今日はいい齧り日和だ
雨にも負けず風にも負けず
そんな感じで今までは頑張っていたけれども。
「今日は雨ですし家でゆっくりしますか。」
いつも通り朝食を取ったあと、私はそう馬鹿男に言った。
馬鹿男の想定外の戦力っぷりに生活に余裕が出来てきた。具体的には今日のように雨の日は家でゴロゴロできるぐらい余裕である。馬鹿男は筋力極振りと言っていいステータスらしく速度防御は鈍足紙装甲なのだが火力が高い。とりあえず持っていた武器から適当なのを選ばせたら 方天画戟 (ぽいの)を選んだ。なかなかお目が高い、私も使えたら絶対に使っている武器だ。残念ながらクラス適性も必要筋力もまるで足りなくて、いつか使おうと倉庫のこやしにしていたがまさか役に立つとは。そうして命中の低さを範囲でカバー、結構致命的な紙装甲さえ目を瞑ればいい前衛だ。紙な上とろいから攻撃受けまくってすぐ死にかけることを気にしなかったら頼もしい前衛だ。…頼もしいどころか目が離せないな。まあ、それでも前のように一人でやるより精神的にも肉体的にも楽になっている。だからこうして怠けているわけだが。
「暇、ね。」
時間があるというのは素晴らしいがこうも時間があると何かしたくてうずうずする。勿論ここで狩りに出かけたらいつも通り、まあそれもそれでいいかもしれないが今日はゆっくりする休みの日と決めたのだから却下である。さて、そうするとやることはというと…
…何もないな。
やることもないし家を徘徊するのもいいかもしれない。何か新しい発見があるかもしれないし。そうと決まれば布団からさっさと出るか。食後なのに寝転んでいたせいか少し気分が悪いが仕方ないだろう。
「あ、サヨ。どこかいくのか?」
部屋を出るとばったり馬鹿男と出くわした。普段家にいないから家で留守番していたころ何していたか知らないけど、もしかしたら何らかの暇つぶし方法を知っているかもしれない。丁度いいから軽く探ってみよう。精霊とお話とかだったらどうしようもないけど。
「いえ、部屋の掃除でもしようかな、と。普段忙しくてさぼりがちですので。ケテルは?」
まさかあてもなく家の中を徘徊している…なーんてことはないよね。ないよね?
「いや、サヨが暇ならお話しようかな、と思って。」
でも忙しいんだよね、としょんぼりしつつも少し期待するような目でこっちを見てくる。確かに掃除しようとか言ったのは方便で実際には各部屋ごとに浄化作用のある小道具が置いてあるから、使っていないのなら勿論使っていてもあまり汚れていたりはしない。だから掃除は急を要するものではないのであるが、人として綺麗と言われてもちゃんと掃除しないとなんとなく不安になる。なので掃除したい、のだが…。
きらきらした目でこちらを見ないでほしい。
「いえ、浄化作用のある小道具を置いてあるので問題ありません。お話ししましょうか。」
は!しまった口が滑った。
ぱぁっと顔を輝かせる馬鹿男を見ると前言を撤回するのが憚られ、結局私の部屋で話すことになった。一応部屋には対談用のテーブルとソファがあったのでそこに座ってもらって水と食べ物を用意する。食べ物は趣味で作った果実で作ったケーキ(っぽいもの)だ。食べられる味にはなっていると思う。しかしケーキを食べるのに水というのはやはり微妙。お茶とか栽培できないだろうか。
……む。なんか沈黙が続いてしまった。馬鹿男は視線を彷徨わせているし、もしかして話すことはないけどとりあえず何か話そうかな、と思ってきたのだろうか。そして話題がなくて困っているという感じだろうか。じゃあ私から話題を提供してみようか。
「そういえばケテルは普段家にいるとき何をしているんですか?ここには娯楽などないので、やることがないと思うのですが。」
まず聞きたかったことを聞いてみる。ゲームも本もなにもない、外は危険なこんな閉鎖空間で何をしていたのか。すごく気になる。現に私は今暇を持て余していたのだし。聞いた話だと精霊は気紛れだからいつも精霊と話すというわけにもいかないし、何かやっていると思うんだが。
「…笑わないか?」
成程すごく面白いなプギャー!…冗談です。
しかしなんで目をそらしてほほを赤らめる。そんなやましいことをしているのか?こっそり食べ物で遊んだり、戦隊ごっこのようなことでもしていたのか?まぁどちらもやるには年が大きすぎるが私はちっとも構わないよ、生暖かい目で見るかもしれないけど。ちなみに私は恥ずかしい趣味はない。決してない。こんな年になってぬいぐるみが好きとかそんなことは決してない。
「…し、を。」
塩?塩をなめるのが好きとか?そういう妖怪いたような気がする。塩舐めドラゴンとか新しくてすごくいいと思うよ。ところでうちに塩なんて調味料あったっけ?
