この国にいれば誰も女神とオマエを結びつけないよ、と従兄弟は言った。
南国への出国は簡単だった。
「これは!レオナルド様…??」
「やあ、ご苦労様。ウチの又従姉妹姫御一家だよ。」
こちら側の検問は直立不動ですぐに通してくれた。
「まさか。レオナルド様もおいでとは。」
あちら側では叔父のフリッツ公爵と従兄弟のデビット様が迎えに来ていた。
母と同じ…そして私とも同じ黒い豊かな巻き毛の髪を揺らして。
「久しぶりだね、フリッツ公。それからデビット君。学園以来じゃないか?」
「は、レオナルド様。」
兄とレオナルド様とデビッド様はリンデ学園で同級生だったのだと聞く。
「なるほどねえ。こうして並ぶと似てるね、キミ達。」
「ええ、アルヴァは私の姉にそっくりですからね!」
叔父は微笑む。
「…アルヴァの見かけはこの国では良くあるモノです。…彼女を見てすぐに女神を連想するものはいないでしょうね。」
従兄弟が私とレオナルド様を交互に見ながら言う。
「ああ、そうか。…北国の女神信仰は異常だ。」
「ええ、あの国は国土の1割が雪と氷に閉ざされています。女神はそれを溶かして…暖かさと豊穣さをもたらすものなんでしょうが…」
そこで口元を上げて笑う。
「ウチの国は常夏の国だ。飢えたことは有史以来ありませんからね。いつでも何かが実っている。
女神の祝福が無くても、ね。」
そうだ。南国が1番女神信仰が薄い。特に王家の姫を乞うては来なかったのだ。
「そうだね、デビット君。私が言うのもなんだが、彼女を頼む。」
安心した表情になるレオナルド様。
迷ったが、言っておかなくては。
「レオナルド様。最後にひとつ、老婆心ですが。」
「なんだい?アルヴァ。」
「…ネロリにくれぐれもお気を付けください。
特に、お妃のヒナコ様に。
彼女から渡されたものを食べたりしないように、と。」
「そなた!何を。」
レオナルド様の顔が歪み、周りを見回すと兄も父も頷くのを見て真剣な表情になられた。
「…もちろん、ネロリへの私の嫉妬心と猜疑心と切って捨てられても結構です。」
私もあの婚約破棄から色々と考えたのだ。
「ただ今、ヒナコ様は身重です。王子様がお産まれになる可能性は高いです。何しろここ三代王家に姫はいらっしゃいませんから。」
「つまり?」
「ネロリは上昇志向が強い。お二人にお子が出来なければ。そして自分に子が出来たら。」
「…王位を狙うということか。」
「……はい。」
「下手をすれば私自身もか。」
「御身お気をつけて。」
「わかった。やはりそなたは頭が回るな。昔から歳の割にはしっかりしていた。」
「私の中の前世の記憶がそうさせます。それが、娘らしくなくて…
ラディル様のお気に召さなかったのでしょう。」
苦笑する私。
「ありがとう、そなたの心配と意見はしっかりと受け止めた。
でも、これからは自分のことも考えなさい。
私に出来ることはなんでも言ってくれ。
…アルヴァに何かあったらシルヴァンに顔向けできないからね。」
そう言って美貌の王子様は去って行った。
「やれやれ。相変わらず恋心を引きずっておられる。
でもま、悲恋のヒーローの姿もあの人には似合うね。やはり美男だからか。
それに耳に痛い意見もちゃんと聞かれた。あの方は立派な王になられるかもしれないな。」
「デビット様。」
「アルヴァ、昔と同じにデビット兄さんと呼んでくれよ。」
太陽のように笑う従兄弟。
「まあ、そんな。でも、はい。」
「ねえ、伯父さまにゴーディさん。今日はウチに泊まっていってよ。ご馳走を用意してますからね。」
そしてデビット兄さんは、私達にウインクをした。
今までの重苦しい雰囲気をからりと吹き飛ばす明るさ。
それは彼の天性のものだ。
「ああ…そうさせてもらうか。色々と話したいこともあるからな。」
父も穏やかな表情で頷いた。




