友好的なドラゴンでも齧れますか?
突然の出来事に冷静に対処できる人を私は心から尊敬する
家に帰った私の目に映ったのは破壊された家の扉。壊しつくされた罠、そして無理やりこじ開けられたように見える地下への入り口。
急いで下に降りた私が見たものは
数十人の武装した人間を引き連れた豪華な鎧を着た男と、彼らに追い詰められている馬鹿男の姿…
「…!サヨ、逃げろ!」
私に気づいた馬鹿男が真青な顔をさらに悪くして叫んだ。私は予想していなかった光景に軽くパニックを起こして茫然としていた。そんな隙を見逃すはずがなく、武装した人間が5人程殺気立って剣を手にかけてこちらに走り寄ってくる。殺される!?と思った私の体は頭で考えるより先に行動を終わらせていた。
一閃・峰打ち。名前の通り、威力は半分になるが相手を殺さずにできるスキルだ。捕獲などないドラかじでは死にスキルに思われるが、このスキルの最大の特徴は高い麻痺率である。固い敵を麻痺らせる為の技であるがまさか本当の意味で使う日が来るとは。
全員を無力化することに成功、勿論息があることも確認してほっと息をつく。
「き、さまぁ!!」
残りの人間、27,8人ぐらいの内10人ほどが怒りに顔を赤く染めて剣を引き抜いた。殺したと勘違いしているのか?しかしすでに私も戦闘態勢に入っている。『瞬獄・桜』を使って馬鹿男の元まで駆け寄って庇うように立って武装集団と対峙する。それなりの装備で隊列もしっかりしていることからただのごろつきなどではないだろう。指揮官と思われる豪奢な鎧を着た男が手で制すればすぐに剣を収めた所を見ればよく訓練された傭兵、いや騎士団にすら見える。あっさり無力化出来たところから戦闘能力は馬鹿男を庇いながらでも掃討は容易いレベルだろう。上のトラップハウスを潜り抜けたという点では骨があるかもしれないが、強引に地下への通路をこじ開けているなど、やや力任せにするように見受けられる。結論、想定外の出来事が起きない限りこちらの損害を軽微に留めて事を収めることが可能である。
「そう警戒しないでほしい。こちらは君を害する理由はまだない。話し合おう。」
まだ、とか言っている時点で警戒しないわけがないだろう。更にいうならすでに害する理由があるだろう。未だに私が峰打ちした連中が気絶しているだけと気づかないで殺していると思っているみたいだし。仲間を殺されておいて害する理由がない?ちゃんちゃらおかしい。現に自分自身の殺気すら隠しきれていないのによくもぬけぬけといえたものだ。油断させておいて、という奴なのだろう。
「話せばわかる、という人間には問答無用というのが私の国の礼儀なのですが。」
そう言ってにっこり笑いながら太刀を油断なく構える。目の前の集団は勿論周囲にも隈なく注意を向ける。この前のドラゴンの二の舞にはならんぞ。奇襲できるものならしてみろ!
「…貴方はその男に騙されているんだ。」
人をだまそうとする人間は大体まずそうやって他の人間を悪者扱いするんですよ、JK。そもそも騙す騙されない以前に私はこの男のことなにも知らないし信頼もしていない。万が一襲ってこられても対処できるという自分の実力に対する信頼ならあるが。しかしいくらこの馬鹿男を信頼していないといっても目の前の集団よりは信用している。
「人が丹精込めて作ったトラップハ…屋敷を壊す人間の言うことなど信用すると思いまして?」
見たところ地下はあまり破壊されていないが、上のトラップハウスは立て直すレベルの壊されっぷりである。悪乗りの産物とはいえ自分が作ったものをあそこまで破壊されてははっきり腹が立つ。解除とか考えなかったの?脳筋集団かなにかか?しかも地味に気に入っていた扉は完膚なきまでに破壊されている。可愛らしいメイフィーを似せたドアノブとか凝った彫刻とか最近ちょっとずつ手を入れていたのに…。アイアンメイデンにつっこんでやろうか、こいつら。
「…あれはあなたが作ったのか。」
愕然とした顔でそう言ってくる。
確かに私は日曜大工も出来なさそうな大和撫子風だがそんなに意外だろうか?やはり女が建築するとは思えないのかもしれない。
「…なんでそんなに!」
指揮官らしい男が涙をためてこちらへの敵対心を隠そうともせず睨みながら言う。周りの武装集団も全員剣を抜いている。憤怒の顔だ。やだ、怖い。
「そんなにそのドラゴンを庇うんだ!」
…ふぁ?
なんでそんなにドラゴンを庇うのか。…ドラゴン?私が庇っているのは馬鹿男だけなのだが。ちらりと後ろを見ればやはり馬鹿男しかいない。ふぬ。ということは目の前の集団の言うことを鵜呑みにすれば馬鹿男はドラゴンということになる。このどうみても人間にしか見えない男が。しかもなんか精霊とかいう訳の分からない生き物と知り合い(?)なこと以外特になんか能力もなさそうな戦闘力も低そうな男が。…そんな阿呆な。
「…ケテル、ってドラゴンなのですか?」
一応聞いておこう。このどう見ても人間にしか見えない男はドラゴンなのか。そんなわけないな、とは思うのだが念には念を入れてということがあるだろう。昔クラスメイトにすごく可愛いおかっぱの子がいていつもふわふわのドレスとか着ていたけど実は男だった、というとんでも事実とかあったし。プールまで誰も気づかなかったな、あれは。
「ああ、そうだけど。」
うん。やっぱりそうだよね、馬鹿男はドラゴン…はい?