「詩を、書くのが…好きで。」
ほほう!私はその手の才能がさっぱりないから羨ましい!どんなのを書いているんだろ?14歳的な奴か?意外としんみり系か?もしくは叙述詩とかそういうのか?ぜひ見たい。
なんとか抵抗する馬鹿男を丸め込み、ポエム集を見ることに成功したのだが…
すごく、乙女です。
なんというのか、甘酸っぱいのから胸が締め付けられるようなものまですごくピンク色というか恋愛の匂いがプンプンするというか…ようするに乙女だ。小学生とか中学生の女の子が書くならば兎も角いい年したエロボイスのモブメンがこれを書いたと思うと…ちょっと朗読して欲しい。
「ケテル、ちょっとこr…。」
ポエム集から顔をあげて馬鹿男の方を見るとシーツの塊が馬鹿男のいたところにできていた。ちょっと朗読してほしかったのだがあの調子では少し酷だろう。なるほどこれが黒歴史という奴か。
>そっとしておこう
ぱらりぱらりと読み進める。最初は色々書いていたが最近は塩を吐きたくなるくらいゲロ甘なものばかりだ、ご馳走様です。どんな気持ちでこれを書いていたのか小一時間問い詰めたいが、かわいそうなのでやめておこう。14歳を発症したことがある人に当時の映像を見せてNDK?NDK?というようなものだ。あとは17点のテストをクラスにばらまかれる様なものだ。
…でもちょっと音読してほしいな、これ。出来いいし。
チラリとシーツの塊の方を横目でみる。微動だにしていない、ただのシーツの塊のようだ。
「ケテル?」
呼びかけても返事がない。近寄って突っついてみる。やはり反応はない。精神的ダメージが大きいようだ…。さてどうしよう。このまま放置するのも手だがこうなった原因は私にあるのだしなんとかしてあげたいが…うーん。そういえば昔同じようなこと弟にして思いっきり拗ねられたな。あの時は確か…
「よーしよーし。」
シーツの塊をぎゅっと抱きしめて頭(と思われる部分)を撫でる。びくっと震えるが想定内。落ち着いて、いい子いい子と撫で続ければ体の強張りもだんだん緩んでいく。赤ちゃんと動物をあやすなら私と言われた程の腕、見せてあげよう!よーしよし、いい子だなーお前は。
だんだん落ち着いてきたと思ったら、しばらくして急にまたぷるぷる震えだした。小さな声でなにやら言っているが全く聞こえない。どうしたのだろう?大丈夫だよー私コワクナイヨー。馬鹿男程度捻り殺せるステータスだけど怖くないよー。
「は、はなして…!」
話して?やっとはっきりと聞こえてきた内容に首をかしげる。もしかしてなんとなく居たたまれない気分にでもなったのだろうか。
「ごめんなさいね、ケテル。無理やり読んでしまって。大丈夫ですよ、とても良い詩だと思います。」
だから恥ずかしがらなくてもいいんだよ、なーでなーで。実際にいい詩だよ、胸を張ってもいいと思うよ、確かにちょっと男が書くような内容ではないけれどそれもまた人それぞれの個性だよ!恥ずかしくないよー、すごくいいよー。
「あぅ…うー…。」
まだなにやらもごもご言っているがシーツの塊はおとなしく撫でられていた。
今日は心臓を齧るには最高の日だ。まったりしながらのんびり雨の音を聞きつつ食べれるとか本当に幸せだなーと思う。
「……。」
シーツの塊は頭だけ出してシーツの妖精に進化して布団の上に転がっている。一緒に食べるか?と誘ったのだが顔すら向けずに拒否して転がったままだ。大丈夫だろうか。たまに小さな声でなにか呟いたり布団の上でゴロゴロしたり一体どうしたというのか。残念ながら私は心理学などの勉強はしていないし仮にこの世界に精神病院などに類するものがあっても連れていけないので、頭の方の病気なら自力で直してほしい。
しかし今日もドラゴンの心臓は上手い。




