい。そしていつか、この思いをサヨに…なんて、ね。