前の集団から目を離すわけにはいかず、振り返ることもできないまま硬直してしまう。ドラゴン?誰が?馬鹿男が。ほうほう。つまり馬鹿男は実はドラゴンでエネミーで私の敵だったと。…ほうほう。ほうほう?つまりなんだ、私は敵を助けて敵を自分の家に住まわし敵を養っていた、と。…うほうほ?
「まさか…その男がドラゴンであることを知らなかったのか?」
私たちの会話を聞いていたのか思考停止している私を信じられないという目で見ている指揮官。ああ、知らなかったとも、全然気づかなかったとも!だってお互い自分の身の上なんか話さなかったし興味なかったし…というか人型ドラゴンがいるなんて私全然知らなかったぞ!ん?ちょっと待てよ…私ほぼ毎日馬鹿男にドラゴンの肉食べさせていたような…あれ、同族食べさせていたのかもしかして。というか本当にこの馬鹿男はドラゴンなのか?だって人型だよ?あるえ、あっるえー!?
「今まで黙っていてごめん、サヨ。サヨはドラゴンハンターだから、知ったら殺されると思って…。」
いあいあいあちょっと待て馬鹿男、どう考えても君は全くドラゴンに見えないよ本当にドラゴンなの?そこの怖いお兄さんたちに脅されてそう言っているだけじゃないの?というか実際にドラゴンってもし仮に言われてても私絶対信用しなかったからその心配は実に杞憂だよ現在進行形で信じてないし。待て、みんなちょっと待ってくれ私は全然現状を理解していないぞ!?そんな冗談としか思えないことを至極当然のような真剣な顔でいわれても困るぞ、わからないぞ!?
「いや、君に殺されるならいい。でも、君との生活が楽しくて…ずっと、この生活が続けばいいなって、甘えてた。ごめん。」
……やばい本当にさっぱりわからない。急展開すぎる。ばあちゃん私どうすればいい?なになに、難しく考えるから悪い。どうしたいか、どうすれば自分にとって良いのかを考えろ、と。…ほむ。なるほどわからん。したいことなんて特にないし、自分にとっていいことはこの厄介ごとを速やかに解決することでその解決方法がさっぱりわからない。…む?いやよく考えたら、いやよく考えなくても単純なことだった。
「ケテル、貴方は私の敵?私を害する?」
単純明快。この世界の常識なんかさっぱりわからない私には結局馬鹿男が本当にドラゴンなのかそうでないかなんてさっぱりわからない。そして私にとって大事なのは馬鹿男がドラゴンであるとかドラゴンでないかではない。馬鹿男が自分の敵かそうでないか。世間から離れてワイルドライフを送っている私にはそれだけが重要だ。
「いや、でも俺はドラゴンで…。」
わからん奴だ。正直馬鹿男が実はゴーレムであろうが食人鬼であろうがホムンクルスであろうが正直須らく全くもってどうでもいい。今はそんなことが問題なのではない。ペットが人間と思ったらドラゴンだっただけだ、そう大差ない。問題なのは、これからも友好的であるかどうかだ。私達、いや私は未だ馬鹿男のことを信頼していない。だから、たとえ嘘でも口にして欲しい。そうでなければ信用することすら出来ない。
「ケテル。私との生活が楽しかったというあなたの先程の言葉が偽りでないのなら、私はそれでいい。今一度問いましょう、あなたは私の敵ですか?」
ようやく理解の遅い馬鹿男でも悟ったようだ。一瞬瞠目して、泣きそうな顔で笑った。
「俺は、サヨの味方だ。俺はサヨの傍にいたい。」
よし、問題解決。
「さて、ではそこの不法侵入者達。私は面倒が嫌いです。速やかにここを去り、二度と訪れないなら見逃して差し上げます。しかしそれが約束できないならば……。」
太刀を振るう。まぁ、命までは取るつもりはないが。
しかしこう脅せば勝手に勘違いしてくれるだろう。
「選ばせて差し上げます。」
にっこりと笑う。さて、この脳筋どもが多少は頭が回ればいいんだけど。
「ケテル、そういえばドラゴンの肉、大丈夫なんですか?一応同族でしょう?」
無事厄介事を片付けご飯タイム。脳筋どもに壊された屋敷は応急処置をして明日修理する予定だ。今日はお風呂でゆっくり休もう。
「別の種族だし全く問題ないよ。でもサヨこそ大丈夫なのか?顔が真っ青だぞ?」
真っ青…?
そう言えばあんな風に人から殺気を向けられるのは初めてだった。こちらに向かってきた五人は死んでいなかったとわかって多少は緩和したが、あの時の妙に高揚しているような気分が落ち着いた今、身震いしそうな程ぞっとする殺気だった。
勿論ああしたことを後悔していない。
馬鹿男をあいつらに引き渡すなんて万が一にも有り得ない。
それでも…あれは、怖かった。
「…別になんでもないですよ。」
ここで弱音を漏らせば馬鹿男はいらぬ罪悪感を抱く可能性がある。だから私は弱音を吐くわけにはいかない。馬鹿男には胸を張ってここにいてもいいと思って貰いたい。変に気を使われたら困るし。
「ちょっと疲れただけです。」
そう言うと、馬鹿男はまた泣きそうな顔でありがとうと言ってきた。なんのことかさっぱりわからないな。




